植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)と、その妻・寿恵子(浜辺美波)の波乱万丈な生涯を描く、連続テレビ小説「らんまん」。万太郎が暮らす「十徳長屋」の住人のひとりで、元彰義隊の倉木隼人を演じる大東駿介に、さまざまな葛藤を背負う役への思いについて話を聞いた。
――「らんまん」に出演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか。
「ウェルかめ」から13年、もう一度朝ドラに呼んでいただけたことを本当にうれしく思います。「平清盛」(2012年)で中井貴一さんとご一緒した際、「大河や朝ドラは、俳優人生の分岐点となる作品。その都度、自分の俳優人生に旗を一本立てるようなものになるから」と声をかけていただいたのですが、その言葉通り、自分を見つめ直す作品となっています。
がむしゃらに、何とかしてやろう!という思いを強く持っていた「ウェルかめ」のときよりも、視界がクリアに広がっている感じがありますね。「自分はこの作品で何ができるだろう」「倉木はどういう風に生きてきたんだろう」と、役に対して冷静に向き合えています。
――演じる倉木隼人のキャラクターをどのように捉えていますか。
元彰義隊で上野戦争の生き残りである倉木は、神木君演じる万太郎の大事な標本を燃やそうとしたり、昼間から酒と賭け事におぼれていたりと、印象の悪いキャラクター。ただ僕が想像するに、とてもまっすぐに生きた人間だったんだと思います。真面目に生きていたからこそ、時代の変化に対応しきれなくなった反動で、大きく壊れてしまった――。
痛みや挫折を抱えているキャラクターは個人的に好きなので、演じる上でもそういった一面をよく探しています。人間の奥行きって、痛みや悲しみを乗り越えた先に出ますよね。倉木はそれを乗り越えようとしている真っただ中。悩みながらも必死に生きる倉木はすてきだと思います。
――万太郎との出会いが、倉木に大きな影響を与えていくことになりますね。
そうですね。万太郎は、日陰で枯れかけている植物に、栄養を与える太陽のような存在です。熱を出した倉木の子どもに対して、当たり前のように手助けするシーンが象徴的ですよね。倉木としてはふがいなさが重くのしかかる場面でしたが、万太郎のまっすぐで純粋な心がはっきり映し出された場面でした。そして「雑草ゆう草はないき!」という、植物を愛する万太郎のセリフは、倉木の心を少しずつ動かしていくことになります。
なにより、演じる神木君がすごく魅力的なんです。彼も万太郎同様、人を明るく照らす力を持っています。初対面の人でも親友のように接し、人の心を軽々と開いていきます。たぶん、みんなの心のドアの合鍵を持っているんでしょうね(笑)。神木君が演じることで、万太郎の魅力がぐっと増していると思います。

――倉木の妻・えいを演じる成海璃子さんはじめ、長屋メンバーとの撮影はいかがですか?
成海さんは、これまでも何度か夫婦や恋人役を一緒に演じたご縁もあり、とても安心できる方です。彼女のたたずまいは独特で、ただそこにいるだけで、芯の強さを感じられます。しっかり者のえいにどこか甘えている倉木ですが、僕も成海さんの存在に少し甘えている部分もありますね(笑)。子どもたちも、愛をもって倉木に接してくれていてうれしいです。
長屋のメンバーも個性豊かなキャラクターばかり。戸を開けたらご近所さんがいて、どうでもいい話をしあうといった環境に憧れを持っていたので、毎日の撮影が楽しいですね。長屋のように、無条件に一線を超えられる距離感ってやっぱり面白いなと感じました。共演者の皆さんのおかげで、自然に役を演じることができています。
――今後、視聴者に楽しみにしてほしい場面を教えてください!
今後の展開は僕もまだ知らないので、万太郎や倉木がどんな歩みを進めるのか、楽しみにしながら演じているところです。個人的には、万太郎から受けた恩義を、いつかきちんと返したいと思っています。倉木がちゃんと前を向いて、仕事に行くようになったのは、万太郎の存在が大きいですから。倉木の成長した姿を見せることはもちろん、万太郎が苦しい状況のとき、今度は支える出番があることを期待しています。
1986年3月13日生まれ、大阪府出身。NHKでの主な出演作に、連続テレビ小説「ウェルかめ」、大河ドラマ「平清盛」「花燃ゆ」「いだてん~東京オリムピック噺~」、「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」などに出演。