大河ドラマ「どうする家康」で、家康の母・於大の方役の松嶋菜々子。
乱世の厳しさを教え、家康を支えていく母を演じる松嶋に、於大の方の魅力やドラマの見どころを聞いた。


――「どうする家康」の出演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。NHKでは、“朝ドラ”「ひまわり」(1996年前期)と大河ドラマ「利家とまつ~加賀百万石物語」(2002年)で主演を務めさせていただきました。2019年の「なつぞら」でヒロインの母として朝ドラに戻ってこられたので、ぜひ今度は大河ドラマの母親役を演じられたらいいなと思っていたんです。なので「どうする家康」のオファーをいただいた時は本当に感激しました。

――於大の方についてはどのような印象を持ちましたか。
出演が決まった後、於大の方に関する本をいくつか読ませていただきました。そこには、幼い家康を彼女がどんな気持ちで人質に出していたのかや、夫に離縁されて次の嫁ぎ先にどんな気持ちで行ったのかなどが書かれていて、戦国時代の母として妻として、とても尊敬できる方だなと感じました。

その後、脚本家の古沢良太さんが書かれた台本をいただくと、於大は天真爛漫と言いますか、とても人間味のある女性に描かれていました。これまで戦国を舞台にした時代劇では、女性陣は座っておしとやかに会話をするシーンが多かったと思うのですが、今回はところどころで現代も感じます。

於大もすごく動きがあって面白いので、役作りのしがいもありますね(笑)。台本を読む前に考えていた振り幅よりもさらに大きく表現の肉づけがたくさんできるので、演じる私自身も楽しませていただいています。

――これまで演じてきて、於大の方の魅力はどんなところだと思いますか。
「そんなことまで言ってしまうの!」と思うくらい厳しいことをズバリ言う於大ですが、自分なりの思いをしっかり持っている芯の強い女性です。ただ、息子の家康に対しては強い母として厳しいことを言う場面でも、きつく見えすぎないように心がけています。

一方、於大が場を盛り上げる役目を担うことも多いので、シーンの流れや雰囲気をくみ取るようにしています。でも、あまりコミカルにしようとは思っていなくて、台本のセリフを忠実に表現すれば、自然とそこに面白さが生まれてくる。その意味で言うと、於大は皆をあおるように盛り上げるので、誰よりも一生懸命大きな声を出すことを意識しています。

――息子・家康と於大の方の関係についてはどのように捉えて演じていますか。
於大としては、争いのない世の中になってほしいと考えたときに、そんな世を築ける子を産みたいという思いが誰よりも強かったと思います。だからこそ、家康に対しては、虎の子として愛情深く接していたのではないでしょうか。

強くならなければならないということで、あえて厳しく接することのほうが多かったかもしれませんが、家康のことを時には遠くから、時には近くから、いろいろな角度から見守っていたのではないかと想像します。

――家康役の松本潤さんと共演しての印象はいかがですか。
松本さんとはこれまでに何度か共演していますが、作品ごとに関係性が変われば、自然とそれを表現できる信頼関係は築けていると思います。

今回も母と子という間柄ですが、特に事前打ち合わせもしていません。それでも、松本さんのいろいろな顔が見られて楽しいですし、今までとは違ったものを表現できるようにお互い切磋琢磨していけたらと思っています。

これまでに多くの作品で徳川家康が描かれてきたことで、家康はこういう人物だろうというイメージを皆さんそれぞれがお持ちだと思います。ただ、今回は松本潤さんが主演で、とても個性的な家康を古沢さんが描かれているので今までとは別物です。ユーモアのある魅力的な家康が表現されているので、ぜひそこを楽しんでいただきたいですね。

――家康の妻・瀬名と於大の方の関係についてはどのように捉えて演じていますか。
同じ姫として生まれ、政略結婚によって国の主に嫁いだという立場で見ると、於大は瀬名を同志という感覚で見ているような気もします。「主の妻としての立ち振る舞いや思想は、言わなくてもわかるよね」という厳しさもあるけれど、愛情深く見守っているのではないでしょうか。

――瀬名役の有村架純さんと共演しての印象はいかがですか。
有村さんの声のトーンが好きで、肝の据わった雰囲気と言いますか、それが瀬名の強さにも上手に表現されていると思います。さらに、有村さん自身も、自分というものをしっかり持たれていてぶれない感じが瀬名に通じるものがあります。本当にすばらしい俳優さんだと思います。

――最後に「どうする家康」の魅力と於大の方の注目ポイントを教えてください。
家康の“どうする?”という慌てっぷりがとにかく面白いです。名だたる武将たちに翻ろうされたり、家臣たちに鼓舞されながら、家康がどう成長して天下人になっていくのかがいちばんの見どころですね。

その中で、信念を持った愛情深い母として、家康を支える於大をしっかり表現したいと思います。もしかして視聴者の皆さんが抱いている於大のイメージとは少し異なるかもしれませんが、ご期待に添えるように精いっぱい頑張ります。

松嶋 菜々子(まつしま・ななこ)
1973年生まれ、神奈川県出身。1996年に連続テレビ小説「ひまわり」でヒロインに抜てきされ、その後も俳優として活躍。NHKでは、大河ドラマ「利家とまつ~加賀百万石物語」、連続テレビ小説「なつぞら」などに出演。「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」(総合 毎週金曜夜10時放送)ではナビゲーターを務める。