植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)と、その妻・寿恵子(浜辺美波)の波乱万丈な生涯を描く、連続テレビ小説「らんまん」。第5週の放送で、万太郎は高知を飛び出し、植物学者への夢をかなえるため東京へ向かった。今後、どんな展開が待ち受けているのか、制作統括の松川博敬に東京編の見どころについて聞いた。
――これまでの放送の手ごたえはいかがですか?
ありがたいことに、予想以上に好評意見が多いように思います(※取材時、16話放送時点)。もちろん、自信を持って送り出している作品ですが、朝ドラはたくさんの方に期待されている枠ですので、否定的な意見も多くあるのではと覚悟していました。視聴者の方にちゃんと受け止めていただいていることに、たいへん感激しています。
制作としては、最初の5週(高知編)に勝負をかけていました。“朝ドラ”は、いわばマラソン。予算やスケジュールなどのペース配分などをしっかり管理しなくてはいけないのですが、最初の5週はリミッターを外し、やりたいことを全部やって視聴者をつかみたいと。もちろん今後手を抜くということではありませんが、その気合いが届いていることが、とてもうれしいです。
――高知編では、葛藤の多い万太郎たちでしたが、東京編ではどんな風に描かれていきますか?
高知編は、万太郎、そして綾と竹雄が自分の道を定めていく話となります。脚本の長田さんとは、「天才を描くにあたって、天才になるまでの葛藤をしっかり描きましょう」という話をしていました。牧野富太郎さんをはじめとした天才たちは、悩みもせず、ブレずにやりたいことに一直線だったと想像しますが、万太郎は違います。悩みながらも、自分の夢に向かっていく。その葛藤と夢への決意を描いたのが高知編になります。

今後の東京編では、そういった悩みから解放された万太郎が、周りに影響を与えていく存在になります。熱の塊として走る万太郎に周りがどんどん巻き込まれていく。神木さんが出演された映画『バクマン。』のような、熱気あふれる青春劇を描きたいと思っています。
――浜辺美波さん演じる万太郎の妻、寿恵子も本格登場します。
そうですね。青春劇と並行して描くのが、万太郎と寿恵子の恋愛物語です。この2つの軸が東京編の見どころになります。「一人前の植物学者となって、寿恵子を迎えに行く」という万太郎の前に、恋のライバルが現れるなど、一筋縄ではいかない展開ですので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。
高知編のヒロインが綾だとしたら、東京編のヒロインは寿恵子。古い因習やしがらみに縛られることなく、新しい世界へと飛び込んでいくヒロイン像を描きたいと思っています。

また、万太郎と竹雄の関係性も、主従関係から相棒へと変化していきます。ただ、「自分がいなくても、万太郎はやっていけるんじゃないか」というさみしさも今後感じるように。悩みが尽きない竹雄の今後にも注目していただけたらと思います。
――万太郎はもちろん、綾の物語も見どころが多いですが、モデルはいらっしゃいますか?
最初に、牧野富太郎さんをモデルとした朝ドラをやりたいと上層部にプレゼンする際、「学者版・坂本龍馬」の話だと伝えていました。龍馬と同時代の土佐人で、常識にとらわれず、道を切り開いていった植物学者だと。富太郎さんは一人っ子なのですが、綾さんのイメージは、坂本龍馬の姉・乙女になります。負けん気が強くて、男気があるキャラクターを描きたいと。
そして、もうひとつ参考にしたのが、富太郎さんの親戚で許嫁の猶さんです。実際、富太郎さんと婚姻関係にあった可能性があります。この猶さんの存在に、私も長田さんも強く惹かれまして。そのなかで長田さんが、「きょうだいとして育った綾は、実はいとこで、タキさんから結婚を命じられる」という設定を生んでくれました。すごいアイデアだなと感じましたね。ちなみに、猶さんは番頭の井上和之助と結婚をして、「岸屋」という酒屋を継ぐというのが史実であります。もちろん「らんまん」はオリジナルストーリーなので、今後の展開を楽しみにしていただけたらと思います。
――神木さんをはじめとした主要キャストの魅力を教えてください。
神木さんは、「この人の近くにいたら面白いことがありそう」と思わせてくれる方です。周囲の人を自然と巻き込む魅力は、万太郎のモデルである牧野富太郎さんにも通じるところ。その雰囲気が映像にも表れていると思います。
現場での神木さんは、皆さんがイメージされている神木隆之介そのままです。裏表がまったくなく、ハードな撮影スケジュールが続いても、神木さんはいつも笑顔なんです。その笑顔に、スタッフ・キャストは救われています。

寿恵子を演じる浜辺美波さんは、懐が深いといいますか、底知れぬ魅力があるんですよね。神木隆之介の演技を受けて立てる、若い俳優さんは浜辺美波さんしかいないと思って、キャスティングしました。寿恵子のキャラクターは、ちょっとオタクっぽいんです。『里見八犬伝』が大好きで、物語の世界に入り込む女性。そんなオタク気質が、万太郎の植物オタクとも共鳴して、恋愛へと発展していきます。そんな寿恵子の癖の強さも、浜辺さんは見事に表現されています。そのお芝居にも目が離せないですね。
竹雄を演じる志尊さんとは、今回初めてご一緒しました。これまで、朝ドラ「半分、青い。」(2018年)や「女子的生活」(2018年)で性的マイノリティーの役も演じられていますが、最近は男っぷりが良い方だなと感じていて、竹雄役をお願いしました。
神木さんと志尊さんは親交が深い仲。神木さんは、「志尊の存在が支えになっている」とおっしゃっていましたし、志尊さんも「(30歳を迎える神木さんにとって)大事な仕事となるこの朝ドラをしっかり支えたい」という思いを胸に参加してくれています。そのリアルな友情が、ドラマにも反映されていると感じます。
しきたりや因習に対してもがきながらも、前に進んでいく綾は、素朴で古風なイメージのある佐久間由衣さんにぜひ演じてほしいとお願いをしました。第5週の放送で「峰屋を私に任せてほしい」と演説する場面は、現場で見ていてとても感動しましたね。
タキを演じる松坂慶子さんは、ふだんは本当に優しい方で、「(怒るのは)私の苦手な分野だわ。タキさんのように強くないから、すごく憧れる」とよくおっしゃっています。松坂慶子さんの新境地の役だと感じます。
――これまでの“朝ドラ”と違い、次週予告が必ずしも入らないことが話題となっています。
予告が入った方が、放送として面白ければ入れますし、本編だけで充分面白ければ入れないなど、臨機応変に対応しています。皆さんのお芝居が本当にいいので、なかなかカットできないんですよ。第25回の放送では、東京編の予告を入れたいけれど、カットできる場面もなかったので、オープニング映像をカットしました。面白いものをあますことなく届けるため、今後も柔軟に対応していきます。
――最後にメッセージをお願いします!
これから万太郎が下宿することになる長屋の個性的なメンバーや、植物学への道をすすむなかで大きな壁となって立ちはだかる、東京大学植物学教室の田邊教授(要潤)とのライバル対決なども、今後の見どころのひとつです。

万太郎の人生をどこまで描くかは、現時点では決まっていません。構想はまだ長田さんの頭にしかありませんが、長田さんが描く骨太でダイナミックなストーリーにしっかり応えられるよう、キャスト、スタッフ一同撮影を進めています。引き続き、今後の「らんまん」も楽しみにしていただけたらうれしいです。