――2021年ご出演発表の会見にて、「地響きのように家康に影響を与えられたら」というコメントもされていました。改めて、武田信玄をどのような人物と捉えて演じられていますか。
「どうする家康」というタイトルなので、家康にどれだけ大きな影響を与えたのか。武田信玄といえば、甲斐の山奥にいる、圧倒的な強さをもった武将です。家康にとってかなりの存在感があっただろうし、家康は信玄との戦いの中で戦術も人間性も含めて多くを学び、成長していくのです。
今回の大河ドラマの信玄の役割としては、家康にとっての超えられない壁であること。その役目を全うしたいと思っています。そして演じる上では、完璧で神がかった人というよりも、人間らしい面も出せるよう意識しています。
クランクイン前は、オンデマンドで大河ドラマ『天と地と』の高橋幸治さんのをはじめ、信玄が出てくる過去作品を中心にいくつか拝見しました。実在した人物を演じる前には必ず行くのですが、お墓参りにも伺いました。
昔は、自分が演じる武将のイメージが少しでも良くなるようにしたいという思いもありましたが、今はあくまで作品における役割をきちんと捉えて演じようと思っています。
――大河ドラマ『天地人』では上杉謙信役、今回はその宿敵・武田信玄役。どちらの視点もご存じの阿部さんですが、改めて武田信玄や、家臣も含めた“チーム武田”の印象はいかがですか。
前回出演した大河ドラマ『天地人』では上杉謙信を演じたので、今回その宿敵である武田信玄を演じるのは感慨深いものがありました。あの頃からあっという間に14年経っていて驚いていますが、この14年間で培ったさらに深いものを出し切って、信玄としての役目を果たしたいと思っています。
当時から抱いている武田信玄の印象としては、とにかく謙信と共に最強の武将。戦略家で「いくさは勝ってから散るものぞ」というように、戦の前から綿密に手を打ち、知略の面でも抜群に頭がキレる人です。
一方、諸説あるようですが、父親からも愛情を受けられない不遇な時代があり、その後、若くして父親を甲斐から追放もしているので、相当な苦労があったと思います。
その苦労した時代があったからこそ、民を含め、人の気持ちもわかる人でもあったのでしょうし。人としての強さも優しさもあり、それが多くの人々を惹きつける力となったのだと思います。
そして武田勢は、信玄だけではなく、息子・勝頼をはじめ穴山梅雪、武田四天王の一人・山県昌景など最強の仲間がいたことも大きな力でした。
今作でも、チーム武田として、家康が勝手にびびってしまうほどの圧倒的に余裕ある雰囲気を醸し出せたらいいなと思っていますが、皆さんと一緒に芝居をする中で、自然とその空気も作り出せたのかなと思っています。
――信玄の特徴的な扮装やヘアメークについても視聴者の皆さんから大きな反響をいただいていますが、阿部さんご自身はどのようにお感じになっていますか。
特殊メークと髭がすごいですよね。この2つの準備に、毎回3時間強かかる。朝いちばんで入って、その準備を経てからの芝居なので、準備はすごく大変でした。でもおかげで、圧倒的な雰囲気を作ることができました。
――松本潤さんとお芝居でご一緒されていかがでしたか。
芝居でご一緒したのは第11回「信玄との密約」で初対面を果たすシーンだけですが、収録前から、一緒にお芝居できることを楽しみにしていました。家康と密約をかわすというシーンでしたが、それぞれの役割をしっかり理解して役を作っていく集中力の高い現場でした。餅が固くてびっくりしました。

阿部寛(あべ・ひろし)
1964年生まれ、神奈川県出身。NHKでは、「遙かなる山の呼び声」シリーズなど。大河ドラマは「八代将軍吉宗」「天地人」などに出演。