「武田・今川・北条」の“三すくみ”ってなんだ?

大河見た蔵(以下 見た蔵):センパイ~、第12回見ました!  今回もなかなか見応えのある回でしたね!
同門センパイ(以下 同門):サブタイトルは、ずばり「氏真」。今川氏真(溝端淳平)を準主役に据えて、今川家滅亡が描かれていた。溝端淳平の熱演がすごかったし、それをたっぷり堪能できたのがよかった。以前、氏真が面白いと話したけど、その期待にばっちり応えてくれた回だったね。

見た蔵:ボクは氏真がキライだったけど、今回、見方が変わりました!
同 門:その話は後でするとして、前回のキミの予想は半分当たっていたね。家康(松本潤)は氏真を助ける。だけど出家させなかったし、武田に無断で助けたので、信玄(阿部寛)を怒らせてしまった。

見た蔵:なんだか先行きが心配です。武田軍はめちゃくちゃ強そうですし。
同 門:いつ攻められるかわからないしね。でも、氏真と正室の糸(志田未来)を、彼女の実家の北条に無事に帰したから、家康は北条の支持を得ることになるんじゃないかな。
見た蔵:そうですね。武田は家康と合戦になったら、北条から背後を衝かれることもあり得るわけですもんね。
同 門:かつて武田は、今川と北条と同盟関係にあり、いわば三すくみ状態だった。ところが、信玄が勝手に協定を破って今川に攻め入った。

見た蔵:信玄、したたかですね!
同 門:信玄は家康に対して「大いに怒っておる」ってドスを効かせていたけど、北条だって怒っているはず。姫君が危険にさらされたわけだし。

見た蔵:センパイ、さっきから話に出てくる「北条」ですけど、これは去年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の、北条義時(小栗旬)の一族と関係あるんですか?
同 門 いや、鎌倉幕府執権の北条氏は、鎌倉幕府が倒れた時(1333年)に滅びているので、関係ない。今回出てきた北条氏は、「後北条氏」と呼ばれることもあるんだが、北条早雲(1456?~1519年)を始祖とする、小田原が拠点の一族だよ。

見た蔵:戦国時代のドラマとかでは、あんまり出てきませんよね?
同 門:そうだね。今川や織田、武田のように「天下取り」を狙っていなかったんじゃないかな。だから他の大名と派手なドンパチをやってないんだよ。天下を取るには京都に入って朝廷の後ろ盾を得なければならないし、京都に行くには進路となる地域の大名たちと戦わなければならない。無理して関東から遠征するつもりはなかったんじゃないかな。

見た蔵:なるほど、野望もないから無駄ないくさをしない。だから今川や武田とも平和協定を結んだわけですね。戦国武将としてはあまりスポットが当たらないのはそういうことですか。
同 門:初代の早雲は、一介の素浪人からのし上がったという言い伝えがある。油売りから身を起こした美濃の斎藤道三のような、いわゆる「きょうゆう」だけど、領主としては治国が上手で、領民からとても慕われていたそうだ。のちに家康は秀吉(ムロツヨシ)の命で関東を治めることになるんだけど、早雲の政策を大いに学んで参考にしたそうだよ。
見た蔵:今後、北条氏の誰かはこのドラマに出てきますかね?
同 門:家康と同世代に、北条氏直(1562~1591年)という武将がいる。後に家康は秀吉の小田原攻めに参戦することになるから、そのあたりで登場するかもね。


氏真の「悲哀」と義元の「理想」ってなんだ?

同 門:さて、今回の主役とも言ってもいい、今川氏真の話をしよう。
見た蔵:父親の義元(野村萬斎)から、「将としての才はない」と宣告され、義元が亡くなると家臣はどんどん離反してゆく……。

同 門:悲哀に満ちた状況のなかで、家康にも離反されたのが追い打ちをかけた。
見た蔵:弟と思ってたのに、ですよね。でもセンパイ、今川方として戦って、織田に攻められて苦境に陥った家康に、援軍を送ってくれなかったじゃないですか?

同 門:そうだね。家康だって好きで織田方に下ったわけじゃない。生き延びるために仕方なかったんだ。氏真は、それを理屈ではわかってるけど、心情的には認められなかったんだろう。
見た蔵:頭に血が昇ったあまり、駿府に残っていた三河衆を殺してしまい、瀬名(有村架純)にもひどいことを……(泣)。

同 門:家康も氏真に裏切られたと思っただろう。でも彼の中では、氏真を兄と慕った駿府の少年時代が、まだかけがえのない大切な思い出として残っていた。だから氏真を「真の敵」と割り切れなかったんだろう。
見た蔵:家臣に対して口では、宿敵とか言ってましたけど。

同 門:美濃時代の家康の思い出は信長(岡田准一)によるスパルタ教育だったけど、駿府時代は氏真と楽しく過ごした追憶がクッキリと描かれていたね。
見た蔵:前回の瀬名と田鶴(関水渚)との関係に似てますね。

同 門:ちょっと気になるのが、家康も瀬名も田鶴も、駿府で過ごした日々を美化して受け止めていること。彼らの少年少女時代だから、義元全盛の時代。実際、駿府はそんなにすばらしいところだったのかな? 義元の治世はそんなによかったのかな?
見た蔵:そういえばここ数回、今川義元が「理想的な君主」「家康の指導者」として、色濃く描かれていますよね。やや唐突というか、違和感もあります……。

同 門:確かに。義元といえば、何と言っても桶狭間での悲惨な敗戦。信長の奇襲を予期できなかったのは、「将」としてはミステイクだったはず。
見た蔵:息子に「将の才」とか説教できるほど偉かったのか……?

