歴史好き女子が好むキャラは“癒やし系”?
同門センパイ(以下 同門):皆さん、お待たせいたしました!「どうする家康 テレビ桟敷談義」第2シーズンのスタートです!
大河見た花(以下 見た花):はじめまして! 大河見た蔵の妹で、見た花(みたか)で~す。よろしくお願いします!
同 門:あれ、見た蔵クンはどうしたの? 「どうする家康」見忘れたとか?
見た花:それが、修業が足りないとか言って、歴史探訪の旅に出かけました。
同 門:ええっ!? (私との大河トークに飽きたのでは……汗)
見た花:5月5日に浜松市で開催された「家康公騎馬武者行列@浜松まつり」にも行ってましたよ。ホンモノの家康を見たいって!
同 門:松本潤さんがドラマの扮装で登場するとあって、大いに盛り上がったみたいだね。68万人もの来場者があったとか。
見た花:何やら、瀬名(有村架純)がサプライズ登場するのを密かに期待していたみたいです(笑)。
同 門:見た蔵クンらしいね。騎馬武者行列だから、ないだろうけど(笑)。
ところで、キミも大河ドラマが好きなの?
見た花:はい、兄と一緒に大河ドラマを見ているうちに、なんとなく(笑)。あとは、歴史の本をつまみ食いしながら勉強してます。
同 門:じゃ、いわゆる「歴女」なのかな?
見た花:私、「歴女」って言葉があまり好きじゃなくて。歴史が好きなのって、男も女も関係ないですよね?
同 門:そりゃ、そうだね。
見た花:「歴男」とか言わないし。「歴史好きの女子は珍しい」と思われているからでしょうか? そんなことないと思うんですけど……。
同 門:歴史好き女子の俗称が、定着しただけなんだろうけどね。
見た花:「歴女」とか言われると、「女だてらに歴史好きなんて感心感心」と頭をなでなでされてるようで、なんか気持ち悪くて。
同 門:……(汗)。きっと「歴女」と呼ぶ人には悪気はなく、褒めてるつもりなんだろうけど。ただ、無意識に「女は歴史が苦手」と決めつけているようなニュアンスがいやだ、っていうことかな?
見た花:そんなところです。大河ドラマで主に描かれるのは、男性中心の社会だし。激しい合戦シーンも男性が好むようなイメージ。逆に、だからこそ、今作では女性にスポットを当てた描き方が多いのもいいなって。
同 門:瀬名であれ、於大の方(松嶋菜々子)であれ、お市の方(北川景子)であれ、今作では生き生きと描かれているよね。
見た花:お市の方の侍女・阿月(伊東蒼)の活躍も印象的でした!
同 門:ところで「どうする家康」の登場人物で、キミのお気に入りは誰かな?
見た花:ズバリ、七之助(岡部大)です!
同 門:(……渋すぎる)忠義一徹の平岩親吉だね。いかにも田舎の地侍という風体を、岡部大はうまく出してるよね。
見た花:武将の役って、なんかギラギラ感があるじゃないですか? いくさで手柄を立てたいとか。でも、七之助には全然それがないのが好きなんです!
同 門:確かに、彼が出てくると、なんか画面がなごむよね。癒やし系というか。
見た花:岡部大(お笑いトリオ・ハナコ)さんは、朝ドラ「エール」(2020)でドラマ初出演して、ハマリ役だったんです。そのときからのファンで、役名が五郎だったので、今でも「五郎ちゃん」って呼んでます♪
同 門:……ハイ、わかりました(滝汗)。
計算された「家康の苦悩」ってなんだ?
同 門:さて、休載中のレビューを駆け足でやっていこう!
第15~18回は有名な合戦が続いて描かれた、「合戦シリーズ」。歴史的に評価が定まっている出来事、いわば「結果がどうなるかは知られている話」だったね。
見た花:結果は分かってるんだけど、ハラハラドキドキさせてくれました!
同 門:松本潤はじめ、俳優陣の大熱演のおかげでたっぷりドラマが楽しめたね。また合戦シーンも迫力があって、これぞ「戦国大河」のだいご味というか(笑)。
見た花:やはり、男子は合戦好きなんですね? 第15回は「姉川でどうする!」。浅井・朝倉勢対織田・徳川連合軍の合戦でした。
同 門:……(汗)。信長(岡田准一)を裏切って浅井につくかどうか、家康(松本潤)の苦悩がハイライトだった。ただ、歴史好きなキミは、家康が信長を裏切るわけがないとわかって見ていたんだよね?
見た花:ええ。でもその分、このまま信長とつるんでいたら、ちょっとマズいんじゃないか……、という家康の葛藤が新鮮でした!
同 門:家康軍はいやいや参戦したどころか、大活躍して勝利につないだというのが通説。あえてその逆を描くのは、今作における脚本・古沢良太氏の常套手段にも見える。
見た花:なるほど、さすがセンパイ!!
