鳥居忠吉が進言した「二つの道」ってなんだ?
大河見た蔵(以下、見た蔵):センパイ~、第9回見ました!
またまたボクの予想大外れで……。
同門センパイ(以下、同門):まさか信長(岡田准一)が本證寺との和睦を指示してくるとは、私も意外だったよ。家康(松本潤)が窮しているのを見て、隣国・三河が脆弱になるのを避けるべく、手を打ってきたんだろう。
見た蔵:ただ、信長も美濃平定などで手間取って、援軍を送るほどの余裕はなかったのかもしれませんね?
同 門:私としては、仲介役となった水野信元(寺島進)の、あのインチキ臭さがまた見られてよかった(笑)。ああいうキャラが、ドラマの魅力を引き立てるんだよ。でも、今回の見どころは圧倒的に本多正信(松山ケンイチ)だったね!
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見た蔵:正信はいくさでつらい別れを経験してきたからこそ、宗教にすがる人の気持ちが痛いほどわかる。だから、あんな行動を取ったんですね?
同 門:その話は後にとっておいて、まず順繰りに見ていこう。
見た蔵:今回も家康の不甲斐ない様子に、家臣の多くが、しかも酒井忠次(大森南朋)や石川数正(松重豊)までもが、家康を見捨てようかと迷ってました。誰もいくさに出たがらない。瀬名(有村架純)も見放し気味。家康ヤバかったですね~。
同 門:そこへ、見かねた長老の鳥居忠吉(イッセー尾形)が登場した。
見た蔵:「二つの道」を進言したわけだけど、よく考えてみると、どっちも身もふたもない話だったような(笑)。
同 門:一つは、家臣を信じて進む。しかし、裏切らないという保証はない。もう一つは、疑わしい者はすべて斬り捨てる。しかし、最終的な解決にはならない。
ああいう老臣が口にする、主君にとって耳が痛い言葉はいいね。味わい深いシーンになっていた。
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見た蔵:鳥居忠吉が伝えたかったのは、自分の前途は自分で決めろ、決めたらブレずにその道を突き進め、ということでしょうか?
同 門:そして、その結果がどうなろうと、後悔するな!ということ。私たちもそうありたいものだ。
見た蔵:「梵天丸もかくありたい」ってところですか?。
同 門:おっ、大河ドラマの名セリフのひとつだね。どの大河の、どういうシチュエーションで出たセリフか知ってる? 梵天丸って誰?
見た蔵:う~ん……、思い出せません。語呂がいいので覚えちゃいました(笑)。
同 門:これも新たな大河ドラマの楽しみ方なのか? 背景を知らないままトリビアが積み重なっていくとは……。ある意味、感心するよ。
見た蔵:もったいぶらずに、教えてくださいよ~。
同 門:これは「独眼竜政宗」(1987年)に登場したセリフ。梵天丸は渡辺謙が演じた伊達政宗の幼名。このシーンで幼い梵天丸(藤間勘十郎)は、不動明王に参拝して、なぜこんなに怖い顔をしているのか不審に思うんだ。すると僧侶(大滝秀治)から、怖い顔は悪鬼を追い払うため。それは一人でも多くの衆生を苦しみから救うためなのだ、と教えられるんだ。
見た蔵:そうそう、梵天丸の養育係だった喜多(竹下景子)が、かわいいんです!
同 門:何を思い出してるんだ?(笑) それで「(将来君主となったら)自分もそうなりたい」とつぶやいたのがこのセリフだ。流行語になって、日本中の子どもが口にしていたんだよ。ひょっとして君もそのクチだった?
見た蔵:精進しますから、早く「どうする家康」の話に戻りましょう(笑)。
実際は年下!? ドラマの空誓はファンタジー?
