信長が「鉄砲三段撃ち」で変えたいくさの本質とは?
見た花:またまた、お邪魔しま~す! センパイ、「どうする家康」第22回見ましたよ!
同 門:おっ、来たね……、その話の前に前回の最後の「8181」って何?
見た花:あれはポケベル用語で「バイバイ」でした(笑)。
同 門:ポケベル!? 流行ったのはもう30年くらい前だよね。キミは生まれてないんじゃないの?
見た花:でも、ポケベルのサービス自体は、2019年までやっていたんですよ! 使ってませんけど(笑)
同 門:えっ、そうなの!? 使っている人いたのか。
見た花:数字や文字って、誰かが決めた記号みたいなもの。そう定義されてるからそう捉えてしまうけど。でも、ちょっと視点を変えれば、違う意味にも解釈できるのが面白くて。
同 門:ほほぅ、いい観点の持ち方だね。「歴史」にしても、その時代のある一面に光を当てたらそう見えたという解釈。
見た花:「どうする家康」というドラマも、今回描かれた「長篠の合戦」も、同じだってことでしょうか。
同 門:その通り! キミは、本当に見た蔵クンの妹なのか(笑)。
見た花:さて今回は、戦国史上最大のハイライト、「長篠の合戦」。期待どおりの迫力ある映像を、たっぷり堪能しました♪
同 門:制作陣もかなり気合が入っていたように見えるね!
さて、この合戦の最大の勝因、信長(岡田准一)発案という「鉄砲三段撃ち」についておさらいしておこう。知ってる人も多いだろうから、簡単にね。
見た花:当時の鉄砲は、火縄銃。1回撃つと、その都度火薬を詰め、弾を込め、火縄を確認して、発射……といった作業が必要でした。
同 門:2回目を撃つまでに、とても手間がかかったんだね。
見た花:NHK「歴史探偵・選 長篠の戦い」で検証してみたところ、2発目を撃つまでの所要時間はおよそ30秒。しかも、その射程距離は50メートル程度と短いという結果でした。
同 門:武田の騎馬軍団をその距離まで引き付ける必要があった。撃ち損じるとアッという間に距離を詰められ、2発目を撃つ前に討ち取られてしまうということになるね。
見た花:そこで、鉄砲隊を3列に配備して、最前列の人間は撃った後、最後列に移動して次の準備をする。その間に2列目、3列目が順次発砲することにして、連射を可能にするという策でした。
同 門:この戦法、本当に信長の独創なのか、三段撃ちはそんなにうまくいったのか、異論もあるようだけどね……。
見た花:「歴史探偵」では、三段撃ちよりも効率的に発砲できる「コンビニのレジシステム」?も試してました。発砲が終わった場所に、準備ができた兵がフレキシブルに移動することで時短発砲を可能にするという。これだと、3~4秒くらいで次の発砲が可能みたいでした。
同 門:信長は、そちらを採用したかも? いろんな見方ができておもしろいね。
見た花:ところでこの合戦が「近代戦の先駆け」だと聞きましたが……?
同 門:うん。源平合戦の昔から、いくさといえば、技量と胆力に秀でた武将が、訓練の行き届いた兵(足軽など)を従えて、相手と正々堂々と正面から戦う、というのが伝統的なスタイルだったんだ。
見た花:ところが、信長はその伝統を完全に覆した?
同 門:刀剣や槍などの伝統武具ではなく、鉄砲という最新の武器を大量に採用し、相手を圧倒する戦略を取った。「最新テクノロジーの採用」、これが第一の特徴。いくさのスタイルを大きく変えていったんだ。
見た花:そのためには経済力がモノを言いますね。秀吉(ムロツヨシ)も言っていました。「(これからは)ゼニ持っとる者が勝つんだわ!」って。
同 門:その一方で、鉄砲の採用には、実は経費節減の効果もあるんだ。
見た花:えっ、調達にはお金がかかりそうですけど??
同 門:兵士に剣術や槍術をそれなりにマスターさせるには、数年単位の時間がかかる。ところが鉄砲隊には武道の心得は大していらない。農民でも一週間もあれば、鉄砲の扱いは覚えられるんだ。
見た花:射撃の名手になれなくても、「数撃ちゃ当たる」ということ?
同 門:そう、相手を簡単に倒せるうえに、短い時間で多くの兵士が調達できるということだね。
見た花:今の言葉でいえば、「ヒューマンリソース」のコストを大幅に下げられるということでしょうか。
同 門:この「コスト管理」は近代戦の第二の特徴なんだ。「先立つもの(経費)の管理」と「現場で戦う人間の調達・管理」は現代の戦争にも受け継がれている。
見た花:450年前にそれに気づいていたところが、織田信長という武将のすごいところですね。
長篠の合戦を見届けた信長と家康の心中ってなんだ?
