大河ドラマ「どうする家康」で、今川氏真を演じる溝端淳平。
桶狭間の戦い以降、家康にも見限られ、窮地に立たされてきた氏真だが、
第12回で家康と相対することに!
氏真役の溝端に、家康への思いや第12回の見どころを聞いた。
――「どうする家康」の出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
大河ドラマに出演することは、役者として憧れであり、一つの目標でもありました。個人的にも、前回の「鎌倉殿の13人」の主演が小栗旬さん、今回の「どうする家康」の主演が松本潤さんという、公私ともにお世話になっている先輩方。お2人が主演を務めると知ったときは、さらに大河ドラマに出たいという気持ちが強くなりましたね。
松本さんの主演が発表されたとき、「おめでとうございます! 僕も出演したいです」と伝えたら、「じゃあ、オーディション受けてね」と言われました(笑)。
そんな中で、今川氏真役のオファーをいただけたので本当にうれしかったです。初大河が松本さんの主演作で、しかも家康と兄弟のような関係を築く役柄。がっつり松本さんと絡める役をいただけて、とても光栄に思いました。
――氏真の人物像については、どのように捉えて演じていますか。
「どうする家康」に登場する今川家は、当時の最先端といいますか、スマートで、すべてが高水準な一族として描かれています。氏真は、偉大な父・義元(野村萬斎)が君臨する中で、エリートとして育ってきました。しかし突如、桶狭間の戦いで父が討ち死にし、若くして今川家を継ぐごとになって。
それまで戦国の豪傑たちと堂々と渡り合ってきた今川家ですが、力も経験もない氏真が武田信玄(阿部寛)や織田信長(岡田准一)という強者たちと渡り合えるわけもなく、自らの器量以上のものを背負わなければならなくなりました。
挙句の果てには、弟と思っていた家康にも見限られ、味方がどんどん離れていく中で、氏真自身も闇へとさまよっていきます。
――氏真にとって、父・義元はどのような存在だったと感じていますか。
当然ですが、現代の父と子の関係とは全く違うものだったでしょうね。氏真自身は、とにかく父に認めてもらいたいという一心で必死に頑張っていたと思います。だから、父の前ではずっと緊張していましたし、逆に父からは「おまえもいつか今川家にふさわしい当主として……」と直接言われているわけではなかったと思うので、常に無言の圧を感じていたのではないでしょうか。
なので、余計に家康が父に認められている姿を見て、激しい嫉妬を覚えていたのかなと。氏真は真面目で純粋だからこそ、そのせいで時には周りが見えなくなってしまうところがあったのではないかと思います。
――偉大な父が信長に討たれ、突如、今川家を継ぐことになった氏真。その後の彼はどのように変わっていったと捉えていますか。
父の死は、まさに青天の霹靂だったと思います。戦国乱世にその名をとどろかせる今川家のトップであった義元が、どこの馬の骨かもわからないような若造の織田信長に討たれたわけですから。今川家、そして氏真の人生においても歯車が大きく狂った瞬間だったと思います。
その状況で今川家を継いだわけですから、氏真はこれからどうするべきかを考える余裕なんてありませんでした。「どうする家康?」と同じように「どうする氏真?」という状況に追い込まれてしまったというか。自分が何をすべきか判断もできず、不安しかない。その裏返しで、自信がないことを必死に隠そうとして、強気に振る舞うしかなかったんでしょうね。
そして、何より頼りにしていた家康に裏切られてしまったことが、さらに彼を追い込むことになりました。こういう時こそ家康と力を合わせたかった氏真ですが、今川勢を統率する器量がまだ彼にはなく、家康にも見限られる結果となってしまいました。
――氏真にとって、家康はどのような存在だと感じていますか。
幼くして今川家に来た家康ですが、氏真はかわいい“弟”のように接していたと思います。何をするにも自分のほうが上だと思っていましたから、ライバル意識みたいなものもなかったのかなと。ただ、父が家康のことをすごく買っていたことに対しては、「なぜなんだ!?」と不思議に感じていたのではないでしょうか。
のちに氏真に気を遣って、家康が自分の才能を隠していたことが明らかになりましたが、氏真からすると腹立たしくてしかたなかったでしょうね。しっかり者で真面目すぎる兄と、才能があるけどそれを表に出そうとしない弟――氏真と家康はまさにそんな関係なんだと思います。
しかも、そこに瀬名(有村架純)が絡んできましたからね。氏真がいちばん認めてほしかった父に認められた家康、いちばん愛してほしかった瀬名と結ばれた家康。そんな彼に対して氏真は、大きな嫉妬を覚えたかもしれません。ですが、兄弟のように育ってきたからこそ、憎めない存在だったのではないかと思います。
――家康役の松本潤さんと共演しての印象はいかがですか。
目標としている先輩との共演は純粋にうれしかったです。松本さんはストイックなイメージがありますが、ものすごく懐が深い方なんですよ。僕も初めての大河ドラマですけど、リラックスして現場にいられるように迎え入れてくれましたし、いつも居心地のよい空気を作ってくださっています。
自分のことだけではなく、しっかり全体を把握して、僕のこともちゃんと気にかけてくれるので、改めて本当にすごい方だなと思いました。疲れないのかなとこっちが心配になるくらいですが、そんなリーダーシップを発揮される松本さんは、家康と同じように“殿”と呼ばれるにふさわしい方だと感じています。
――第12回「氏真」の見どころを教えてください。
氏真は蹴鞠や歌が好きで、勉学にも一生懸命励んだ普通の人だったと思います。そんな普通の人間が突然今川家を背負わざるを得なくなり、もがき苦しむことになったわけですが、第12回は切なくもあり、見応えのある面白い内容になっています。
今川家にとっても、氏真にとっても、そして家康にとっても、1つの大事な区切りとなる回だと思いますので、たくさんの方に見ていただけたらうれしいです。ヒールのまま滅んでいくのかと思っていた氏真が“兄弟”として育ってきた家康と再会して、どのような道を選択するのか。ぜひ注目ください。

溝端淳平(みぞばた・じゅんぺい)
1989年生まれ、和歌山県出身。2007年に俳優デビュー。NHKでは、「立花登青春手控え」シリーズ、連続テレビ小説「スカーレット」、「古見さんは、コミュ症です。」、「善人長屋」などに出演。2023年冬放送予定「正直不動産スペシャル」にも出演が決定している。