これで「ラビットサイド」の家康は終了なのか?

大河見た蔵(以下 見た蔵):放送は1週間空きましたけど、第14回もちゃんと見ましたよ~。途中から、家康(松本潤)が大変身しましたね!
同門センパイ(以下 同門):まるでスイッチが入ったかのような豹変ぶりに、やや驚いたが(笑)。このドラマのひとつの分水嶺になったかもしれない。

見た蔵:前半では信長(岡田准一)の前で拍子抜けなギャグ?をやってましたが、後半は迫力がありました!
同 門:まずは、順を追って見ていこう。今回も女性の活躍がしっかりと描かれていたね。

見た蔵:お市の方(北川景子)の侍女、阿月(伊東蒼)ですね。子どものころから足が速くて、男の子にひけをとらなかった。競争に勝ったら干し柿をもらえるはずだったのに、「女だから」という理由で相手にされなかった苦い思い出。
同 門:そんな阿月の半生が、きちんと描かれていたね。挙句の果てには、父親に身売りされてしまうという。

見た蔵:なんとか逃げ出し、あざ長政(大貫勇輔)の居城に盗みに入ったところを捕らえられ……、市に拾われたんですね。
同 門:阿月は、その恩義にいつか応えようと思ってたんだろう。
見た蔵:前回コンフェイト(金平糖)ももらってましたし(笑)。

同 門:一方、信長率いる幕府軍は金ヶ崎城を簡単に落として、早くも戦勝気分の様相だったね。
見た蔵:家康はみんなで越前ガニを食べながら、金ヶ崎にひっかけて「カニがサキにおわしゃあす」って(苦笑)。座は一瞬凍ったけど、信長が笑ってくれたのでひと安心。

同 門:放送を見た後、これが「ラビットサイド」の家康の見納め?と思うと、ちょっと寂しい気もしたな。
見た蔵:センパイ、その「ラビットサイド」、ちょっと懐かしいですね(笑)。

同 門:確かに(笑)。連載初期、家康の二面性をそう命名したが、しばしご無沙汰していたね。弱くて優柔不断な家康が「ラビットサイド」で、意志堅固で勇敢な家康を「タイガーサイド」。さて、今後は「タイガーサイド」全開となるのか?
見た蔵:はたまた、センパイの奥様もお気に入りの「ラビットサイド」がどれくらい描かれるのか?
同 門:おいおい(苦笑) 


「信長の野望」で変身した長政と家康ってなんだ?

見た蔵:そんな緩んだ幕府軍にあって、家康には何か気にかかることがあったようですね?
同 門:家康は長政とは一度しか会っていないけど、長政の心中に「アンチ信長」の思いがあることに気づいていたんだね。それは家康の中にもくすぶっていたからこそ、気がついた。
見た蔵:つまり、信長が朝廷や将軍を利用して、天下を我がものにしようとする野望を見抜いていたという。
同 門:そう。長政は、朝倉氏と同様、今後少しでも信長に異を唱えれば、自分もやられる……。そう確信していたんだろう。

見た蔵:もし信長に逆らえば、朝廷と幕府に歯向かうことにもなりますからね。
同 門:だから長政は朝倉氏と組んで、信長に反逆する決断をする。浅井・朝倉で幕府軍を挟み撃ちにすれば、勝機はあると踏んだんだ。

見た蔵:家康はそれが気になって、モヤモヤしてたんですね? いつか長政が変身してしまうのではないかと……。
同 門:少し気の利いた武将ならば、長政の変身は十分ありうると気づくはずだ。

見た蔵:石川数正(松重豊)ですね!
同 門:「心によどみのない長政が義兄弟の信長を裏切るはずがない」とする家康に対して、数正の見方は「心によどみがない実直なご仁。だからこそ裏切るということでは?」だね。
見た蔵:家康は信長のもとへノコノコ出向き、数正の言葉をそのまま伝えて、信長の逆鱗に触れちゃいました。
同 門:でも、ここからが今回の最大の見せ場。「タイガーサイド」全開で、家康が大変身することに。今後、大きく成長をとげるきっかけとなるか、だね。


ついに覚醒した家康ってなんだ?

