大河ドラマ「どうする家康」で、豊臣秀吉役を務めるムロツヨシ。
家康の最も苦手なタイプであり、のちに最大のライバルとなる秀吉を演じる
ムロに、秀吉役への思いやドラマの見どころを聞いた。


――「どうする家康」の出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
実は、2017年の大河ドラマ「おんな城主 直虎」に出演したとき、打ち上げの場で「5年後の大河ドラマでは、主演としてこの場に立ってみせます」と宣言しました。

ちょうどそのとき、「直虎」で共演した阿部サダヲさんが2019年の大河ドラマ「いだてん」で主演を務めることが決まっていて、僕も阿部さんのようになれたらいいなと思っていたんです(笑)。

そして、いざ5年経って「どうする家康」の主演に発表されたのが松本潤さんでした。「おっ、そうかあ……」と思いつつ、松本さんの大河だからきっとすごいことになるだろうなあと思いました。

そんなやさき、マネージャーから「どうする家康」の台本を見せられて、「豊臣秀吉役のオファーが来ました」と言われたんです。本当にびっくりしましたけど、「やらせていただきます!」と即答しましたね。

でも、次の瞬間、恐怖というかプレッシャーも感じました。僕が学生のころ、大河ドラマ「秀吉」で竹中直人さんが熱演されていたのが印象的でしたし、これまで数々の大河ドラマで名だたる俳優の方たちが演じてこられた役ですからね。

その役を演じられる喜びを噛みしめつつ、先輩方の演技をなぞるのではなく、自分なりの秀吉を表現したいと思いました。


――秀吉についてはどのような印象をお持ちですか。
何もないところから天下人にまで上り詰めた男と言われていますが、とてつもない野心の持ち主だったのではないかと思います。人たらしな面であったり、人の上に立ちたい欲望であったり、誰よりも目立とうとする姿は、相当な野心がなければできないこと。

そんな秀吉を見ていると、どこか自分と重なる部分も感じるんです。19歳のときに何もない状態で役者の世界に飛び込み、野心だけでここまで成り上がってきたようなところがあるので、自然と共感してしまったと言いますか。今は僕の中で、その秀吉の野心というのが、いちばん印象強いものとなっていますね。

今回、古沢良太さんが描く秀吉は、想像以上に“ねちっこい男”になっています。それを1つ1つのシーンで、僕がどのようにねちっこく表現していくかが大事になってくるので、僕の芝居で足し算するのか、引き算するのか、いろいろ試しながら演じさせてもらっています。

併せて、今回の物語においては、岡田准一さん演じる織田信長から信頼を勝ち取ることが秀吉の生きる糧となっています。絶対的な存在として、「我が殿である信長様に好かれたい」という一心ですからね。その意味でも、信長の前で秀吉がどう動くのかが重要になりますので、常にそのことを意識しながら演じています。

やはり、そういった信長との向き合い方があっての家康との関係が、このドラマにおける秀吉のポイントになってくるので、「いずれ秀吉は天下人になるからこう演じよう」とは一切考えず、“信長様の信頼を勝ち取ること”を大事に表現したいと思っています。


――秀吉の衣装については、どのようなこだわりがあるのでしょうか。
今回の撮影に臨むにあたり、秀吉の衣装を決めていく段階で3回くらい話し合いの場に参加させていただきました。ありがたいことに、僕の意見も衣装に取り入れてくださったので、非常にやりがいを感じています。

具体的なこだわりとしては、織田軍のイメージカラーが今回は黒なので、その黒い集団の中で秀吉が少し異質に見えるように、麻色や茶色の衣装を着ています。

あと、これは僕から提案させていただいたのですが、秀吉という人間がとてつもなく計算高い男なのか、それとも素で人たらしの男なのか、どっちなのかわからないというのを表現するうえで、“左右非対称”の衣装を採用しています。

履きものの長さが左右の脚で違っていたり、生地の色が違っていたり。衣装部の皆さんが“左右非対称”という言葉をくみ取って、いろいろ試行錯誤してくれたので本当に感謝しています。


――秀吉にとっては、最大のライバルとなる家康ですが、2人の関係性についてはどのように捉えていますか。
物語前半で言うと、家康からしたら「なんだこの木下藤吉郎という奴は!? ちょっと苦手だな」という描かれ方をしています。いずれは、どこかで互いに認め合う瞬間がやってくるとは思いますが……。

でも、嫌いになりつつあるということは、感情が動いている証拠でもあるので、すでに家康は秀吉を意識しているかもしれませんね。秀吉役の僕としては、もっと家康の邪魔をして、嫌われないといけないなと思っています(笑)。

一方、秀吉からすると、信長様の命を受けて、家康と対峙している段階ですので、敵とも思っていません。基本的には、信長様のためになると思って、家康のところへ行き、話をしているだけの状況ですからね。ここから2人の関係がどのように変化していくのか、僕も非常に楽しみです。


――家康役の松本潤さんと共演しての印象はいかがですか。
最初の織田家でのシーンでは、緊張されている印象を受けました。ただ、家康という役を自分の中でしっかり落とし込んで演じているのも強く感じましたね。

僕らが学生時代に学んだ家康よりももっと若く、どうする?どうする?と迷う家康を表現しなければならないわけですから、とても大変だと思います。そんな家康がどうやって天下まで上り詰めていくのか、共演者としても非常に楽しみです。

あと、織田家のシーンでは、信長と家康の主従関係が、岡田さんと松本さんの事務所の先輩・後輩の関係とも重なる部分がありまして。お芝居の立ち位置としては、ちょうどその間に僕がいる感じなので、毎回特等席で2人の関係を楽しく拝見しております。


――今後のドラマや秀吉の見どころを教えてください。
繰り返しになりますが、今秀吉を演じるうえで重きに置いているのは、信長様への忠誠心です。ただ、その絶対条件はここから少しずつ変わっていくかもしれません。

歴史上、さまざまな解釈がある中で、猿として小賢しい男に徹するのか、とてつもなく人を見る目がある男になるのか、はたまた何をするにも計算高く行動していく男なのか――今後、どういう秀吉が描かれていくのかをぜひ注目していただけたらうれしいです。

ムロツヨシ
1976年生まれ、神奈川県出身。NHKでは、大河ドラマ「平清盛」「おんな城主 直虎」、連続テレビ小説「ごちそうさん」などに出演。