大河ドラマ「どうする家康」本多正信役の松山ケンイチ。
第8回の放送で、一向宗側の軍師であることが明らかになった正信。
演じる松山に、正信の魅力やドラマの見どころを聞いた。


――本多正信の人物像についてはどのように捉えて演じていますか。
今回のオファーをいただいたとき、本多正信について「最後まで家康を支える役です」という説明を受けました。とてもすばらしい人物なのだなと思いましたが、前半は「イカサマ野郎」「詐欺師」とののしられ、家康の家臣団からはとことん嫌われていて。僕もなかなかこのような役を演じることはなかったので、とても面白いなと思いました。

撮影に入る前、正信に関する資料を読みましたが、そこまで深く書かれていませんでした。そのため、今回は古沢良太さんが書く台本が正信のベースになっています。一つ一つ資料を調べて正信像を作り上げていくと、どこかで台本に書かれている正信像と異なる部分や対立する部分が出てきてしまうと思うんです。

僕自身、そこで一喜一憂はしたくないので、台本に書かれている正信、現場ででき上がる正信というものを大事に演じていきたいと思っています。


――正信を演じるうえで、特に意識されている点はありますか。
とにかく楽しむことです。正信の中には、貧しさというのが根底にあると思うのですが、それを吹きとばすくらいの楽しさといいますか。彼自身もずっと沈んでいても仕方ないと感じているはずなので、いつも踊って歌って笑い合っていることを望んでいると思います。

だから、家康の前でもそんな雰囲気を正信から感じられるように演じたいですし、ほかの家臣団の面々とは違った空気感を表現したいなと思っています。
 

――第5回の放送で、家康と初めて対面した正信ですが、そのときの家康の印象はどのようなものだったと想像されますか。
正信は、基本的に人によって態度を変えることはしない人間です。ただ、人を納得させたり、その気にさせたりすることにおいては非常に優れている。家康と初めて対面したときも、周りから正信のことを信用するなと忠告されていた家康を簡単に落としていましたよね(笑)。

正信からすれば、家康ってこんなに簡単に落ちちゃうんだと感じていたかもしれません。ですので、家康の第一印象は、すぐに詐欺にあったり、仲間に裏切られたりするのではと思うくらい軟弱に見えていたと思います。

ただ、「どうする? どうする?」と悩む家康を頼りないと思う一方で、どんな人の話も聞くところは家康のすごいところ。この人は位が高いから話を聞くとか、この人は詐欺師だから話を聞かないとか、決して人を区別しない。どんな人の話にも耳を傾けるのは家康の魅力だと思います。

それって、家康が持つやさしさなのかなと。今は頼りなくて、狭い世界に留まっている家康ですが、これからもっと国が大きくなっていく中で、そのやさしさがたくさんの人を救うかもしれない。そういった家康に対する周囲の変化も、これから正信は少しずつ感じていくのではないでしょうか。


――家康役の松本潤さんと共演しての印象はいかがですか。
実は、松本さんと初めてお会いしたのは、僕がデビューしたドラマ(「ごくせん 第1シリーズ」(日本テレビ系))の現場でした。僕にとってはいちばん最初にお仕事をさせていただいた方なので、今でもすごく印象に残っています。あれから約20年ぶりの共演になるので、今回も楽しくお芝居したいというのがいちばんですね。

実際、家康との初対面のシーンでは、監督がなかなかカットをかけなかったので、アドリブでいろいろセリフを足しました。遊び心も交えながらセリフを言うと、松本さんがすごく面白い表情をされたんですよね。

その瞬間、「こういう家康の表情が見られるとは!」と思って、つい楽しんでしまいました。カメラよりも近くで、家康の感情をダイレクトに受け取ることができたので、「まさにこれが“どうする家康”なんだなあ」と実感できて面白かったですね。


――一向一揆では、一向宗側についた正信ですが、その決断に至る正信の思いはどのようなものだったと想像されますか。
そもそも正信は、武士というカテゴリーの中にいるものの、(まつりごと)を行う中枢側ではなく、町で暮らす庶民側につく人なんですよね。特に、これまでの三河の状況を見ると、殿様の都合で戦が行われたり、庶民はそのために米や食料を納めたり。でも、庶民たちに何かメリットがあるかと言えば何もない。正信からしたらその状況が許せなかったと思うんですよね。

だから、正信もえらい人に好かれようとは思っていないし、貧しい人たちや飢えで苦しんでいる人たちをどうにか救ってあげたいという一心。でも本来は、それを国のトップである殿様がやらなければならないことなのに実現できていないため、結果的に一揆が起きてしまい、正信は庶民側である一向宗側につく決断をしたんだと思います。


――今後のドラマや正信の見どころを教えてください。
第9回では、家康と正信が再び相まみえることになります。家康にとっては、最初に会った時から、忖度なしでモノを言う正信が新鮮に見えたと思うし、ハッとさせられる部分もあったと思います。やはり、うわべだけの言葉ではなく、本質を突く言葉というのは自分で発見できるものではないし、相手に言われて初めて気づくことも多いと思います。

正信としては、相手が誰であろうと、ずっと変わらずにズバズバ言う人間だと思うし、演じる僕自身も最後までそうあってほしいなと思います。第9回は一向一揆の結末とともに、家康と正信の関係が今後どうなっていくのかも含めて注目していただけたらうれしいです。

松山ケンイチ(まつやま・けんいち)
1985年生まれ、青森県出身。2002年に俳優デビュー。NHKでは、大河ドラマ「平清盛」で主人公・平清盛を好演したほか、「紅白が生まれた日」、「こもりびと」などに出演。