見た蔵:家康が退却を進言したとき、信長はともかく、家臣はみんな嘲笑してましたよね? お前らの先読みは数正以下なのか、と思ってしまいました。
同 門:私が意外だったのは、明智光秀(酒向芳)。「(退却は)幕府の威光を損なう」って、甘い精神論をぶっていた。

見た蔵:ボクも光秀はもっと冷静な判断をするかと思ってました。映画『スタートレック』の天才科学者スポックみたいに、「その判断は論理的ではありません。長政が裏切る確率は1.9パーセントです」なんて言ってほしかったなあ。
同 門:映画では、カーク艦長が「その作戦の成功確率は極めて低い」というスポックの進言を退けて大勝利するんだけどね(笑)。

見た蔵:さて、そこから、まさかの家康と信長の全面対決がはじまりました。
同 門:「オレは将軍と朝廷のために戦っている!」という信長に向かって「お主を信じられぬ者もいる!」。さらには「お前の心の内などわかるものか!」。もうタメグチ(笑)。

見た蔵:去り際には「ふざけるなこのアホ、タワケ!」ですもんね(笑)。
同 門:その後、柴田勝家(吉原光夫)が仲裁にきて、ちょっとホッとしたね。ここで初めて信長と家康のケンカしても壊れない信頼関係が暗示されていた。

見た蔵:本人はまだビクビクものだったようですが、ここで家康が「覚醒」した、と感じました。松本潤の芝居もここで一転、「タイガーサイド」に全面突入しましたね。
同 門:松本潤は、これまで「ラビットサイド」の家康を演じるのに苦労していたのかもしれないね。一皮むけた家康の演技は、実に凄みがあった。

見た蔵:確かに、松本潤の芝居はふっ切れた感じでよかったです。
ここで、命がけで市の伝言を伝えた阿月が登場。家康に会うまでの走るシーンはちょっと長かったかな。なんか、太宰治の『走れメロス』を思い出しました。でも、40キロ走って死ぬかなあ? 今のフルマラソンの距離ですよ。
同 門:野暮なこと言うんじゃないよ(笑)。女性として虐げられてきた彼女の人生は、市のために命がけで走ることによって救われるんだから。
さて、市の伝言を聞いた信長はやっと退却を決意する。しんがりを秀吉(ムロツヨシ)にまかせてね。このときの秀吉の奮戦は有名な話だ。

見た蔵:ドラマでは、驚がくして、家康に協力を求めてましたね。協力しなければ家康が浅井・朝倉と共謀してた、と言いふらすと脅して。
同 門:家康は秀吉に「クズじゃなお前は」と言い放った。今後の家康と秀吉の関係性を暗示するようなシーンになっていた。史実では本能寺の変で信長が死んだ後、この二人は微妙な関係の中で生きていく。今後、どう描かれるか気になるね。


「テレビ桟敷談義」も変身します!?

同 門:さて今回、家康が一皮むけた、ということで、この「テレビ桟敷談義」も一区切りにしたいと思う。
見た蔵:シーズン1終了ということですね。
同 門:これから、姉川の合戦、三方ヶ原の合戦、長篠の合戦と、家康の生涯で重要ないくさが続く。この辺はドラマで十分に描かれるだろうから、目は離せない。私たちも毎週見るよね。見た蔵クン。

見た蔵:もちろんですよ!
ところでセンパイの本棚を見たら、山岡荘八(1907-1978)の小説『徳川家康』がありました。文庫版で全26巻の大長編なんですね。
同 門:うん。昭和30年~40年代に「徳川家康ブーム」を起こした小説だ。滝田栄が主演した大河『徳川家康』(1983)の原作はこれ。家康を描いた小説の決定版だし、一度は読んでおきたかったんだ。

見た蔵:もう全部読んだんですか?
同 門:まさか(笑)。やっと第12巻だ。読んでみてビックリしたのは、家康含めて登場人物の造形が『どうする家康』とかなり違う。ここでの家康はドラマと違って、全然オタオタしてないよ(笑)。あとキミの好きな瀬名=築山殿(有村架純)の描き方はビックリだ。

見た蔵:ボクも読んでみようかな(笑)
同 門:また、信長や秀吉はじめ他の武将のエピソードにも相当ページを割いているので、「主人公の家康はいつ出てくるの?」と思うこともしばしば。
それに12巻までだと話の進み方がずいぶん早い。第8巻でもう本能寺の変が出てくる。このとき家康は39歳だ。第12巻では家康は44歳。彼は70代半ばまで生きているから、残りの14巻はどう話を進めているのかな(笑)。

見た蔵:今回放送された金ヶ崎のいくさでは家康は28歳くらいですものね。
同 門:この小説では、巻を追うごとに進行を遅くして、家康の後半生をしっかり描こうとしてるんだろうね。山岡荘八のねらいは、合戦に明け暮れた若いころの家康よりも、徳川幕府という安定政権を築いた、壮年期以降の家康にスポットを当てることなのかもしれない。

見た蔵:へぇ~、その辺の話もいつか教えてください。
同 門:さてさて、今回はこの辺にしようか。
私たち素人の与太話に付き合ってくださったみなさん、ありがとうございました! 近々またお目にかかりましょう!

見た蔵:いいところでやめるなんて!と怒る人もいるんじゃないですか? 
同 門:ありがたいところだが、ここは、一旦謝っておこうか。
同 門見た蔵どーもん、スイマセーン!

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