「麒麟がくる」の逆をついた義昭像ってなんだ?

大河見た蔵(以下 見た蔵):センパイ~、第13回、見ました!
家康(松本潤)ったら、武田信玄(阿部寛)に詫びを入れるなんて! どアタマから、まさにコンフェイトです!
同門センパイ(以下 同門)コンフェイト~?

見た蔵:甘いです。信玄もよく許しましたよね、あんなに怒ってたのに?
同 門:なるほど(笑)。前回キミの言ってたように、氏真(溝端淳平)を無事北条に送り届けたことで、北条と徳川が接近したのは間違いない。武田も安易には手を出せなくなったんだ。

見た蔵:信玄の家臣も「(北条と徳川が一緒に攻めてくれば)ただでは済まない」と言ってましたね。
同 門:いざ戦となれば、それなりの犠牲は必定と見て、ここはひとまず静観という判断だろう。
見た蔵:ドラマには出てこなかったけど、どんな詫び状だったんでしょうね?
同 門:ちょっと気になるね。酒井忠次(大森南朋)に行かせたみたいだけど。

見た蔵:氏真を兄と思って逃がしたなんて、ホントのことは言えないですよね?
同 門:きっと、こんな感じじゃないかな。
「お申し付けのとおり氏真めを討ち取ろうと奮闘いたしましたが、当方の未熟さゆえ、まんまと逃げられてしまいました。誠に申し訳なく、遺憾の限りでございます。ご懸念のように信玄さまに盾突くつもりは毛頭ございません。今後機会あらば、かならず氏真めの首級をお届けいたしますので、今回はひらにご容赦を……」。

見た蔵:へえ~、センパイ、お詫びが上手ですね!
同 門:仕事でミスばっかりしてきたから、謝るのは慣れてるんだ……って、余計なことを言わすんじゃない!(笑)
見た蔵:(笑)。ということで、武田問題も小休止。家康上洛となりました!
同 門:キミの言ってた叙位・任官のお礼参りというよりも、いちばんの目的は室町幕府15代将軍・足利義昭(古田新太)への謁見だった。室町幕府最後の将軍だね。

見た蔵:「麒麟がくる」(2020)のときの足利義昭(滝藤賢一)とは、大違い!ドリフターズもびっくりの、完全な「バカ殿」でした(笑)。
同 門:あの場面は、古田新太がもっていったよね。さすが喜劇人というか。あえて「麒麟がくる」の逆をついたのは、違和感メーカー古沢良太のねらいだろう。

見た蔵:酔っぱらった義昭が家康たちの前に現れました。義昭は、信長のおかげで将軍になった人でしたよね?
同 門:信長の天下取りのためのカイライのように見えるね。「将軍さまのために」といえば、好きなように敵対勢力を叩ける。信長は大儀名分を手にしたかったんだ。

見た蔵:そのためには「バカ殿」であるほどいいと?(笑)。
同 門:でも、史実的には今回ドラマで描かれた人物像とは少し違うようなんだ。今回は「家康をなめきっていたので、泥酔状態で謁見の場にやって来た」という設定なのかもしれない。

見た蔵:えっ!? どういうことですか?
同 門:実は、義昭は「バカ」どころか、なかなかのやり手なんだよ。もともと僧籍にあったんだけど、兄の13代将軍・義輝が暗殺された後、還俗した。諸国の大名に接触しながら、幕府の立て直しに奔走していたんだ。最終的に織田信長(岡田准一)の庇護を得て、15代将軍となった。

見た蔵:今回の義昭からは、やり手な雰囲気はまだ感じられませんけど、、、古田新太さんなら、今後、豹変する演技が見られるかもしれませんね。
ところで、間の14代将軍はどうしたんですか?
同 門:14代将軍に据えられた足利義栄よしひでは、上洛した信長に将軍の座を奪われたんだ。わずか8か月間の将軍だった。

見た蔵:義栄、残念すぎます……。
同 門:ところがね、義昭は将軍になった後ほどなく、恩人の信長と袂を分かってしまうんだ。変わり身がすごいよね(笑)。でも、挙句の果てに信長に将軍職を追われ、ついに室町幕府は滅びてしまう。
見た蔵:結局、信長には歯向かえないということ?

同 門:しかし、義昭はあきらめずに毛利氏や石山本願寺と連携を図るなど、幕府再興を目指して動き回ったんだ。結局、それも叶わなかったんだけど。その後もしっかり生き延びて、秀吉(ムロツヨシ)からは元将軍として厚遇された。波乱の生涯だったけど、最後は畳の上で天寿をまっとうするんだよ。

見た蔵:古田さん適役だったり? 策士というか、立ち回りがうまいというと。
同 門:信長みたいに華々しく生きて死ぬか、義昭みたいに諦めが悪く長生きするか――。キミも私も考えどころだ。
見た蔵:大河ドラマで考える「死生観」ですか? というか、ボクらもう十分カッコ悪く生きてるような(苦笑)
同 門:つい大河ドラマに酔ってしまった。どーもん、スミマセーン(泣)。


信長から「ネズミ」と呼ばれた光秀は今作が近い?