見た花:家康(松本潤)と信康(細田佳央太)は、敵兵の死屍累々の戦場を見て、呆然自失でした。
同 門:快哉を叫ぶよりも、むしろ嫌悪感を覚えていたんじゃないかな。
見た花:信康は「(これはいくさではなく)なぶり殺しじゃ……」と漏らしていましたね。
同 門:「なぶり殺し」すなわち「殺戮」。これも「近代戦」の大きな特徴だね。
見た花:『平家物語』とかに出てくる武将同士の「一騎打ち」には、美しさもありました。源氏の熊谷直実と平家の平敦盛の一騎打ちとか……。
同 門:織田信長も好んだとされる幸若舞の『敦盛』の一場面だね。「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり」。
見た花:一方で信長は、経済的センスに加え、教養も持っていたんですね。今作では、「本能寺の変」で舞はあるんでしょうかね(笑)
同 門:気が早い(笑)というか、あれは桶狭間の合戦の前に舞ったとされるもの。そもそも「本能寺の変」じゃない。
見た花:え、違うんですか?
同 門:話を戻すと、一騎打ちがなぜ美しいかといえば、それが「人間同士」のぶつかり合いだからだね。最終的には相手に勝つのが目的だけど、向かい合った両者の心に生まれるのは、相手へのリスペクトだ。
見た花:オリンピックのアスリートみたい。そこに、いくさの「美学」があったんですね。
同 門:ところが、長篠の合戦における信長の戦術には、その要素は全くない。
見た花:突撃してくる敵に、ひたすら金属の玉を撃ちこむだけの作業ですよね。
同 門:先陣を志願した武田の重臣・山県昌景(橋本さとし)が、どんなに勇猛で優れた武将だったか……。一騎打ちだったら、それを知っている敵方の武将は勝っても負けても後悔はないし、むしろ「誉れ」だっただろう。
見た花:でも、鉄砲隊はそんなこと想像もしてないですよね。
同 門:これが近代戦の第3の特徴、「非人間性」。
今の戦争でもミサイルやドローンによる爆撃が目立つよね。そこには、相手国の兵士の人柄や技量はおろか、国民の暮らしや文化に対する配慮、リスペクトはカケラもない。
見た花:長篠での信長の戦術は、現代の戦争にもつながるマイナス的な一面もあるということですね。
同 門: でも信長は、「最強の兵(武田軍)の最期を謹んで見届けよ」と家臣に命じていたね。信長は近代戦の非人間性にも気づいており、心中には複雑な思いがあったのだと脚本の古沢良太氏は描きたかったのかもしれない。
裏テーマ「父と息子の相克」。武将の評価は見方次第?
見た花:今回は「父と息子の相克」という裏テーマもあると感じました。
同 門:おっ、また違う観点だね。数字の読み解きで、鍛えられてるのかな?
見た花:まずは、勝頼(眞栄田郷敦)。あれだけ家臣が止めたのに、彼は信長との無謀な正面対決にこだわりました。それは「父を超えたい」という一途な思いからですよね?
同 門:勝頼は結構シビアに信玄(阿部寛)を評していたね。「勝ち目のないいくさはしなかった」父親に対して、「だから父は天下を取れなかった」。
見た花:ここで気になるのは、信玄は戦国を代表する名将だけど、実はあまり大したことをしてないという見え方。
同 門:その見方については、よくよく考える必要がある。まず前提として、「戦国時代」をどう捉えているか、ということがキモだね。
見た花:どういうことでしょうか……?
同 門:戦国時代は、統一政権が崩壊した室町時代後期、各地の大名が覇権を相争う時代。これを「次の統一政権」を「準備する」期間とだけ捉えるならば、評価が高いのは、後に統一政権確立に大きく寄与した信長・秀吉・家康となる。
見た花:確かに、そうですね。
同 門:その観点では、今川も武田も上杉も北条も伊達も、「大したこと=統一政権樹立」をやってない、となるだろう。その見方だけが「正しい」かどうか――。
ポケベルの数字同様、違う観点でもとらえていく必要がある。
見た花:領地の発展に貢献したとか、領民やその文化を慈しんだとか、「全国規模」ではないけれど、別の価値の実現のために働いた戦国大名もいたかもしれませんしね。
同 門:そう。中央政府が崩壊した時代だからこそ、地方の戦国大名たちは思うところに従って自由に政策を選べたともいえる。そういう観点では、今でも各地方で愛され続けている戦国大名は多くいる。
見た花:「全国統一政権の樹立」という観点のみで、信玄やほかの戦国武将を評価していては、見えない物事があるということですね。
同 門:そのとおり。有名な武田信玄と上杉謙信の「川中島の合戦」も、直接的には天下の行方を左右するようないくさではない。ローカルな大名の小競り合い、という見え方になってしまう。
見た花:でも、越後と信濃の覇権争いに目を転じれば、また違う景色が見えるということですね。
同 門:信玄は「負けないいくさ」をしているあいだに歳を取ってしまい、天下取りは時間切れに。その間、信長が台頭し、合戦には「いくさの美学」はもう不要、「近代戦」の発想が欠かせない時代に変わっていたんだ。
見た花:だから勝頼は、これまでの父の考え方では、天下をとれないと感じていた……。
同 門:そこには、地域的かつ経済的なハンデもあったんだ。甲斐(山梨県)は、山の中で大きな水田は作れないから、米の収穫はたかが知れている。金鉱はあったが、産出量には限界がある。信長みたいに交易で稼ごうにも地の利が悪いし、今川のように京都に太いパイプがあるわけではない。
見た花:だからアナログな武力の充実を図るしかなかったんですね。でも、ひたすら訓練を重ねて戦国最強の軍団を作り上げたのは、やっぱりすごい。そして、多角的に武将をとらえるセンパイの視点もすごいです!
