大河ドラマ「どうする家康」の題字(タイトルロゴ)を手がけたのが、
さまざまな分野で活躍するデザインユニット・GOO CHOKI PARだ。
タイトルの6文字が“丸”の中に表現されているという斬新さが特徴のデザイン。
題字に込めた思いや制作エピソードを聞いた。


――オファーを聞いたときの率直なお気持ちを教えてください。
2022年3月にお話をいただいたのですが、まずびっくりしたのはドラマのタイトルです。戦国時代に天下統一を果たした偉大な人物として誰もが知る家康ですが、その名前に“どうする”が付いていて正直驚きましたね。

ですので、物語そのものが今までの大河ドラマとは違うアプローチになるのだろうと思いましたし、題字に関しても、ふつうの筆文字で表現するものではないなということをすぐに想像しました。

実際、ドラマの制作側からは「今まで見たことのないドラマにしたいから、大河ドラマらしさとか既成概念を取っ払ってもいいので自由に作ってほしい」と言われました。僕らも、大河ドラマの題字ということで非常に光栄でしたし、絶対に面白いものを作ってやろうという気持ちでしたね。


――制作過程は、どのようなものだったのですか。
最初にドラマ全体のあらすじを読ませていただいたうえで、歴代大河ドラマの題字やポスターなども拝見しました。その中で、今までにないデザインにするには、文字の形やバランスはどういうものがふさわしいのかを考えましたね。

もちろん家康のことも調べましたし、当時の家康が使っていた花押もいくつか見ました。筆跡がとてもやわらかいといいますか、そういった要素も題字の質感に取り入れたいなと思ったので、今回は“手書き風”をポイントの1つにしました。

それと同時に浮かんだのが“丸”です。歴代の大河ドラマには丸い題字がなかったのもそうなのですが、あらすじを読んだときに、これまでの家康のイメージとは違って、強さと弱さの両方を持っていて、とてもやさしい人物だなと思ったんです。

特に青年期は、そういう一面が見え隠れしながら家康は悩み、戦国乱世の激動の時代を転がり続けていきます。そして最後には太平の世をまるっと作り上げていく。そういう彼の人生を表現するには、丸いロゴにするのがいいのではと思ったんですよね。


――最初に制作チームに丸ロゴの題字を提案したときの反応はいかがでしたか。
やはり、大河ドラマの歴史を見てもこのような題字はなかったので、「いいね!」という意見もあれば、「本当にこれで大丈夫なのだろうか?」という意見もありました。また、この書体で「どうする家康」と読めるのかという議論にもなりましたね。

ただ、題字としてはこのように丸い塊で表現されていると、1回認識してもらえれば流用性がありますし、さまざまなところに掲載されたときにひと目でわかることも大事なポイントになりました。

もちろん可読性を高めるための微調整も重ねました。実際、読みやすさを優先にするのであれば、既製のフォントを使ったほうがいいのですが、デザインとして面白いものができるかというとそうではありません。

デザイン性を意識しつつ、読みにくさを解消するのは難しい部分ではありますが、どこまでデザインで攻められるかのせめぎ合いもありましたね。最終的には、良い着地点に収めることができたと感じています。


――デザインで苦労されたことは何ですか。
制作期間としては半年近くかかりましたが、完成形に持っていくまで、編集ソフトのファイルが数十ファイルにもなっていましたね(笑)。漢字とひらがなを丸の中に収めるバランスが思っていた以上に大変でした。

また、パソコン上ででき上がったものを最後出力して、それを手書きで起こす作業を行ったのですが、それも結構苦労しましたね。やはり、イラストレーターで作った線だときれいすぎるので、手書きの柔らかさや温かさを感じてもらえるように最後の最後までこだわりました。題字をよーく見ていただくと、手書きの質感が表現されていると思うので、ぜひご覧ください。


――「どうする家康」という作品の中で、この題字がどのような役割を果たしていけばいいなと感じていますか。
大河ドラマという伝統のある作品の題字ですので、僕らもいくつか案を提示するのではなく、いちばんいいデザインを、自信を持って出したい思いがあったので提案は1つに絞りました。ドラマの制作側とも、その1つのデザイン案を軸にいろいろな議論を重ねることができたのはとても有意義な時間でした。

今の世の中に向けて、まだ見たことがない作品を作りたいという強い意志を、主演の松本潤さんをはじめキャストの皆さん、脚本の古沢良太さん、監督を含めたスタッフの皆さん全員が持っています。僕らが作った題字も、新しい大河ドラマを表現する1つのアイテムとしての役割を果たせたらいいなと思っています。

そして、どうしても大河ドラマって年配の方たちが見る作品という印象が強いので、題字をきっかけに若い世代の方たちにも「どうする家康」に興味を持っていただけたらうれしいですね。

GOO CHOKI PAR(ぐー・ちょき・ぱー)
浅葉球・飯高健人・石井伶の3人のグラフィックデザイナーで活動するデザインユニット。言語・思考を超えた「ビジュアルコミュニケーション」を主軸とし、さまざまな領域で創作活動を行っている。これまでにISSEY MIYAKE、NIKE、Redbullなどのグラフィックを手がけ、「東京2020大会」ではパラリンピックのアイコニックポスターを制作。NY ADC Gold, One Show Gold, D&AD Yellow Pencil等受賞。