見た蔵:信長といえば、娘・五徳が家康の長男・信康に嫁いでいたんですね。これで織田~徳川の同盟はますます強化されたということでしょうか?
同 門:後に、この長男が悲劇の人となるんだが……。
見た蔵:センパイ、、、もうネタバレはやめてくださいよ! 話を変えましょう!
さすが京都へ行くと、いろんな人と出会えますね。センパイが前回言っていた、家康の将来に大きな役割を果たす人って誰ですか?
同 門:商人の茶屋四郎次郎(中村勘九郎)だ。「四郎次郎」の名は世襲なんだが、中村勘九郎が演じているのは初代。家康にはその後三代続けて仕え、江戸時代初期には日本を代表する豪商となったんだ。

見た蔵:いわゆる御用商人。「政商」ということですね!
同 門:徳川家の金づるというか、最大の出資者というか。ばくちでいえば家康に「張って」大儲けした人だよね。その上、彼は商人の立場を使って諸国を自由に歩き回って、地方の情勢集めて、それを家康に伝えていたようだ。家康はそれを大いに参考にして、いくさに、政策立案に役立てたそうだ。

見た蔵:金儲けにも、政治家の信頼を得るにも、情報は重要ですからね。コンフェイト(金平糖)もすぐ手に入れてきた。しかしあんなの、砂糖を固めただけでしょ? 当時は珍しくてとてつもなく高価だったなんて、初めて知りました。
同 門:そもそもあの時代、砂糖そのものが貴重品だったんだよ。日本ではそもそも江戸時代の半ばまでは、砂糖の大部分が輸入品だったんだから。金平糖が日本に入ってきたのは、ポルトガルの宣教師が信長に献上したのが初めだったとか。

見た蔵:新キャラでいえば、明智光秀(酒向芳)。イヤな奴だったな~。家康が金平糖を手に入れたのを義昭にチクったんですよね? それで金平糖は義昭に食べられちゃった。ボクの光秀は「麒麟がくる」の長谷川博己の「清廉」で「高潔」なイメージなんで、なんだかガッカリ……。
同 門:光秀は信長から「ネズミ」と呼ばれていたそうだから、長谷川博己みたいなイケメンじゃなかったろう(笑)。酒向芳のメイクと芝居が実物に近かったんじゃないのかな。


浅井長政の義兄・信長に対する本音ってなんだ?

見た蔵:光秀と正反対な印象だったのが、浅井長政(大貫勇輔)。いい人ですよね! 京の街中でトラブルを起こした本多忠勝(山田裕貴)が、信長の怒りを買って首をはねられそうになっちゃったのを、機転を利かせて命を救ったんですから。
同 門:今や長政夫人となったお市の方(北川景子)の口添えもあった。

見た蔵:お市の方、夫と仲がいいみたいで、幸せそうでした。北川景子もキレイでしたね。
同 門:浅井長政は家康の3歳年下。近江の小大名の家に生まれで、当時、近江で隆盛を誇っていた六角氏の人質として幼少期を過ごした。元服してまもなく、六角氏に反旗を翻して独立したんだ。若いころから優れた武将だったんだね。

見た蔵:人質だったなんて、、何だか家康と似てますね。
同 門:その後、信長の妹の市をめとり、織田と同盟関係を結んだんだ。
見た蔵:でも長政は、信長に弟とか呼ばれて、なんだか居心地悪そうでしたよ? 家康もそうなのを見抜いて、「今度、腹を割って話そう」みたいなことも。
同 門:長政は、信長のやり方に明らかに違和感を覚えている雰囲気だった。義兄として接してはいるんだけど。

見た蔵:信長が、将軍の上洛命令に従わない朝倉義景を討つ! と言い出しましたよね。それと関係あるんですか?
同 門:長政が信長と同盟したのは、義昭の上洛を支持したからであって、織田の家臣になったわけじゃない。また、朝倉氏に遺恨があるわけではない。むしろ朝倉氏とは友好関係にあった。だから、突然、「朝倉義景がケシカランから成敗する、協力しろ弟よ」なんて言われても困るんだよ。

見た蔵:信長が自らの野望のために、義昭を利用していると気づいたんでしょうか。「義兄上、それは違うんじゃないですか」というのが本音?
同 門:武士を束ねる幕府は支持するけど、それを私物化して天下をうかがうことに抵抗感を覚えたんだろう。
見た蔵:それで信長を裏切る決断をする。でも「いい人」だから、それを妻に隠すことはできなかった。辛かったでしょうねえ、愛妻の兄に歯向かうんだから。
同 門:家康も、びっくりだろう。しかも相手が信長となれば、厳しい戦いとなる。討ち死にも覚悟しての決断だからこそ、愛する妻に伝えた。「美学」や「信義」を重んじる、いわば今川義元(野村萬斎)タイプの武将なんだね。

見た蔵:さて予告では、次回タイトルが「金ヶ崎でどうする!」となってました。「金ヶ崎」ってどこですか??
同 門:朝倉領の敦賀だ。金ヶ崎城は朝倉氏の山城で、ここを織田・幕府連合軍が一度は占領する。しかし、長政が朝倉側に寝返って……というのが、次回の見どころということか。

見た蔵:家康は信長に言われたとおり、「北国見物」について行っただけだったんでしょうか? 予告では家来たちと気楽そうに越前カニを食べてましたけど。うまそうだったな~(笑)。
同 門:キミの見どころは、女性とグルメか(笑)。いづれにしても、次回を楽しみに待つとしよう。

(第14回、大胆レビューにつづく)

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