同 門:(センパイ!?……ま、いいか 汗)家臣から「なぜ浅井長政(大貫勇輔)につくのですか」と問われて、家康は「長政殿が好きだからじゃ!」というのは、やや強引にも感じたが(笑)
見た花:わたしも、「えっ、何それ?」って思いました。家臣からも「一回会っただけで、浅井を信頼できるんですか」と突っ込まれていましたね(笑)。
同 門:ここに「家康が」「どうする?」にするためのシナリオ的な「仕掛け」がある。そこは、わざと説得力がない発言にしてあるんだろう。
見た花:センパイ、そこんとこ詳しく教えてください!
同 門:第13回で、京都でもめ事をおこした本多忠勝(山田裕貴)たちが信長の逆鱗に触れて、死罪になるかもしれないという場面があったよね?
見た花:思い出しました! 長政の機転のおかげで命拾いをしたんですよね。お市の口添えもありました。
同 門:本来なら家康は家臣に、「お前らの首がつながったのは長政殿のおかげだろう!」と一喝すべきところ。あるいは「信長さまの妹君の夫と戦うなど、ワシにはできぬ!」くらいに言うべき場面だろう。
見た花:なるほど~。確かに、「好きだから」よりも説得力があります。
同 門:ところが、ここで家康の発言に説得力があると、家臣は身動きがとれなくなる。だからわざと感情的な、説得力のない発言に仕立ててあるんだろう。
見た花:へえ~、メモメモ!っと。
同 門:結果的に家康は信長に従うことにはなるが、そこへ至る苦悩をドラマチックに表現するための「仕掛け」となっているんだ。第13回の京でのもめ事と、信長の面前での長政の機転もそのための伏線として描かれている。これらの「仕掛け」は、2回後の放送で、家康の長政への心情的な傾斜と苦悩の末の決断によって回収されるわけだ。
見た花:さすが、センパイ! 家康の苦悩は計算されてたってことですね。
同 門:ちょっと、僭越だったかな(汗)。2~3回分を串刺しにして見ることで、シナリオの「仕掛け」が見えてくるということがあるんだ。これもドラマの楽しみ方の一つなんだよ。
家康が死んだ?「大仕掛け」ってなんだ
見た花:そして、次の第16回は「信玄を怒らせるな」、でした!
同 門:ハイライトは、武田家に徳川方から人質として送られていた源三郎勝利(長尾謙杜)。家康の義弟だね。
見た花:ジャニーズのグループ「なにわ男子」の癒やし系!長尾くんが出演するとあって、大いに注目を集めました!
同 門:「武田家で虐待されている」と聞いた家康は、服部半蔵(山田孝之)をつかって源三郎を救い出すが、実は虐待されていたわけではなくて、武田家の軍事訓練の厳しさに耐えかねていた。
見た花:信玄(阿部寛)の嫡男の勝頼(眞栄田郷敦)は、それ以上に厳しい訓練を受けていて、超優秀なことも報告されていましたね。
同 門:ここにも、古沢氏による「仕掛け」が見える。武田勝頼といえば、これまでは「ダメな二世」の典型として描かれることが多かった。しかし、今作での持ち上げ方はすごい。となると……。
見た花:後々、家康の前に立ちふさがる強敵になる? または、重要な役回りとして描かれる?
同 門:そう、今作で描かれる勝頼もまた、これまでのイメージを変えるかもしれない。
見た花:続く、第17回は「三方ヶ原合戦」です。
同 門:これは超有名な家康の歴史的大敗。史実としては、そもそも信玄は打倒信長が主眼で、家康と戦うつもりはなかったらしい。浜松城攻めは、戦国最強といわれた武田軍といえども落とすのに1か月くらいはかかるから、時間と兵力のムダだと思っていたんだね。信玄としては、信長さえ倒せば、徳川程度はその後で簡単に料理できるとたかをくくっていたんだろう。
見た花:だから浜松城は素通りと。でも、これが徳川軍のカンに触ったんですね?
同 門:「弱き主君は害悪なり」なんて言われてね(笑)。
見た花:そこで、家康は「桶狭間の合戦」の再現を夢見て、いざ出陣するも……。
同 門:すべて信玄に読まれていて、あえなく自滅(笑)。
司馬遼太郎の小説に『覇王の家』(1973年)という家康の半生を描いた作品があるんだけど、そこでこの合戦に触れて、「臆病なくらい慎重な行動を終生貫いた家康だが、この時の戦い方は大きな謎」といった感想を書いている。乱心したとしか思えないと(笑)。
見た花:この回の後半、家康が死んだ!というハナシが出てきました!
同 門:主人公がこんなに早く死ぬわけないじゃないか!と、歴史好きなキミはもちろん、視聴者も思ったはず。だが、これは、それまでの「小さな仕掛け」を一気に回収するための「大仕掛け」だったんだ。
夏目広次の「小さな仕掛け」ってなんだ!?
見た花:第18回のタイトルは、なんと「真・三方ヶ原合戦」。
同 門:『シン・ゴジラ』(2016年)から『シン・仮面ライダー』(2023年)まで、「シン・~」が流行りだけどね。ブームに乗っからなくても(笑)。
見た花:この回の準主役は夏目広次(甲本雅裕)でした。泣けました!
