大河ドラマ「どうする家康」で、井伊直政(万千代)を演じる板垣李光人。
家康を支えた功績から徳川四天王の一人と称された直政だが、
その男がいよいよ徳川家臣団に加わることになった。
板垣に直政役への思いや撮影エピソードを聞いた。
――撮影が始まる前に直政のゆかりの地を訪ねたとお聞きしましたが?
滋賀県彦根市と静岡県の井伊谷(浜松)に行きました。井伊谷では、井伊家の菩提寺・龍潭寺を訪れたのですが、ここで生まれ育ち、直政の礎が築かれたんだと思うと特別なパワーを感じました。
また、彦根では彦根城とともに、清凉寺というお寺にある直政のお墓にお参りさせていただきました。直政を演じさせていただくご挨拶もかねてうかがいましたが、僕自身の気持ちも「いよいよ始まるんだな」と一段と引き締まりましたね。
――時代劇に出演するにあたって、何か意識されていることはありますか。
オリジナルのドラマや映画であれば、演じる役を自分で一から作ることができますし、原作がある作品であれば、原作をベースに役を掘り下げることができます。
一方、時代劇の場合は、まず史実がベースにありますし、大河ドラマになると過去の作品で同じ役が登場しているケースも多いです。なので、同じ役の場合、視聴者の皆さんの中には直近で演じられた役者さんのイメージを強く持たれている方もいると思います。
僕が「青天を衝け」で演じた徳川昭武は、大河ドラマでフォーカスされるのがほぼ初めてだったので、その意味でも役づくりはしやすかったです。
それに対し、今回の井伊直政は、「おんな城主 直虎」で菅田将暉さんが演じられていて、そのイメージを持たれている方も多いはず。もちろん、僕も菅田さんが演じた直政を拝見しました。ただ、菅田さんのイメージからどう変化をつけていくとかは考えずに、僕が演じられる直政を表現していくことが大事だと思っています。
実際の芝居では、徳川家臣団を演じる先輩方と一緒に芝居をしている中で、見えてくるものもたくさんあります。直政の最初の登場は、12歳くらいの少年ですが、そこから彼は成長していくので、僕もその成長とともに井伊直政という人物を作り上げていきたいなと思っています。
――撮影は途中からの参加となりましたが、不安などはありませんでしたか。
直政も途中から徳川家臣団に加わるという状況でしたし、僕自身も俳優の先輩方の中に途中から入っていったので、とてもリンクしているなと感じました。さらに、直政は「新しい風を吹かせてやろう」と意気込んでいて、僕は「徳川家臣団にとって、いいエッセンスになればいいな」と思っていたので、そういった気持ちの面でも近いものがあると感じています。
また、撮影現場では周りを見渡すとすごい俳優の方ばかり。その緊張感や関係性が、役と向き合う中でも、芝居をする中でも、自分にとっていい影響になっていると思います。
――直政の人物像をどのように捉えて演じていますか。
最初の登場が家康を襲うという衝撃的な場面だったので、台本を読んだときは驚きました。史実だと鷹狩りのときに家康と出会ったと伝えられていますが、今回のドラマでは殺しに行くという設定で、挑戦的な男だなというのが第一印象でしたね。
直政は、井伊家という由緒ある家柄の出身だけど、父親を殺され、激動の幼少期を過ごしてきました。井伊家であるプライドを持ちつつ、自分がお家を立て直すという責任感や使命を背負って、家康に仕えることを決意します。
最初は、軍議の場で小姓の立場をわきまえずに物申したりするので、とても生意気に見えるかもしれません。ですが、その言葉の裏には、お家や民への思いが込められているので、そんな彼の気持ちを大切に演じていきたいなと思っています。
――古沢良太さんの脚本を読んで、どんな印象を受けましたか。
古沢さんの脚本は、読んでいてすごく安心できると言いますか。直政に限らず一人ひとりのキャラクターや、ストーリーがブレずに描かれていると思います。なので、僕が直政として、「このシーンの直政は、どういう感じなんだろう?」と迷ったときも、脚本を読めばちゃんと見えてくるんですよね。
それは役づくりにおいても古沢さんの脚本がベースになっているので、僕は信頼しています。そこにプラスして、家臣団の空気感が、それぞれのシーンにおける直政の立ち位置や出方というものを導いてくれるので、毎回のリハーサルや段取りでも丁寧に確認しながら演じています。
――直政自身は家康のことをどのように見ていると想像されますか。
最初の出会いのときに家康を殺そうとしたということは、直政は死ぬ覚悟もあったと思うんです。ですが、家康は彼を殺しませんでした。殺伐とした世を目の当たりにしてきた直政にとっては、家康を襲ったにもかかわらず、逃がしてもらえたことに衝撃を受けたはずです。
しかも、家康から「これからの自分の姿を見ていてくれ」と言われたわけですから、その後、徳川家に仕えるまでの間、直政はずっと家康のことを考えていたのではないでしょうか。それだけ、家康に惹かれたし、「今の時代に必要なのは家康のような人なのだろう」と強く感じたのだと思います。
――松本潤さんが演じる家康の印象はいかがですか。
直政と家康との出会いのシーンから松本さん演じる家康を見てきて、僕が言うのもおこがましいですが、回を重ねていくたびに家康のオーラが強くなっているように感じます。同時に、芝居においても安心感があるといいますか、松本さんがいてくださるおかげで、直政の気持ちをスムーズに作ることができていますし、本当に頼もしい方だなと実感しています。
撮影現場では松本さんと一緒にいる時間が長いので、「この状況だと、殿と直政はどれくらいの距離感を保つべきですかね?」などと相談しています。もちろん、序列や所作的な決まりごともありますが、殿と直政の関係性を表現するうえで大事なポイントになってくるので、松本さんも一緒に考えて答えを出してくださるんです。
長い期間撮影する中で、松本さん自身も不安な部分があると思うのですが、僕らが不安を抱えながら芝居することのないように、いろいろ声をかけてくださったり、役についても一緒に考えてくださったりするので、日々安心して現場に立つことができています。
――視聴者の方にメッセージをお願いします。
“赤鬼”とも称された直政は血気盛んなところもありますが、冷静な目を持っていて、頭の回転が速く、先を見る力を備えた人物です。徳川家康という天下人を支えたその男の生きざまを、自分なりに個性を持って演じていきたいと思うので、ぜひ楽しみにご覧いただけたらと思います。
板垣李光人(いたがき・りひと)
2002年生まれ。10歳で俳優デビュー。NHKでは大河ドラマ「花燃ゆ」「青天を衝け」、よるドラ「ここは今から倫理です。」などに出演。