大河ドラマ「どうする家康」で、五徳を演じる久保史緒里。
信長の娘として、家康の嫡男・信康に嫁いだ五徳。
両家をつなぐ大事な役目を担う中、信長から密命が!?
久保に五徳役への思いや撮影エピソードを聞いた。
――「どうする家康」の出演が決まったときの率直なお気持ちを教えてください。
大河ドラマに出演する日が来るなんて思っていなかったので、驚きが大きかったです。しかも、織田信長の娘である五徳を演じると聞いた瞬間、背筋がピンっと伸びましたし、一層頑張らなければならないなと思いました。
実際、撮影に参加させていただくと、「これぞ大河ドラマ」という独特の緊張感があります。日に日にそれに慣れていければいいなと思っていたのですが、いろいろなシーンを撮影していくので、毎回違う緊張感を味わっている感じがして、常に緊張していますね(笑)。
――五徳の人物像をどのように捉えて演じていますか。
五徳は、織田家と徳川家との同盟の証しとして、家康の嫡男・信康様のもとに嫁ぎました。政略結婚ですので、両家をつなぐ役割を担う立場ですが、ときには板挟みになったり、ときにはかき回したり。どちらの味方なのかわからないときもあるので、心情を表現するのが難しい人物です。
また、古沢良太さんの脚本を読むと、五徳の気の強さが言葉に現れている部分はありますが、その裏側には父上や徳川家に対する思いや、やさしさが込められています。それは、時折見え隠れする五徳のやさしさと言いますか。
年齢が若い分、自分の本当の思いをストレートにぶつけられるほど器用ではないので、ドラマを見ていただく方に、そんな彼女の人間性が伝わるように意識して演じています。
――同盟の証しとして徳川家に嫁いだ五徳には、葛藤があったと思いますか。
すごくあったと思います。幼くして信康様のもとに嫁いだ五徳ですが、織田家と徳川家を結びつけることが自分の役割だということをちゃんと理解していたと思います。
でも、その一方で、信康様や徳川家の皆さんと過ごす中で、家族の愛情や温かさへの憧れも強くなっていったのではないでしょうか。自分の果たすべき役割と妻としての幸せ――その葛藤と常に闘っていたのかもしれません。
――徳川家に対する思いの部分で、五徳の心が変わる瞬間はありましたか。
第20回の放送で、武田との戦で負傷した徳川軍の兵たちの手当てを拒んだ五徳に、瀬名さんが「そなたも三河のおなごであろう!」と怒った場面がありましたが、この言葉は五徳の心を大きく変えるものだったと思います。
とっさに「わたくしは織田信長の娘じゃ!」と反論しましたが、それまでどこか徳川家の一員になれていないと感じていました。徳川家の温かな家族の形に憧れを抱きながらも、その一員になれていないもどかしさがある中で、瀬名さんからぶつけられた言葉。五徳自身もその言葉の意味を少しずつ噛みしめていたはずです。
結果、これを機に、五徳の心には徳川家への愛情というものが強くなっていったように思います。
――同時に、夫・信康への思いも変わっていったのでしょうか。
変わっていったと思います。結婚した当初はお互いも幼かったですし、愛情があったかと言うと、そうではなかったかなと。ただ、成長するにつれて、信康様が自分の思いを父・家康に進言する姿や、悩みながらも自ら意志を貫いて行動する姿を見て、頼もしく感じていたと思います。
五徳自身も、信康様のように自分の父親に対して物申せたかと考えると、できなかったでしょうし、うらやましく思えたのかもしれません。そして、それがだんだんと尊敬のまなざしへと変わり、愛情も強くなっていったのではないでしょうか。
――義母である瀬名は、五徳にとってどのような存在だと感じていますか。
史料によると、瀬名と五徳は仲があまり良くなかったと言われていますが、五徳もまだ若いこともあって、母親にすがりたくなる瞬間や、義母だからこそ自分の気持ちをダイレクトに伝えたい瞬間もあるのかなと。また、そういったやり取りを通して、義母と娘の関係を少しずつ築いていったのだと思います。
撮影現場では、有村(架純)さんが初日からたくさん話しかけてくださって、本当の母上のような温かい存在でした。乃木坂46としての私の活動も見てくださっていたようで、「今度の曲はセンターなんでしょ。おめでとう!」という言葉もかけていただいて。現場にいる周りの方にも「センターなんだよ!」と言ってくださって、すごくうれしかったです。
家康役の松本(潤)さんは、徳川家の家族が一堂に会した撮影の合間に、カメラを持って「家族写真を撮らせて」と声をかけてくれて。
私もその写真に入っていいのかなと思ったんですけど、有村さんも信康役の細田(佳央太)さんも亀姫役の當真(あみ)さんも、「一緒に入ろう」と言ってくれて、家族写真を撮っていただきました。撮影中ではありませんが、「徳川家の一員になれたな」と思い、泣きそうになるくらいうれしかったです。
――五徳の中で、父・信長の存在はどのようなものだと感じていますか。
父上は偉大な存在だと思います。徳川家の温かな家族関係を見ていて、五徳は父上からもらった愛情を思い返すこともあったはずです。きっと生まれたときから、大事に育てられていたでしょうから。
もし五徳が織田家に居続けていたらと想像してみると、あれだけの圧倒的な存在感を示す父上も、変わらず愛情を持って育ててくれていたと思います。
だからこそ、徳川家にいる五徳は、織田家に残っていたら徳川と同じような温かな家族関係を築けていたのかなと、うらやましく感じていたのではないかと。それを考えると、五徳にとって父上は、どこにいようとも愛する父親であり、偉大な存在なのだと思います。
――第22回で、信長から徳川家の監視を命じられた五徳ですが、このとき彼女はどのように受け止めたと想像されますか。
その前に、瀬名さんから「そなたも三河のおなごであろう!」と言われたり、政略結婚で奥平家に嫁いだ亀姫が自分と同じ運命をたどるのではないかと心苦しく感じていたり、五徳の気持ちとしては徳川家のほうに寄っていたと思います。
そんなときに父上から「今後、われらにとって最も恐るべき相手は徳川じゃ。この家の連中をよーく見張れ!」と言われました。その瞬間、五徳自身も一気に落とされたといいますか。織田家の人間であるということを再認識し、悩んだすえに父上からの命令に従うことを決意しました。
実際、この父上とのシーンは怖かったですね(笑)。岡田(准一)さんは、とてもやさしい方なので、撮影前に「ごめんね、俺怖いよね」とおっしゃってくれていて。ただ、父上と相対した五徳としては、その怖さに震えましたし、ものすごく圧倒されていましたね。
――今後の五徳の注目ポイントを含めて、視聴者の方にメッセージをお願いします。
織田家と徳川家の両方の立場に立って物事を見てきた五徳は、「どうする家康」の物語においても重要な存在となっていきます。まさに両家の運命をかき乱す存在になるかもしれません。
家族への憧れや愛情を強く抱く五徳を演じながら、私自身も徳川家の家族の一員になれたことに幸せを感じています。このさき、いろいろな波乱が待ち受けていますが、ぜひ楽しんでご覧いただけたらと思います。

久保史緒里(くぼ・しおり)
2001年生まれ、宮城県出身。乃木坂46のメンバーとして活躍するほか、映画やドラマにも多数出演。大河ドラマは初出演。