同 門:家康の身代わりになって討たれてしまった……。夏目の心中を繊細に表現した甲本雅裕の演技が、見る人の涙を誘ったね。私もグッときたよ。
見た花:涙もろくなるお年ですもんね?
同 門:どーもん、すみません(汗)。負けいくさのとき、家臣が主君の具足をつけて身代わりとなった例はよくあったそうだよ。
見た花:家康の具足はキンキラキンだから、標的としてわかりやすいのを利用したんでしょうか。なんか、切ない……。
同 門:夏目の最期の表情は、まるで彼の人生を象徴していたかのようだったね。
見た花:ホント、、、。ちなみに、信玄の恰好も目立ってましたね。貫禄出てましたし。あの毛皮みたいな派手なやつ、なんていうんですか?
同 門:獅子をかたどった「諏訪法性兜」と呼ぶんだそうだ。あの毛皮みたいなのは、インドのヤクという牛の毛なんだって。「無敵の軍神」といったところだね。
見た花:へえ~武闘派の本多忠勝の兜にも同じような毛の束がついていたような。「オレは強いんだぞ~」という男子のアピールですか、アレ?
同 門:……コホン(汗)。ところで、感動的な広次のエピソードだが、「仕掛け」にやや手が込みすぎていた印象もないだろうか。
見た花:え? どんなところですか?
同 門:広次は、家康が幼いころの守り役だったが、家康を今川に人質として護送するときに織田に奪われてしまった。
見た花:その責任を取って切腹を選ぶも、家康の父・松平広忠(飯田基祐)に許されて、「吉信」→「広次」と改名しました。
同 門:その後、再び家康に仕えることになるが、なぜか家康は、広次の顔と本当の名前を全く覚えていないという「仕掛け」。でも、いちばん遊んでくれた人だったんだろう?
見た花:そんな、覚えてなかったの~?とは、素朴に思っていました。
きっと、幼いころに見た吉信と、広次は相当変わっていたんだろうと勝手に解釈してましたけど、実はヒゲくらいだった(笑)。
同 門:家康が「広次」の名前をしょっちゅう間違えていたのは、ここで回収するための「小さな仕掛け」だったということが判明したわけだ。
見た花:まるでコントのようなやり取りだったので、その回の癒やしかと思ってました。
同 門:家康の死=夏目の死という「大仕掛け」によって、「小さな仕掛け」すべてを回収することで、見る人の感情を揺り動かしたわけだ。
見た花:脚本家って、数学が得意な人がよいのかもしれませんね(笑)
同 門:さて、ここまでで「合戦シリーズ」は一段落。
信玄も甲斐へ引き返し、家康も信長もひと安心というところ。そんなわけで、次回のタイトルは「お手付きしてどうする!」。
見た花:また、女性の登場人物にスポットが当たるようで楽しみです!
同 門:史実では、ここから徳川家の運命が大転換を見せることになるね。見た蔵クンも大好きな瀬名(有村架純)が重要な役割を果たすことになる。
見た花:兄のドラマの見方は、ミーハーなんですよっ(笑)
同 門:はははは(笑)(キミも十分ミーハーそうだが)。
じゃ、次回からは、女性の活躍とともに、瀬名に注目しながらドラマを見てみていくとしようか。歴史ファンがいちばんモヤモヤしているのは、実は家康よりも瀬名の描かれ方だと思うから。
見た花:ぜひ、お願いいたします。楽しみにしています!
同 門:え!? 来週も見た蔵クンは来ないの? また、キミが来るってこと?
見た花:では、また次回、元気にお会いしましょう! お楽しみに~!
同 門:えっ、えーーーー!?
(第19回、大胆レビューにつづく)
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第1回:「どうする家康」が「鎌倉殿の13人」から引き継いだものってなんだ!?
第2回:「どうする家康」が“居心地の悪い”ドラマに感じるのはなんで⁉
第3回:家康を諭した於大の方のメッセージが深い!その真意ってなんだ?
第4回:お市の方より今川氏真がおもしろい⁉ってなんだ?
第5回:脚本家・古沢良太が描く織田信長VS.織田信長ってなんだ!?
第6回:立役者は半蔵(山田孝之)ではなく氏真(溝端淳平)ってなんだ!?
第7回:家康より“家”をつくるのがうまかった空誓上人ってなんだ?
第8回:三河一向一揆と本多正信の行動は“複雑系”ってなんだ!?
第9回:正信が家康を「大タワケ!」と言い切る理由ってなんだ?
第10回:家康の側室問題は続く!?大河で描かれるセクシュアリティーってなんだ?
第11回:家康の「格付け」仲介手数料****万? 風林火山な信玄ってなんだ⁉
第12回:氏真の「悲哀」と義元の「理想」ってなんだ?
第13回:浅井長政(大貫勇輔)の信長(岡田准一)に対する本音ってなんだ?
第14回:ついに家康(松本潤)覚醒!「信長の野望」で変身した長政と家康ってなんだ?