戦国時代の「一揆」は“複雑系”ってなんだ?
大河見た蔵(以下、見た蔵):センパイ~、第8回 見ました!
三河一向一揆は、もう複雑すぎる展開……。ボクの予想も大外れでした。
同門センパイ(以下、同門):まさか、一揆の軍師が本多正信(松山ケンイチ)とは……。意表をついた展開でもあったね。
見た蔵:まず驚いたのは、家康(松本潤)が『論語』を読んでいたこと。
あれ、センパイが第3回で引用していた部分じゃないですか。センパイすごすぎ!
同 門:ハハハ。そういう偶然もあるんだ。孔子のこの政治論は戦国時代の武将には広く知られていたと思うけど、彼らにとっては“きれいごと”だっただろうね。
見た蔵:今川義元(野村萬斎)が再登場していました。家康にとって、いまだに尊敬すべき理想の君主なんですね!
同 門:夢の中の話だけどね。このときの家康にとって、義元は信長(岡田准一)や氏真(溝端淳平)より尊敬できる武将だったんだろうね。
見た蔵:二人ともなんか怖いですからね(笑)。「白兎」、いや「ラビットサイド」の家康としては、やっぱり優しい上司がいいんですよ、きっと。
同 門:そんな弱さを見せまいと、「わしは三河のあるじじゃ!」と虚勢を張ったことで、三河一向一揆はどんどん泥沼になってしまった。でも、私の期待に応えてくれて!?、「一揆の構造」がかなりハッキリ描かれていたのはうれしい。
見た蔵:家臣が離反して一揆側についたり、事情はかなり入り組んでいたんですね。今回は家康の対抗勢力の武家が本證寺勢力に加わる事態になりました。でも武士にも一向宗の信徒がいたなんて、びっくりです!
同 門:それは不思議でもなんでもない。戦国武士と宗教は切っても切れない縁があるんだよ。いくさの前、武将たちは必ず寺社に参って「戦勝祈願」をしていたんだよ。勝ったときは礼として、領地や金品を寄進するんだ。宗教嫌いのイメージがある信長だって、桶狭間の合戦の前に熱田神宮で戦勝祈願していた。
見た蔵:なるほど……。いくさも神頼み、仏頼みだったんですね。でも、負けたらどうなるんですか?
同 門:きっと、信心が足りなかったと反省するだろうね(笑)。こんな話がある。いくさに負けたある武将が、僧侶にこう尋ねた。
武将「敵側もこちらも同じ宗派で、戦勝祈願も同じように執り行ったのに、なぜ向こうが勝って、こちらが負けたのでございましょうか?」。
僧侶「それは仏の思し召しです。勝った側には現世のご利益を、負けたあなたがたには、来世のご利益をお与えになったのです」。
見た蔵:なんだか落語のオチのようですね(笑)。そんなネタをどこから拾ってきたんですか。また、一夜漬けでは……?
同 門:前に恩師と再会した話をしたよね。昨夜、その先生と居酒屋に行ったんだ。その先生、実は戦国オタクで、この手の話が酒の肴にぴったりだったんだよ。
見た蔵:やっぱり~。ネタの無断借用じゃないですか(笑)
同 門:どーもん、スイマセーン! お勘定はすべて私持ちだったので、ご容赦あれ(笑)
見た蔵:センパイの軍師さまに、次回もごちそうしてあげてくださいね(笑)
同 門:さて、戦国時代の一揆とのいくさの話に戻ると、ドラマで描かれたように、「宗教勢力」対「武家」という単純な構図だけではなかった。その間に他の武家が入り込んでいたのは珍しくなかったらしい。加賀一向一揆も、信長の石山本願寺との抗争でも、直接の当事者ではない武家が宗教勢力と組んで、自分たちを優位にしたり、あわよくば相手を滅ぼそうという思惑があったようだ。
見た蔵:そうか、寺側につけば、相手は「仏敵」になるわけですもんね。でも、ドラマを見ていて、なんか複雑な気分になりました。家康の家臣団にも信者とそうでない者がいて、一門同士で戦わざるを得ないなんて……。
同 門:そういう事情もあるから、一揆の全体像は“複雑系”で見えにくいんだね。前回、これまでの大河ドラマではぼんやりとしか描かれてないと言ったけど、複雑さゆえに描きづらかったんだろうね。第8回を見て、肚に落ちたよ。
本多正信の行動には裏がある……ってなんだ?
見た蔵:それにしても、本證寺サイドの動きも巧妙でした。ここでも女性が大活躍。千代(古川琴音)が色気たっぷりに家康の家臣に離反を勧めたり、対抗勢力を籠絡したり。一向宗の篤い信者というより、女諜報員でカッコよかったです!