同 門:ま、まあね(照)。
苦しむ信康、そして「瀬名、覚醒」の先には――
見た花:「父と息子の相克」の話でいえば、信康も苦しいですね?
同 門:この人も何とか「強い自分」を示したくてたまらない。
見た花:信長に押し込まれるばかりの父にしびれを切らす一方、妻の五徳(久保史緒里)にもあおられて、何かかわいそう……。
同 門:織田が長篠を制した後、徳川はその臣下にならざるを得ず、武田に奪われた領地奪還のいくさに追われる。そこで、信康も大活躍するんだが……。
見た花:でも、いくさの悪夢を見たり、心を病んでしまったみたいな雰囲気も。
同 門:今回の冒頭で、少年時代の、虫を愛する、心優しい少年時代のエピソードが出てきたよね。これがラストシーンの涙で回収されていたね。
見た花:つまり、そもそも信康は「いくさ向き」の人ではないと?
同 門:本来は、動植物を愛するようなやさしさが彼の本質なんだ。戦国という時代その構造が彼を苦しめていたんだろう。松平信康を演じる細田佳央太のインタビューを読めば、その一端が感じられる。
見た花:ということで、次回のタイトルは「瀬名、覚醒」。瀬名(有村架純)は、以前に「仕掛け」が描かれていましたね。いよいよ武田の間者・千代(古川琴音)との関係が大きく発展するんでしょうか?
同 門:長篠戦勝の宴で、信長は五徳に「これから我々にとって最も恐るべきは徳川だ」と、五徳に内情を探るよう命じていたね。
見た花:次回を見るのが楽しみなような、怖いような……。
同 門:じゃあ今回はこのへんにしておこうか。皆さん、3470~!
見た花:えっ? センパイが使うと、なんか超ダサいんですけど!
同 門:どーもん、スイマセーン、、、(涙)
(第23回の大胆レビューにつづく)
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【第1シーズン】
第1回:「どうする家康」が「鎌倉殿の13人」から引き継いだものってなんだ!?
第2回:「どうする家康」が“居心地の悪い”ドラマに感じるのはなんで⁉
第3回:家康を諭した於大の方のメッセージが深い!その真意ってなんだ?
第4回:お市の方より今川氏真がおもしろい⁉ってなんだ?
第5回:脚本家・古沢良太が描く織田信長VS.織田信長ってなんだ!?
第6回:立役者は半蔵(山田孝之)ではなく氏真(溝端淳平)ってなんだ!?
第7回:家康より“家”をつくるのがうまかった空誓上人ってなんだ?
第8回:三河一向一揆と本多正信の行動は“複雑系”ってなんだ!?
第9回:正信が家康を「大タワケ!」と言い切る理由ってなんだ?
第10回:家康の側室問題は続く!?大河で描かれるセクシュアリティーってなんだ?
第11回:家康の「格付け」仲介手数料****万? 風林火山な信玄ってなんだ⁉
第12回:氏真の「悲哀」と義元の「理想」ってなんだ?
第13回:浅井長政(大貫勇輔)の信長(岡田准一)に対する本音ってなんだ?
第14回:ついに家康(松本潤)覚醒!「信長の野望」で変身した長政と家康ってなんだ?
【第2シーズン】
第1回:夏目広次(甲本雅裕)と家康(松本潤)による「仕掛け」ってなんだ!?
第2回:瀬名(有村架純)のモヤモヤ感と家康(松本潤)の危機ってなんだ?
第3回:瀬名(有村架純)と千代(古川琴音)の背後にひそむ勝頼(眞栄田郷敦)ってなんだ?
第4回:衣裳も家康(松本潤)への脅しも演出!? 信長(岡田准一)の真の狙いってなんだ?