大河ドラマ「どうする家康」の語りを務めるのは、俳優の寺島しのぶ。
抑揚ある語りで、物語をさらに魅力的に伝える役割を果たしている。
寺島に、語りをするうえで心がけている点や収録エピソードを聞いた。
――「どうする家康」の語りのオファーを受けたときの率直なお気持ちを教えてください。
とても光栄なことだと思いました。ただ最初は、「よし、やるぞ!」という気負いよりも、「さあ、どう語ろうか?」という迷いのほうが大きかったですね。ふだんの自分の声で、普通に語りをするのでは面白くないと思いましたし、古沢良太さんの脚本を読み進めながら、自分なりに創意工夫できればいいなと考えていました。
――映像をご覧になったときは、どのような語りをイメージされましたか。
映像を見て思ったのは、まず勢いがある感じにしたいなと。舞台は戦国時代ですし、男性ではなく女性である私の声で語るわけですから、単に事実だけを伝えるよりも、私自身がその場にいるような語りをイメージしました。
いつも家康を見守っているような感じで、時には感情も入れていく。そういう語りは、役者だからこそできる部分もあると思うので、お芝居とは違った感覚を楽しんでやれたらいいなと思いました。
あとは、映像に入る音楽に合わせて声のトーンを変えています。「この音楽であれば、これくらいの強いトーンにしないと音楽に飲まれてしまう」ということも考えながら、語りをすることも大事です。自分の良さを出しつつも、物語の世界の邪魔をしないような、すてきな語りをいつも心がけたいと思います。
――語りをするうえで、具体的に意識しているのはどんなことですか。
語りの収録が始まる前に、講談師の神田伯山さんと対談したんです。それをきっかけに実際の講談を見に行かせていただいたんですが、ものすごい衝撃を受けまして。それが、「どうする家康」の語りの仮録り前日でした。
そのときの興奮冷めやらぬまま仮録りに臨んだのですが、私が講談師風に語りをしたところ、監督も気に入ってくださって。以降は、その調子で語ることをいちばんのポイントにしていますね。
ただ、一本調子ではなく、時に寄り添いながら、時にやさしく話しかけるような語りが必要になる場面もあります。映像と音楽に合わせて、私の語りが加わることでこのドラマがプラスの方向に行くように。そして、何よりドラマを面白いと感じてもらえるようにできればと思っています。
――今回の語りは、ご自身の可能性を広げる意味でいかがでしょうか。
これまでナレーションのお仕事は何度もやらせていただきましたが、自分のふだんの声に近い声でナレーションすることが多かったです。どちらかというと、静かに語る作品が多かったような気がします。
今回の語りのように、おなかに力を入れて、マイクに声をぶつけるイメージでナレーションをしたことはなかったので、とても新鮮ですね。そこは、役を演じる俳優業ではなかなかできない経験をさせていただいていると感じています。
――主演の松本潤さんとは、語りについてお話はされましたか。
語りの収録が始まる前から「期待しています、期待しています」と何回も言われましたよ(笑)。松本君自身は、今回が初めての大河ドラマの出演ですよね。逆にそのとき私から「大河の主演はどう?」と聞いたら、「正直まだわからない」と言っていました。
初めてですし、徳川家康という大役を1年以上も背負うわけですから、ゴールまでの道のりが長い分、ご苦労も多いでしょうね。撮影現場は楽しい反面、いろいろ試行錯誤しながら奮闘されているのかなとも感じました。
――「どうする家康」の魅力は、どのようなところだと感じていますか。
とても映像が見やすいのはもちろんですが、家康の成長ぶりが面白いですね。最初は「本当にこの人が天下統一を果たす家康になるの?」と思うくらい、もともとの家康のイメージとはかけ離れたものになっていました。
でも今は、いい意味で裏切られたなと感じています。それをまた松本君が演じるからこそ、魅力的に見えるわけですし。もちろん、松本君以外にもたくさんの名だたる俳優さんが出演されていて、見どころもたくさん。私としては、語りの収録でいち早く完成した映像が見られるので、毎回収録が楽しみです。
――最後に視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
私の語りを聞いて、「イメージとは違った」と思われた方もいるかもしれません。私自身も毎回いろいろと試行錯誤しながら、収録に臨んでいます。監督からも「今回はこのような感じで語ってみましょうか」と提案をいただきながらやらせていただいているので、そういった要望に柔軟に応えられるように頑張っています。
お芝居とは少し違い、声で表現しなくてはならないので難しさもありますが、とことん最後まで楽しんでやろうと思っています。ぜひ、多くの方に「どうする家康」を応援していただくと同時に、私の語りも温かく見守っていただけたらうれしいです。
寺島しのぶ(てらじま・しのぶ)
1972年生まれ、京都市出身。NHKでは、大河ドラマ「八代将軍 吉宗」「北条時宗」「武蔵 MUSASHI」「龍馬伝」「いだてん~東京オリムピック噺」、連続テレビ小説「純情きらり」「あさが来た」などに出演。