同 門:その千代といい、服部党の忍者・女大鼠(松本まりか)といい、君はああいう女性がタイプなのかね(笑)。
見た蔵:ボクは、瀬名(有村架純)ひとすじです(笑)。最新のインタビューもすてきでした⇒ ▼「どうする家康」瀬名(築山殿)役・有村架純インタビュー
その服部半蔵(山田孝之)と女大鼠ですが、今回は重要なミッションで大失敗でしたね? これまでも彼らだけで上手くやったことはないか(笑)。
同 門:空誓(市川右團次)暗殺計画だね。これ、フィクションだろうけど、もし成功していたら、かえって収拾がつかなくなる。一向一揆の火に油を注ぐことになるだろうからね。
見た蔵:本多正信にばっちり見られてましたね。というか、なぜ正信はあの場で家康の陰謀を暴かなかったのか……。ここに何か、裏がありそうです。
同 門:君もしっかり見ているね(笑)。
正信は史実では後々家康の参謀挌の重臣になるんだ。このドラマでは、行動に謎が多い人物として描かれている。これは私の妄想だが、家康が将来大物になると踏んで、わざといろんな苦労をさせて、育てようとしてるんじゃないか?(笑)
見た蔵:だから空誓はじめ本證寺サイドに真相は明かさなかった? 将来を見据えて、寸止めで家康を救ったという? それは、やや出来過ぎでは(笑)。
瀬名の言ってることが、一揆の解決にいちばんいいんじゃないかな~。「空誓さまに謝ればいいじゃないですか」。ホント、これですよ!
同 門:でも、家康には領主としてのプライドがある。寺の勢力との直接対決を避けつつ、武家の敵対勢力を一つ一つ潰していくしかないだろうね。この葛藤をのり超えて、大名へと成長していくわけだから。
見た蔵:時間と手間がかかりそうですね……それは。
同 門:今回は、一向一揆のいちばん重要な主張を、夏目広次(甲本雅裕)が涙ながらに語っていた。
夏目:「一向宗門徒は、家康の首が欲しいわけでも、三河の領地を切り取りたいわけでもない。ただ寺々の『不入の権』を守りたいだけ。ならば、何もかも元通りというわけに参りませぬか。何もなかったかのように……」。
それが平和共存の近道でもある。こういう一揆側の主張がハッキリ描かれているのは、画期的だと思う。これまでの大河ドラマにはないポイントだ。
実は深い!今川義元と家康の対話ってなんだ?
見た蔵:そもそも一揆の発端は、三河平定が旗印というものの、家康がやたらにいくさをやって、兵糧不足になったこと。それで寺の米を強奪したからですよね?
同 門:その通りだ。兵糧は領民が収穫した米を年貢として取り立てたものだからね。だから賢い戦国武将は、いくさのシーズンを決めていたんだよ。
見た蔵:いくさのシーズン? なんですかそれは?
同 門:米の収穫量を減らさないためだ。稲刈りが終わってから、田植えが始まるまでの期間が、いくさのシーズン。稲が育っている最中にいくさをやれば、田んぼがメチャクチャになって、収穫がおぼつかないだろう。そうすると武士も領民も備蓄の米に頼ることになる。しかし天候が不順で収穫が少ない年もあるし、備蓄の量は思いのままにならないよね。だから、領主はそういうことにも気を遣う必要があったんだ。
見た蔵:なるほどね。米がとれないと領民も苦しむわけですからね。
同 門:そこでドラマ冒頭の今川義元との対話に戻るわけだ。
見た蔵:「この国のあるじは誰ぞ?」ですね。
義元:「われわれ武家は領民に生かしてもらっているのだ。民の信頼を失ったら、われらは死ぬのじゃ」
同 門:……その通りだよね。子曰く「民、信なくんば立たず」。民に領主への信頼があれば、快く食べさせてくれるし、もし食糧が足りなくても、ついてきてくれる、というわけだ。
見た蔵:つまり家康のいくさは、「本当に国や自分たちのためにやってくれているんだ」という思いが民の側にあればこそ、ということですね?
同 門:そういう認識を領民の心に行きわたらせるのが、いちばん大切だ。言葉で、態度で、施策で示し続けないと。「わしはこの国のあるじじゃ!」と叫んでいるだけじゃダメなんだ。いまの家康の課題は、ここにある。
見た蔵:間一髪で命拾いして、家康も少しは考えを改めるといいですね。夢の中で義元が教えてくれたことを忘れないでほしいな。
同 門:さて、ここで恒例のクイズ!
「この泥沼化した三河一向一揆とのいくさ。隣国の信長は手をこまねいている家康を黙って見ているわけがない。さて、信長は家康に何と言ってくるでしょうか?」
見た蔵:ボクは。家康に穏便な解決をしてほしいんですけど……。
でも信長はねえ。冷酷非情な人ですから。「オレはグズグズするのが大嫌いだ!」なんて言ってたし。「一揆を即刻、全力で、徹底的につぶせ! 何なら援軍を送るぞ」じゃないですか? そして、家康をさらに追い詰めるのでは?
同 門:なるほど。では、次回の放送を楽しみに待つとしよう。
(第9回、大胆レビューにつづく)
過去の記事>>
第1回:「どうする家康」が「鎌倉殿の13人」から引き継いだものってなんだ!?
第2回:「どうする家康」が“居心地の悪い”ドラマに感じるのはなんで⁉
第3回:家康を諭した於大の方のメッセージが深い!その真意ってなんだ?
第4回:お市の方より今川氏真がおもしろい⁉ってなんだ?
第5回:脚本家・古沢良太が描く織田信長VS.織田信長ってなんだ!?
第6回:立役者は半蔵(山田孝之)ではなく氏真(溝端淳平)ってなんだ!?
第7回:家康より“家”をつくるのがうまかった空誓上人ってなんだ?