見た蔵:鳥居忠吉に諫められた家康は一念発起。「わしはお前たちを信じる! (しかし)主君を選ぶのはお前たちだ。(だから)供をしたい者だけ参れ!」と家臣団を一喝して、自ら率先していくさに飛び込んでいく。それが上々吉と出て、戦局は一気に家康有利になったんですね。
同 門:一方、本證寺の空誓(市川右團次)は、味方の死者の多さに、いくさを辞さなかった自分の判断が過ちだったと思い始める。軍師の本多正信に「絶対勝てる」と言われても、自分たちは利用されているのか……と疑念を抱く。
見た蔵:そもそも信徒が、仏敵とはいえ人を殺めるのは本来の教えに反してるんじゃないんですか?
同 門:そうだよね。だからこそ空誓が信徒の前で土下座して謝るシーンは感動的だった。
家康もいくさを起こした自分の行いを「悔いている」と泣いたよね。結局、このいくさは家臣や領民や信徒に苦しみを与えるだけだった。戦いを起こして、煽ってきた家康側、空誓側、両者がともに「いくさの過ち」を認めたんだ。
見た蔵:今戦争をやっている、どこぞの国の政治家たちに見せたいシーンでした。
同 門:空誓を演じた市川右團次の芝居はよかったね。これまでずっと威厳を見せてきたキャラが、一転して自身の弱さをさらけ出す、そのコントラストは見応えがあった。ところで、空誓なんだけど、このドラマの「空誓像」はファンタジー多めだって知ってた?
見た蔵:ええっ! 実在しなかったとかですか?
同 門:いやいや、空誓も本證寺も実在した。三河一向一揆に参戦したのも事実。しかし、実在の空誓は家康より二歳年下なんだ。三河一向一揆は西暦1563年から翌年にかけて続いたので、家康は20~21歳。空誓は、実際は18~19歳なんだ。
見た蔵:ドラマでは、家康よりずっと年上の印象でした……。
同 門:空誓が本證寺の住職になったのは17歳のとき。浄土真宗中興の祖である蓮如(1415~99年)のひ孫というから、そんな若さで住職になれたのかな。ある説によれば、怪力の持ち主で、鎧をつけて鉄棒を振り回し、家康軍との戦いでは大活躍したらしいが、さて。
見た蔵:というわけで、無事、本證寺との和議が成立。やれやれですね。
同 門:和議の場での家康と空誓の対峙シーンも見応えがあったね。互いに肚の探り合いだった。
見た蔵:家康は結構迷ってましたよ。信長に言われてしかたなく席についた感じ。
同 門:あらかじめ水野信元に「(和議は)方便だ」と言われてたからね。
交渉では「寺を元に戻す」という条件が焦点になっていた。家康はそうすると明言したけど、空誓はそれが家康の本音ではないとわかってたんじゃないかな。
見た蔵:最終的には、家康は寺を潰しちゃうんですものね。
同 門:この空誓のその後の人生(70歳で没)が面白い。紆余曲折を経て、晩年には家康から江戸城に招かれ、頼み事をされるようになったんだ。
見た蔵:家康って懐が深いですね。今後の今川氏真(溝端淳平)に対してもそうだけど、かつての敵をみんな取り込んじゃう。今回も離反した家臣をみんな許してましたね。
正信が家康を「大タワケ!」と言い切る理由ってなんだ?
同 門:さてさてお待ちかね、本多正信の話をしよう。松山ケンイチの熱演から、目が離せなかった今回。まさに、主人公と言ってもいいくらいだったね。
見た蔵:少年時代にいくさの悲劇を目の当たりにしたことになっていました。
同 門:正信の過去もファンタジーっぽい。曲がりなりにも松平家の重臣の息子だからね。野武士が行きかう戦場をウロウロしてたとは、ちょっと考えづらい。
見た蔵:野武士にさらわれていった女の子は誰ですかね? 妹ですか?
