植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)と、その妻・寿恵子(浜辺美波)の波乱万丈な生涯を描く、連続テレビ小説「らんまん」。高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルとしたオリジナルストーリーだ。主人公を演じる神木隆之介に、“朝ドラ”で主役を務める思いや共演者とのエピソード、役の見どころを聞いた。


――「らんまん」主演のオファーを受けたときお気持ちを教えてください!

最初オファーをいただいたときは、「えっ、僕がヒロインですか?」「いえ、主演です」と冗談交じりのやり取りをさせていただきましたが(笑)、すごくうれしかったです。同時に、大きなプレッシャーもありました。

“朝ドラ”というと、長期間の撮影のなか、いろんな壁を乗り越えていくイメージがあったので、一筋縄ではいかないといいますか、精神力が強くないと乗り切れないと感じていました。ただ、“朝ドラ”の主演をやらせていただく機会なんて、人生で1度あるかないかなので、ぜひこの機会にやらせていただきたいと思い、お引き受けしました。

主演を務めることに、親や友達もすごく喜んでくれましたし、多くの方から「朝ドラおめでとう。絶対見るね」というお祝いの連絡をいただけてうれしかったです。

――主演へのプレッシャーは、撮影に入ってから変化はありましたか?

当初よりは、緩和されてきました。これまでは主演だからちゃんとしなくてはいけないという勝手な思いもあったのですが、「らんまん」を通して、舞台地である高知県の皆さんに喜んでもらうことを目標に掲げたら、自分の気持ちも楽に、穏やかになりましたね。

もちろん「良い作品にしたい」という思いは、役者の当然の感情としてありますけれど、それにとらわれすぎたら、高知を舞台にした作品を、高知でロケしている理由を忘れてしまうので。高知が盛り上がればという願いを込めて演じています。

――万太郎を演じるうえで意識されていることや、自身との共通点を教えてください。

感受性が豊かで、探究心が人一倍強いところは、演じるうえで強く意識しています。万太郎が今、何に興味があって、何に突っ走っているのか、表情豊かにわかりやすく表現できればと思っています。悲しいときは悲しい顔をするし、うれしいときは本当にうれしそうな顔をする、うそをつけない人間だと思うんです。僕はそういう人大好きなので、そんなキャラクターに見えていたらうれしいですね。

自分と似ているところは……、僕もオタクで、趣味もいっぱいあって、「知らないことがあれば知りたい!」って強く思うので、そこは似ているかなと思います。あと、お調子者なところもですかね(笑)。

――万太郎に影響を受けて、植物への向き合い方に変化はありましたか?

植物を見ると、話しかけたくなるようになりました。いままでは、アスファルトを突き抜けて咲いている花を見ても「きれいな花だな」くらいにしか感じていなかったのですが、万太郎を演じるようになって、植物の命の力を感じるようになって。だから、「アスファルトを突き抜けるまでに、どのくらいかかったの?」と話しかけたくなるんです。

――今作は、幕末から明治、そして大正、昭和と、激動の時代を駆け抜けていきますね。

そうですね。明治時代は、海外の文化が入ってくるようになるなど、変化のある時代ですよね。万太郎自身も異文化に触れながら、自分の世界を広げていきます。世界はこんなにも広いんだという実感とともに万太郎自身の価値観も変化していくので、時代の影響は大きく受けていると思います。

その中でも「異文化」が大事な一つのポイントになっています。植物学は、当初は日本の植物でも、海外の学者が名前を決めて発表することが多かったらしいのですが、牧野富太郎さんあたりから、日本人も名前を付けていくようになります。ほかにも、坂本龍馬など、世界に目を向け、挑戦していく偉人がたくさんいました。そんな時代の空気と、好きなものをとことん突き詰める万太郎の性格は、あっているなと感じます。

――土佐ことばには、慣れてきましたか?

