大河ドラマ「どうする家康」の瀬名役・有村架純。
太陽のように明るく、朗らかに夫・家康を支える瀬名。
演じる有村に瀬名の魅力や家康・瀬名の夫婦像について聞いた。
――「どうする家康」の出演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。
いつか大河ドラマに出演できたらいいなと思っていたので、率直にうれしかったです。年齢もちょうど30歳になる年での放送ということで、オファーをいただけたタイミングも感慨深いものがありました。
さらに、主演を務めるのが松本潤さんで、私にとっては3度目の共演です。最初の共演から10年近く経ちましたが、そのときは兄妹役、次の映画では恋仲になる先生と生徒、そして今回は夫婦役ということでとても楽しみにしていました。
――撮影の前に瀬名さんのお墓参りをされたとお聞きしましたが?
大河ドラマに出演される方たちは、撮影に入る前やクランクアップした後に必ず演じる人物のお墓参りをされると聞いていたので、私も「瀬名さんから力をいただきたい」という思いも込めてお墓参りさせていただきました。
その際、浜松にある瀬名や家康ゆかりの地にも足を運び、瀬名が最期に船をこいで必死に渡ったと伝わる湖を、実際に船に乗って行きましたね。そういった実在の場所を自分の目で見て、身体で感じることはとても大事なことだと思うので、今回は積極的に行かせていただきました。
――瀬名は“悪女”だったと伝えられていますが、演じるうえで何か調べたりはしましたか。
史料などをいろいろ拝見しましたが、瀬名のことに関する情報量はとても少なくて。以前、脚本の古沢良太さんがおっしゃっていたんですけど、歴史はこういう出来事があったと残されていても、その出来事がどのような理由でそうなったのかということは残されていないので、どうしても推測が多くなってしまうと。
そのため、瀬名が悪女で、家康と仲が悪かったと書かれていても本当にそうだったのかはわからないんですよね。歴史に残されていることが全てではなく、その過程といいますか、見えない部分がとても重要だったりするので、瀬名を演じていても、セリフ以外のところで、より彼女の人間性を感じるときがあります。今は、「どうする家康」の中の瀬名が、もしかしたら本当の瀬名に近いのかなと思いながら演じています。
――瀬名を演じるうえで心がけていることはありますか。
撮影に入る前に古沢さんとお話させていただいたとき、「瀬名は、家康にとって“癒やしの場所”」とおっしゃっていて。一緒にいれば温かい気持ちになる、まさに“家”のような存在ということを教えていただきました。
そのことを踏まえて、古沢さんが“悪女”というイメージとは真逆の瀬名像を描いてくださっています。たくさん笑ったり、少しとぼけてみたり、ひょうきんとまではいかないけれど、自然と周囲を明るくしてしまう存在です。
ただ、そんな明るさだけではなく、気持ちの強さも瀬名は持っています。常に死と隣り合わせの戦国乱世は、日に日に情勢が変わっていく激動の時代。女性として強く生きていかなければならないという教えを、母親である巴さんや、義理の母・於大さんからも学んでいたと思います。
瀬名の中でも、戦国武将の正室として生きる覚悟を持ち、縁の下の力持ちではないけれど、夫である家康をつっかえ棒のように支えていきたいと思っていたのではないでしょうか。だからこそ、瀬名は家の中でいつも明るく振る舞っているのかもしれないですし、自分以上に子どもたちのことを、そして子どもたち以上の母性で家康のことを受け止めているような気がします。
――有村さんご自身と瀬名の共通点はありますか。
「どうする家康」で描かれている家康は、結構怒りっぽいですよね(笑)。そんな家康が自分の熱量だけで動こうとするときや、瀬名とケンカになりそうなときに、彼女が「まあまあ」と笑いながら家康をなだめるところ。バチバチせず、穏便に音頭をとろうとするところは私と似ているかもしれません。
――今作の家康の人物像については、どのような印象を持ちましたか。
家康が詠った「鳴かぬなら鳴くまで待とう時鳥」という句を聞くと、ドシっと構えて忍耐強いイメージがありますけど、実は短気だったとも言われているじゃないですか。なかなか想像だとわからない部分が多いですが、今回松本さんが演じる家康は、本当にチャーミングで憎めません。
「民のために、家を守るためにこうするんだ!」という熱量が大きくて、決して独りよがりで政を考えたりもしませんよね。そして、そこには家康なりの正義がある。それらを考えると、当時の家康もいろいろな思いを抱えながら生きていたのかなと想像してしまいます。
――家康役の松本潤さんと共演しての印象はいかがですか。
初共演以来いろいろな現場で見てきた松本さんが、今回も健在しているなという印象です。「嵐」のライブでも演出をされていた方なので、制作する側の目線で物事を把握していらっしゃるし、本当に視野が広いと思います。
実際に撮影現場でも、常にどのカメラで撮られているのか、照明に対する自分の立ち位置はどこがいいのかなどを把握されているから、後ろにも目が付いているんじゃないかなと思ってしまうくらいです(笑)。
また、キャストやスタッフの方たちにいつも声をかけて、先陣を切って盛り上げてくれる姿を見ていると、本当にすばらしい座長だと思います。私にも「現場でやりづらいことはない?」などと声をかけてくれますし、時には、たわいのない話をしながら現場で楽しく過ごしております。
――最後に「どうする家康」の魅力を教えてください。
私自身、この「どうする家康」の世界を知らなかったら、戦国時代というのは殺伐としたイメージを持っていたと思います。でも、この作品と出会って、「それだけじゃないよね」と思えました。戦国時代でも、鳥は鳴くし、花は咲くし、空は青いし、どれだけ落ち込んでいても太陽は照らしてくれていたはずです。
目まぐるしい日々の中にも、そこだけは今と変わらない日常であり、人々にとっても大きな救いであったのではないでしょうか。死と隣り合わせの時代でも、「花が咲いてきれいだな」と感じることは許されてもいいことだと思いますし、それが「どうする家康」の中でもしっかり描かれているので、そんな視点でご覧いただけるとうれしいです。
さらに、古沢さんの脚本はエンターテインメントとして楽しめる内容になっています。私たち役者にとっても、それぞれを役の心情を丁寧にくみ取れる脚本ですし、お芝居を制御せずにやりたい動きや表現が成立する作品世界になっていると思います。ですから、これぞまさに大河ドラマの王道というよりも、少し新しい風が吹くドラマだと思うので、ぜひ多くの方に楽しんで見てほうしいなと思います。

有村 架純(ありむら・かすみ)
1993年生まれ、兵庫県出身。2010年に俳優デビュー。2017年には連続テレビ小説「ひよっこ」でヒロインを好演。NHKでは、連続テレビ小説「あまちゃん」、「太陽の子」、「拾われた男 LOST MAN FOUND」などに出演。