同 門:「王道」を取って「覇道」を退ける、そんな美学を尊ぶ君主なんだろう。義元にとって、織田の奇襲は「覇道」であって、断じて認められないということか、おそらく。
見た蔵:勝てばいいってもんじゃないという?

同 門:とはいえ、時代は血で血を洗う戦国の世。キレイごとだけじゃ生きていけない。人質の家康とダメ息子の氏真が手に手を取って今川家を支えるなんて、絵空事のような気もするな。
見た蔵:義元が思い描いた理想は、ファンタジーだったということですか?
同 門:これから家康が目指す安寧の世は、ほかならぬ義元から学んだもの……そんな美しいドラマ展開が見えるような気もするね。
さてさて、氏真の話に戻ろうか。

見た蔵:桶狭間の前から、父親から厳しい言葉を浴びせられ、家臣からもなんとなく疎まれている。そのうえ、弟分の家康が武芸の試合でわざと負けていることがわかる……これはツライですよね?
同 門:氏真は完璧主義者なんだけど、自分が完璧とはほど遠いことがわかっていた。そのアンビバレントな思いと焦燥感を溝端淳平がうまく表現していたね。
見た蔵:朝、糸が目を覚ますと、外で懸命に素振りをしている氏真がいました。

同 門:懸川城を4か月も守り抜いたのは、そんな氏真の意地だろう。負けるのがわかっているのに、自ら最前線に立って戦い続けたのは、父と家康に対する「オレを見ろ、オマエらが考えているようなオレじゃない」というメッセージなんだね。
見た蔵:信玄も「やっと兵を鼓舞できるようになったか」と褒めていました。


糸が氏真の心を癒やすことができた理由って?

同 門:実は、今回もうひとつ注目すべきは、氏真の正室・糸。もう耳タコと思うけど、このドラマで重要な役割をはたすのは、いつも女性。この糸のキャラ設定が興味深い。
見た蔵:終盤のいちばん美味しいところにも、さりげなく?登場してました!

同 門:「北条」という名家の出なんだけど、幼いころの事故で、足が少し不自由。今川の家臣からは、「売れ残りだ」と陰口をいわれている。いわば、ハンデを背負っている女性なんだ。

見た蔵:それが氏真には不満なんですね? ホントは瀬名と結婚したかったのに。
同 門:彼の本音としては、「何でこんな女と……」だろう。彼の劣等感をあおるような結婚相手に見えた。でも、劣等感を抱く必要はなかったんだね。

見た蔵:実のところ、義元は氏真を決して見捨てていなかったわけですものね。
同 門:そう。義元は息子が学問と武芸に励んでいて、大変な努力をしていることを知っていて、高く評価していた。しかも、糸はそれを知っていた。

見た蔵:それで桶狭間への出陣前に、義元は糸に真情を打ち明けていたんですよね。「おのれを鍛えあげることを惜しまぬ者は、いずれ必ず天賦の才ある者をしのぐ。(氏真は)きっと良い将になろう」。
同 門:糸はそれを究極の場面で氏真に伝えるわけだが、「もっと早く言ってよ!」と内心思ったことだろう。義元の葬儀の後とか(笑)。であれば、氏真はあんなにグレなかったろうに……。

見た蔵:一方、家康もかつては兄と慕っていた氏真を討つことに抵抗があって、それで懸川城を落とすのに時間がかかったんですね。自刃しようとする氏真に泣きながら詫びるシーンはよかったです。ジーンと来ました!
同 門:松本潤と溝端淳平による真っ向勝負。あれは名シーンだった。
見た蔵:敗北を認めた氏真の「余は何一つ事を成せなかったが、妻ひとりを幸せにすることぐらいはできるやもしれぬ……」というセリフもぐっと来ました。

同 門:ハンデを背負って、強く生き抜いてきた糸だからこそ、氏真の心を癒やすことができたんだね。彼女の「わたくしは蹴鞠をするあなたさまの方が好きでございます。いさましく戦うあなたさまよりも……ずっとずっと」というセリフもよかった。一度、そんな言葉を妻からかけてもらいたいよ、ホント(笑)。

見た蔵:「一生懸命仕事しているアナタより、大河ドラマを見て講釈しているアナタのほうがスキ……」 なんて、センパイの奥様は、言いそうにないですね(笑)
同 門:どーもん、スイマセーン……(トホホ)。

見た蔵:さて、次回予告は「家康、都へゆく」でした。北条を味方につけて、武田の脅威は薄らいだから、京都へ行って、官位を斡旋してくれた公家へのお礼参りをするんでしょうね。
同 門:キミ、鋭いね! クイズを出せないじゃないか(笑)
見た蔵:ヘヘッ。どーもん、スイマセーン!(笑)
同 門:ところで、予告では家康のために、今後とても重要な役割を果たすある人物が顔を出していたね。次回を楽しみに待とう!

(第13回、大胆レビューにつづく)

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