大河ドラマ「どうする家康」で、鳥居忠吉役のイッセー尾形。
家臣団の長老として家康を支える忠吉を演じるイッセー尾形に、
忠吉の魅力や第9回の見どころを聞いた。


――鳥居忠吉の人物像についてはどのように捉えて演じていますか。
「どうする家康」では、三河の徳川軍団、武田軍団、織田軍団という3つの色分けが明確にされている中で、武田と織田は圧倒的な力を持っている。一方の徳川は、組織としても前近代的な位置づけと言いますか。野武士の集まりのような軍団であり、忠吉はその中でも長老ですから、さらに前々近代的な考えを持つ人物です。

家康に対する忠義においても、昔の人間なりの尊敬のしかたで接しているし、それは決して自分のためではなく、身も心も全部を殿に捧げている。とにかく全身全霊で忠義を尽くす男だと思います。

ただ、年齢はもう若くはないし、力強く戦場に行って武功を立てることは難しいので、自分にできることは何かを考えた結果、質素倹約をして金銀食料を貯め込み、お家再興のために力を注ぎました。やはり戦いにおいてもしっかり食料を蓄えていることは味方にとって大きな力になりますから、忠吉はそこにちゃんと目をつけていたのではないかと思います。


――これまで演じてきて、忠吉の魅力はどんなところだと思いますか。
忠吉の場合は、主君から「明日から来なくていい」とか「おまえはいらない」と言われたらひどく落ち込むタイプでしょうね。その半面で彼の強みとしては、いろいろな物事において潤滑油のような存在でいられること。彼の周りを見ていると、「忠吉が言うのだからしかたがない」という空気がありますよね。

最年長としての経験値のうえで物事を見極めていることを周囲も認めているんです。言葉が足りなくても納得させてしまうし、先を読む力、心を読む力というのは忠吉の魅力なので、周りもそれをリスペクトしていると思います。


――忠吉のキャラクターとして、歯が抜けていて何を言っているのかがわかりづらい設定になっていますが、演じるうえで意識されていることはありますか。
忠吉がまっとうなことをズバッと言っても、相手にちゃんと届いていないのはかわいそうなところですね(笑)。実際の撮影では、入れ歯をつけて撮影しているので、本当にしゃべりづらいんですけど、だいぶ稽古もしました。

あ行、か行、さ行と続けていく中で、いちばん難しいのは“らりるれろ”ですね。何を言っているのかわからなくても、そんな彼の存在が徳川家臣団の中だけではなく、物語においても1つの良いアクセントとなっていたらうれしいです。


――忠義に厚い忠吉ですが、彼にとって家康はどのような存在だと感じていますか。
家康を子どものころから近くで見守ってきた“育ての親”だと思っています。年齢的に言うと、孫くらいの差かもしれませんが、忠吉もすべての愛情を注いで育ててきたのではないでしょうか。幼いころは「いつかこの子が大大将になってほしい」と願っていたでしょうし、自分が育てたからには偉大な人物になってほしいという思いがあったはずです。

第2回の放送では、だまし討ちに合い、鉄砲で撃たれて死にかけた忠吉ですが、回復してからも、自分にできることは何かを考えて、家康のために最後まで尽くしていきますからね。


――家康役の松本潤さんと共演しての印象はいかがですか。
今回の家康は、次にどうしたらいいのかがわからず、自ら道を切り開いていくタイプではないけれど、時に大胆な行動に出ることもある。臆病な面もあれば、臆病知らずの面も併せ持っている人物だと思います。

これまでの撮影を見ていると、松本さんは、頭の中に非常に緻密なシステムを持っている方だなという印象を受けました。それは、撮影現場で3台あるカメラが今どこを向いているのか、どのカメラが自分をアップでおさえようとしていて、どのカメラが引きで撮ろうとしているのか、全体をパノラマとして把握されているんです。

しかも、そのアップから引きに切り替わるタイミングも読みながらお芝居をしているのではと思うくらい緻密。ですので、松本さんは、家康に匹敵するくらいの読みの深さを持っているんだなと感じました。

これまでテレビなどでは「嵐」としてステージで歌う松本さんの姿をたくさん見てきましたが、きっとそのステージでも、このように緻密に戦略を練って、パフォーマンスを完成させていったんでしょうね。


――徳川家臣団の魅力はどんなところでしょうか。
のちのち家康は、徳川幕府を開くまでに上り詰める人物となりますが、現在放送されている物語前半では、そんな大出世を想像すらできないですし、家臣たちもこの先どうなるんだろうと思っている状況です。まだまだ徳川家臣団自体も、海のものとも山のものともつかない人物たちの集まりという段階ですね。

そんな名も無い人たちだけれど、個性豊かな面々が集結し、若い家康を支えていました。家臣団としてもまだまだ統一されていない野武士集団ですけど、一人ひとりがそれぞれの思いで家康をサポートしていたと思います。

ただ、家臣たちを見ていると、忖度なしに言いたいことを言って、とても自由な空気感がありますよね。「もっと言わせろ」という奴も多いし、それぞれが味わい深いと言いますか。

人間としての魅力を持った家臣が集結していますから、その人々に慕われている家康というのは自然と魅力的に見えてくるのではないでしょうか。もちろんそれは、古沢良太さんが書く脚本の力でもあるし、家臣団を演じる俳優陣の魅力でもあると思います。


――最後に「どうする家康」の魅力と、忠吉の注目ポイントを教えてください。
名が「元康」から「家康」に変わり、家康がこれからどのような人生を歩んでいくのか。まだまだ若い家康なので、徳川300年の太平の世を切り開いた人物にまで上り詰めるという想像も、今ははるか遠くにある感じがします。

「本当に天下人の家康になるのか?」という疑問すら感じてしまうかもしれませんが、歴史の年表では知りえない名も無き時代の家康から掘り起こしていますので、その成長の道のりを楽しんでいただきたいですね。

忠吉に関しては、第9回の放送で家康に説教をするシーンが描かれます。大事なメッセージを伝える場面なので、忠吉の思いを全身全霊で家康に託すべく、入念に案を練って撮影に臨みました。セリフ以上のものが表現できればと思い、全力投球で演じましたので、ぜひご覧いただけたらと思います。

イッセー尾形(いっせーおがた)
1952年生まれ、福岡県出身。1971年から演劇活動をスタートし、その後も俳優として活躍。NHKでは、大河ドラマ「独眼竜政宗」「炎立つ」「いだてん~東京オリムピック(ばなし)」「青天を衝け」、連続テレビ小説「凛凛と」「つばさ」「まんぷく」「スカーレット」などに出演。