大河ドラマ「どうする家康」で、夏目広次を演じる甲本雅裕。
家康にいつも名前を間違えられる夏目だが、
三方ヶ原の戦いで大きな使命を果たすことに――。
演じる甲本に、役への思いと第18回の見どころを聞いた。


――夏目広次の人物像をどのように捉えて演じていますか。
殿(家康)に会うたびに名前を間違えられてしまう夏目ですが、身を粉にして殿を支える家臣の一人です。殿と夏目のかけ合いのシーンを見ていると、コミカルでクスっと笑ってしまうかもしれませんが、僕としては夏目が家臣団の中で特別な存在とは捉えず、それぞれがそれぞれの思いで殿へ忠誠を誓っていると思いながら演じています。

戦国時代において一人の主君に忠義を尽くす男を演じるとなると、自分自身を役に重ねるのではなく、夏目広次そのものにならなければなりません。戦いによって目まぐるしく状況が変わる中で、夏目の殿に対する気持ちはぶれないように、そして彼の一本気なところを意識して演じたいと。ただ、それを全面に表現するのではなく、思いを胸に秘めた男として見えればいいなと考えていました。


――これまで演じてきた中で印象に残っているシーンを教えてください。
僕の中では、夏目の登場シーンがいちばん印象に残っています。駿府から岡崎に戻ってきた殿と対面する場面(第1回)。夏目にとっては久々の再会となり、「夏目広次です」と名乗るけれど、殿からは「すまぬ」と思い出してもらえませんでした。

ただ、そこで夏目は「よいのです」と答えるんですよね。しかも「よいのです」と言って立ち去ろうとするけど、そこでもう1回「よいのです」と……。僕の中では、殿との再会が夏目にとってはすごく大きなものであったし、2回も「よいのです」と言ったことに、きっと何か意味があるのだろうなと思いながら演じました。


――夏目にとって、主君・家康はどのような存在だと感じていますか。
夏目にとっては、まさに自分の命を捧げる特別な存在だと思います。一向一揆で一揆側に寝返った夏目でしたが、多くの家臣から助命嘆願が出されたということで、謀反の罪は不問となり、再び殿に仕えることになりました。

夏目の中では、1回死んだに等しいくらいの思いだったでしょうから、自分の命は殿に捧げるという覚悟を持ってお支えしたのではないでしょうか。

夏目自身は生きながらえていること自体が不思議で、そんな自分を許せないと感じることもあったかもしれません。それでも生きるならば、命を惜しまず殿に全身全霊を尽くす。過去の過ちを消せない分、いつそれを帳消しにする働きができるか。夏目は常にそのときをうかがっているのかもしれないですね。


――謀反を起こしても仲間から慕われる広次の魅力はどんなところでしょうか。
時代に関係なく、人間って良くも悪くも自分がどう思われているのか気づきにくいと思います。夏目に関しては、常に見えている部分よりも見えないところでの生きざまみたいなものが、全てにおいて誠実だったのではないでしょうか。

誰かに気に入られたいから良いことをしようとか、好かれたい、嫌われたくないとかを一切考えずに生きてきた人物のような気がします。謀反を起こしても多くの家臣から「夏目を許してやってほしい」と助命嘆願が出されたということは相当なことですからね。それだけ周囲から愛され、誰もが認める誠実な男だったのだと思います。

その助命嘆願のおかげで、夏目の人生は決まりました。それは「殿を守ること」のみ。自分が抱く夢や希望も、すべて殿を守ることに集約される。その一心で再び仕えることになった夏目ですが、派手に前に出ていかないところも彼の魅力ですよね。

決して熱くならず、地味なところがすてきだなと思いますし、たまに表に出てくると、殿から名前を間違われていますから(笑)。でも、そのことに動揺するわけでもなく、淡々と自分の務めを全うする夏目なので、そこもかっこいいなと思います。


――家康役の松本潤さんと共演しての印象はいかがですか。
松本さんが10代のころから何度も共演させてもらっているので、松本さん演じる殿の家臣として一緒にお芝居できることが純粋にうれしいですね。「どうする家康」での共演が決まったときから楽しみでしたけど、やっぱり現場に来ると気配りの方だなと改めて感じます。

いろいろなところに目を配っていて、そういう人間性が家康とも重なるんですよね。今回共演させてもらえたことで、次にまた再会して一緒にお芝居をすると、違った意味で楽しいだろうなと思いました。


――松本さんが演じる家康の魅力はどんなところでしょうか。
弱いところも含めて全部をさらけ出す人間味と言いますか。自分では出していないつもりでも出ているのが今回の家康なんですよね。その姿を、松本さんを通して見ると、愛しさを感じるし、守りたくなってしまうんです。

一緒に演じる側が、心からそう思えるってとてもありがたいことだと思います。役者だから何でもやらなければならないというのは当たり前なんですけど、体内までが役と同じ気持ちになれたことが本当にうれしかったですね。


――今後の夏目の注目ポイントを教えてください!
キーワードは「三方ヶ原の戦い」です。この戦いに夏目がどう絡んでくるのか、注目していただきたいです。これ以上はネタバレになるので詳しくは言えませんが、歴史的に見れば、この三方ヶ原の戦いから家康がどのように変化していくのかも見どころになってくると思います。

家康の人生において、1つの変化のきっかけとなる夏目の活躍を見届けていただけたらうれしいです。ちょっと自分でハードルを上げてしまいましたかね(笑)。
ぜひ、第18回をお見逃しなく!

甲本雅裕(こうもと・まさひろ)
1965年生まれ、岡山県出身。NHKでは、大河ドラマ「元禄繚乱」「武蔵 MUSASHI」「新選組!」、連続テレビ小説「こころ」「カーネーション」「カムカムエヴリバディ」などに出演。