大河ドラマ「どうする家康」の瀬名役・有村架純。
家康とともに戦なき世を目指す決意をした瀬名だったが、
企てが世に知れ渡り、かつてない窮地に立たされることに――。
有村に瀬名の思いや第25回の見どころを聞いた。


――これまでの「どうする家康」の撮影を振り返っていかがですか。
クランクインしてから第6回「続・瀬名奪還作戦」までは、いつも以上に集中しなければならないシーンの連続でしたので緊張感がありました。撮影が進むにつれて、いい意味でその緊張が体になじんでくるといいなと思っていたのですが、予想していたよりも張り詰めた感覚がなくなりませんでした。

私自身緊張するとあまりしゃべれなくなってしまうので、この半年くらいは現場では静かに過ごしていることのほうが多かったですね(笑)。

今振り返ってみても、瀬名のシーンは重要な場面が多くて、肩の力を抜いて撮影することは少なかったですね。そのため、瀬名の気持ちをどのシーンまで持っていくべきかなど、彼女の心情のつながりをパズルのように組み立てながら演じていました。

その後、瀬名の企てが動き出す第19回あたりからは、彼女の決断や動向も含めて、怒とうのように撮影していった感じだったので、私の中にはどのシーンも印象深く残っていますね。


――戦国の世を生きる女性を演じて、実感されたことはありますか。
いちばん思うのは、瀬名にとっては殿(家康)の存在が大きかったこと。殿の正室である以上、結婚したときから「死ぬときは共に死のう」という覚悟のもと、心中するつもりで家族になったと思うんです。それは何か殿が過ちを起こせば、正室である自分も処罰される時代という宿命もあります。

ただ、瀬名を演じるうえで、そういった危機感を常に持ち続けるべきなのかを考えたとき、この「どうする家康」においては、瀬名の重すぎない温度感というのが、松本(潤)さん演じる家康にとっていいのではないかと感じました。

それは、脚本の古沢良太さんの作風でもありますし、“戦国の世に生きる女性”というよりも、“殿が安心して「帰ってきたい」と思える女性”になることを心がけながら演じました。


――家康と瀬名の夫婦像については、どのように感じていましたか。
瀬名としては、ずっと歩き続ける殿を隣で見守りながら、つまづきそうになったときにそっと手を差し伸べる存在という感覚がありました。殿の考えや言うことをなるべく否定せずに、殿のいいところをたくさん伸ばしていく妻であるべきなのかなと思いましたね。

そうは言っても、人間同士なのでぶつかることもありますし、そういうときは殿を諭すように言いつつ、暴走しそうになるのを止めていました。夫婦像としては、瀬名が上に立つのではなく、いつも隣にいてあげて、いなくなったら殿がとにかく困ってしまうという関係性だと言えますね。

そう思うと、すごく現代の感覚に寄った夫婦像なのかなと。撮影が始まったころに古沢さんとお話ししたときも「瀬名は、割と現代に(感覚が)近い女性かもしれません」とおっしゃっていたので、その通りの感情を持ち合わせているのでしょう。

本来、戦国時代の重厚で緊迫感のある正室像を瀬名に求めていた方もいるかもしれませんが、今作の瀬名は現代を生きる私たちに近い温度を感じさせる女性なのだと実感しました。


――第24回で、瀬名は家康とともに戦なき世の実現に向けて動き出しましたが、瀬名の思いはどのようなものだったと想像されますか。
監督とお話しして気づいたのが、瀬名の企ての大きな理由は殿なんですよね。常に殿の存在が瀬名の中心にあるので、殿が目指していた戦のない世を作ることを成し遂げたい――。それは、駿府で出会ったときからずっと殿が胸に秘めていた思いを、傍らで見てきた瀬名が感じ取っていたからだと思います。

戦で多くの家臣が亡くなったことに対する殿の悔しい気持ちを、もちろん瀬名は感じ取っていたでしょうし、苦しむ姿を何度も見てきたはずです。決して戦なき世の実現を「殿の代わりに私が実現する」という思いではなく、「殿の夢を一緒に追いかける」という一心で、企てを決意したのだと感じました。


――瀬名の決意には、嫡男・信康の変化も大きかったのでしょうか。
そうですね。道理なく僧を殺めたという信康の姿を見て、これは異常だと瀬名は察知したと思います。虫も殺せないくらいやさしかった子が簡単に人を殺めるようになるなんて、ショックも大きかったでしょう。

武士とはいえ、親としてはただ事ではないと感じていたし、まだ若い信康が抱える心の負担を、瀬名は複雑に受け止めていたと思います。そのため、戦なき世を目指すというのは、息子を守りたいという瀬名の正義、使命感のようなものも働いていたのかもしれないですね。


――これまで一緒に撮影をしてきたからこそ、家康役の松本潤さんに伝えたいことはありますか。
1年半の撮影はとても長いですし、精神的な面も肉体的な面も含めて、自分自身との戦いでもあると思います。去年の5月から撮影がスタートして、放送が始まる1月までは世の中の反応を見られない状況で撮影し続けなければなりません。

連続ドラマの場合、最終回まで台本がない中で撮影するので、そういった不安定な環境でも自分自身を保つ必要があります。それだけでも大変なのに、松本さんが現場の真ん中に立って、共演者やスタッフの皆さんに声をかけながら引っ張っている姿を見ると、大きなものを背負われているのだと感じます。

それを思うと、撮影がない休みのときは、松本さんもお友達と会うなどして気分転換してほしいですね。これからの物語も、変わりゆく殿が描かれていくと思いますし、どう変化していくのかを私も視聴者の皆さんも楽しみにしているので、最後まで元気に乗り越えていただきたいと思います。


――最後に第25回の見どころを教えてください。
第25回の台本を最初に読んだときは涙が出てしまいました。古沢さんも力を込めて脚本を書かれたようで、「書くのが苦しかった」とおっしゃっていたことをプロデューサーさんからも聞きました。

第25回のクライマックスは、大河ドラマの厳かな雰囲気がありながらも、現代的な要素も感じ取れるシーンになっています。そして「戦国時代はこういう時代だから、こうなんだ」という決まりがある中でも、「生きたい」「死にたくない」という思いが表現されています。

戦国時代に生きる人々の潔さよりも、現代の私たちに寄り添った回になっていると思いますので、多くの方に見ていただけたらうれしいです。

駿府で出会い、夫婦となった家康と瀬名。ふたりの運命は……。

有村 架純(ありむら・かすみ)
1993年生まれ、兵庫県出身。2010年に俳優デビュー。2017年には連続テレビ小説「ひよっこ」でヒロインを好演。NHKでは、連続テレビ小説「あまちゃん」、「太陽の子」、「拾われた男 LOST MAN FOUND」などに出演。