同 門:いや、それはないだろう。正信の幼名「弥八郎」で呼んでいた。妹だったら「兄上」だよ。
見た蔵:ガールフレンドかな(笑)。そして8年前、その子に再会する。お玉(井頭愛海)は遊女にされていて、その時はいくさに巻き込まれて瀕死の状態。彼女が浄土教の信者だったことを、正信は彼女の死ぬ間際に知ったんですよね。
同 門:これまでの正信の謎の多い行動の背景が明らかになった。何かと理由をつけていくさをサボるのは、いくさの悲劇を身に染みて知っているから。そして、一向一揆に入れ込むのはお玉への思慕からだろう。
見た蔵:悪知恵がすばらしく働く理由は明かされなかったけど(笑)。
主君・家康を怒鳴りつけるシーンは、松山ケンイチの演技がすごくよかった。
「過ちを犯したのは殿だ! この大タワケが!」ですもんね(笑)。
同 門:家康が民の苦しみをまったく理解していないことを直言。これは、前々回の空誓の主張と趣旨がほとんど同じだね。前回の今川義元(野村萬斎)の教えとも通じる。
見た蔵:殿にすがれないから阿弥陀仏にすがるんだ、仏にすがらざるを得ない民の心がわからないのか!……。家康が「すべて悔いておる」と泣き出したのは正信にそう言われたから。空誓と義元のメッセージがやっと家康の心に届いたんですね。
同 門:そう。前回は「妄想」なんて言ったけど、正信の行動や発言は、実は家康への「教育」になっていないだろうか。正信は家康のすぐれた資質を見抜いていたからこそ、心の底から「大タワケ!」と言い切った。
見た蔵:センパイの読み解きって、たまに光りますね(笑)。最後の最後に究極の悪知恵を授けて、家康が本證寺の息の根を止める手助けをする正信。前回の読み解きの通り、なかなかの“複雑系”ですよね~。
同 門:今回は、受け売りじゃないよ(笑)
しかし、三河一向一揆の仕掛け人について、キミは今川氏真だと予想していたけど、まさか武田信玄(阿部寛)だったとはね!
見た蔵:千代(古川琴音)は武田の間者というのも手が込んでいました。でも、彼女の家康の人物評は鋭かったですね。
同 門:武将たるもの、弱点を含め自身をよく知ることが大事という信玄の慧眼。
見た蔵:なるほど……。ところで、瀬名との仲も回復してひと安心と思ったら、次回予告が「側室をどうする!」ですって。なんですかそりゃ!(怒)
同 門:キミの瀬名推しは、ブレないね(笑)。家康だって戦国武将の一人だからね。跡継ぎをしっかり設けるのは重要なんだ。側室を持って、男子を産んでもらうのも仕事なんだよ。キミは、ドラマ10「大奥」を見ていないのかい?
見た蔵:確かに、将軍は後継者づくりにとても苦労していましたっけ。ただ、物語では将軍が女性に逆転しちゃうという、、、ウルトラファンタジー。
同 門:とにかく! 何が起こるかわからない戦国時代、跡継ぎは多いほうに越したことはないということだ。
見た蔵:イギリス王室のヘンリー王子のような!?
同 門:おい。見た蔵君は瀬名がかかわると興奮するんだね。いや、有村架純?
見た蔵:どーもん、スイマセーン!
同 門:おいっ、、それは私のネタだ!
(第10回、大胆レビューにつづく)
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第1回:「どうする家康」が「鎌倉殿の13人」から引き継いだものってなんだ!?
第2回:「どうする家康」が“居心地の悪い”ドラマに感じるのはなんで⁉
第3回:家康を諭した於大の方のメッセージが深い!その真意ってなんだ?
第4回:お市の方より今川氏真がおもしろい⁉ってなんだ?
第5回:脚本家・古沢良太が描く織田信長VS.織田信長ってなんだ!?
第6回:立役者は半蔵(山田孝之)ではなく氏真(溝端淳平)ってなんだ!?
第7回:家康より“家”をつくるのがうまかった空誓上人ってなんだ?
第8回:三河一向一揆と本多正信の行動は“複雑系”ってなんだ!?