慣れてきたはずなんですが、やっぱり難しいですね。いま、いちばん苦戦しています。日常会話以外にも、植物の説明を土佐ことばで話すのがすごく難しくて。脚本の長田育恵さんには、「記憶力が持たないんで、勘弁してください」とお伝えしましたが(笑)、とにかく頑張ってマスターしたいと思います。土佐ことば、すごくかわいいですから。

――“朝ドラ”の座長として心がけていることはありますか。

「遊び心」です。長丁場の撮影を全部真面目に行うことって、けっこうきついと思うんです。まず、僕がふざけていないといられない人間なので(笑)、楽しく撮影を進めたいと思っています。もちろんまじめなシーンは、まじめに演じますが、リハーサルやテスト撮影で少しアドリブを入れてみるといったような、遊び心も必要だと感じていて。特に、途中から「らんまん」の現場に入られる方は、様子を見ながら参加されると思うので、軽やかな現場だと感じてもらえる空気を作りたいと思っています。そういう空気感の現場は、僕だったらすごくうれしいので、やれることをできる限りやっていきたいと思います。

――撮影現場の雰囲気はいかがですか?

楽しいです! 初めてお会いした方もいらっしゃいますけど、ほとんどが過去に共演させていただいた方々ばかりで。なかでも、信頼する志尊淳さんと浜辺美波さんが、万太郎にとって存在の大きい竹雄と寿恵子を演じてくださるのは、すごく大きいです。二人と一緒に演じることができ、本当にうれしく思います。二人とも、僕の扱いを慣れていますから(笑)。

――万太郎の妻・寿恵子を浜辺美波さんが演じます。ご一緒された感想を教えてください。

一緒のシーンはまだ少なくて、これからがっつり撮影することになると思います(※取材当時)。4年前に共演した映画『屍人荘の殺人』はコメディ寄りの作品でしたが、「らんまん」では、恋に落ち、信頼をしっかり築き上げながら、夫婦になっていく関係になります。真面目なシーンを一緒に演じることはこれまで少なかったので、初々しい場面なども楽しんで演じられたらと思います。

浜辺さんは、4年前とぜんぜん変わっていないですね。『屍人荘の殺人』のときから、エッジが効いているといいますか、おもしろみのある方。僕の中にはまったくない表現方法だったり、言葉の使い方をされたりする、唯一無二の存在です。浜辺さん独自の感性を、どんなふうに寿恵子に取り入れられるのか、とても楽しみにしています。

――「らんまん」で感じられたメッセージやテーマはありますか。

酒屋の当主として生まれた万太郎は、酒屋を継がなければいけない運命にあります。このように家系的に決められたことを、人は無条件で受け入れないといけないのかという、「個人の尊重」に関する投げかけも今作にはあります。

もちろん、酒屋を長く受け継いできた方たちの確固たる思いもわかるように、しっかり描かれています。ただそれでも、自分の好きなことに挑戦したいと、万太郎たちは突き進むんですね。その姿は、今の時代にも共感、応援してもらえると感じます。

――最後に、視聴者の皆さんへメッセージをお願いします!

僕は今回、「テレビの前でしっかり見てください」と言いたくはなくて。“ながら見”でも、音だけでもいいので、気楽に見てほしいです。“朝ドラ”は、朝、いろんな準備をする時間帯に放送されている作品ですよね。「なんか楽しそうな声が聞こえるな」と、なんとなく見てもらうような、皆さんの日常の中に溶け込む作品になってほしいと思います。むしろ、「らんまん」が放送しているという感覚もなくなるくらい、皆さんのすぐそばにあって、心に寄り添える作品を目指しています。ぜひ、よろしくお願いいたします!

神木隆之介(かみき・りゅうのすけ)
1993年5月19日生まれ、埼玉都出身。NHKでの出演は、大河ドラマ「義経」「平清盛」「いだてん~東京オリムピック噺~」、「あおきいろ」(声の出演)など。