今回描かれた「三河一向一揆」ってなんだ!?
大河見た蔵(以下、見た蔵):センパイ~!第7回、見ましたよ!
家康(松本潤)と瀬名(有村架純)の夫婦仲にヒビが入るのでは!? というボクの予想は外れたのかな。それとも……?
同門センパイ(以下、同門):まあ、今回は軽い夫婦ケンカ程度だったね(笑)。君も知ってるんだろうけど、これまでの「定説」では、瀬名は後に「天下の悪妻・築山殿」と呼ばれるようになるんだよ。
見た蔵:瀬名は今の瀬名のままでいてほしいんですけど……。
同 門:これを「どうする家康」が、まさにどうするのか、お楽しみだね。
見た蔵:「三河を一つの家に」という家康でしたが、まだまだ道は遠い。「謀反を企てるヤツばかりじゃないか!」と信長(岡田准一)に怒られてましたね。
同 門:さらに武士だけじゃない、新たな対抗勢力が登場した。一向宗の「本證寺」だ。これからドラマに出てくる「三河一向一揆」は家康の生涯で最大の試練の一つとなるんだよ。
見た蔵:寺の中はかなり盛り上がってましたね。なんかアフリカ系アメリカ人のゴスペル教会みたいでした。
同 門:そうだったね。親しみやすい説教があって、歌と踊りで信者が一つになっていた。家康のいうところの「一つの家」になっていたんだ。
見た蔵:寺内町は景気よさそうで、しかも腕っぷしの強い連中を揃えてましたね!
同 門:一向宗の寺は「不入の権」を大名に認めさせていた。これは年貢免除(納税免除)、大名の立ち入りを認めない(権力の介入を認めない)ということ。そのため寺は財政的に豊かで、金貸しも行っていて、現在の金融機関の役割も果たしていたようだ。またその財産を守るために独自の武力まで持っていたという。
見た蔵:なるほど……。鳥居忠吉(イッセー尾形)が言うように、独立国みたいなものだったんですね。だから家康が、先代と寺との約束を一方的に破って、年貢を強引に取り立てたので、怒って武装蜂起しちゃったわけですね。
同 門:戦国時代というと、大名同士の戦いばかりに目が行きがちだけど、信長や家康ら戦国大名がいちばん苦労したのは、一向一揆の鎮圧だったんだ。年表を見ると、近江、越中、加賀、石山、長島、越前……という具合に家康の前半生にあちこちで頻発してるんだよ。信長はこれに加えて天台宗の延暦寺とも戦争状態になっていた、さらに一向一揆と組んで信長に対抗する大名さえ出てきたりしていて。
大名より強い!?戦国時代の寺社勢力ってなんだ?
見た蔵:大名との戦争状態も辞さず、さらには軍事同盟ですか。それくらい宗教勢力は強かったんですね。
同 門:大名同士の戦いでモノをいうのは、経済力と武力。しかも合戦の動機はしょせん領土争い、利権の取り合いだ。しかし宗教側の戦いには、武力行使の動機に信仰という「筋金」が一本通っているから、それは強いよ(笑)。
見た蔵:「仏敵」と呼ばれたら武士もビビります(笑)。
同 門:しかも大名に手を焼かせたり、同盟を組ませるくらいだから、ムシロ旗を立てて、散発的に反乱するような小規模なものではないはず。それなりの規模の人間を動員したんだろう。さらに、「プロ」の武士ほどでないにせよ、それなりの軍備、戦闘訓練、指揮系統があり、全体を率いる参謀的な人間を抱えていたはずだ。
見た蔵:そうですよね。宗教がらみでいうと、家康は「厭離穢土 欣求浄土(汚れた世を浄土にすることを目指せ)と言ってましたが……。
同 門:現段階でそれは単なるスローガン。まだそれを実現できる器じゃないんだろうね。
見た蔵:信長は延暦寺との戦争に決着をつけるために焼き討ちをかけ、おんな子どもを含め、冷酷無比な大量虐殺をやったといわれています。
同 門:信長の残酷さを示すエピソードとしてよく描かれるね。そこで一方の家康が三河一向一揆を「どうする」かが次回以降の見どころだ。
見た蔵:なんか穏健に収めるような気もしますが……。
同 門:さて、それはどうかな。家臣にも一向宗の信徒がいたみたいだからね。混迷を極めそうだよね。
ところで今回気がついたんだけど、戦国ものの大河ドラマには、確かに宗教勢力との対立や戦いが描かれてきた。でも私が思い出せる範囲では、なんだかぼんやりとした、「時代背景のエピソード」として出ていただけじゃないかな。
見た蔵:はあ。で、どういうことですか?
同 門:つまり、「一揆を起こす側の言い分」がきちんと描かれてこなかったように思うんだ。今回画期的だったのは、それが描かれたこと。一向宗の指導者である空誓上人(市川右團次)の説法と、彼と家康との対話は、見応えがあった。
見た蔵:あまり話がかみ合っていなかったようにも見えましたが……。
「いくさは民を苦しめるだけ」という空誓に対し、家康は「いくさは民のために行うのだから、年貢は納めるべき」と反論。けれど、空誓は武士に納めてもムダだと一蹴。
同 門:武士はいくさしかできない阿呆だからってね。
見た蔵:家康は半分キレてましたね(笑)。
家康「では、どうすればいくさをしないで済むのですか?」
空誓「知らぬ!」
って、取りつく島もない(笑)。「それを教えてくれよ~」とボクも思いました。
同 門:まるで禅問答みたいだったね。ただ、
空誓「(武士と寺は)生きている世界が違う。苦しみを(民に)与える側と(苦しむ民を)救う側じゃ」
と語っていた。次回以降、この二人がどう対決していくのか、気になるところだ。そして、これまでの大河ドラマでぼんやりとしか描かれてこなかった一揆が、どんな形であれクッキリ表現されることを期待してるんだ。
さて、ここで久々のクイズです。さっき一揆の軍事参謀の話をしたけど、三河一向一揆にもそういう存在があったんだ。どんな人物でしょう?
見た蔵:そんなの簡単ですよ! 今川氏真(溝端淳平)が送り込んだ人間でしょ。今川サイドとしては、一揆勢力を使って家康を追い詰めれば、再度の三河侵攻が可能になるじゃないですか?
同 門:ほほう、今回も氏真に着眼してきたか! 次回を楽しみに待とう。
「大河ドラマ第一作の謎」ってなんだ??
見た蔵:ところで、「どうする家康」は、ネット等では「ファンタジー大河」なんていわれているみたいですよ。
同 門:しばらくフィクションの強いストーリーが続いたからね。あと、VFX(視覚効果)を使った背景も多用されてる。
見た蔵:清須城の映像はすごかったです! でもちょっと壮大すぎ? 中世ヨーロッパの宮殿か要塞みたいで、映画『ロード・オブ・ザ・リング』かと思った。
同 門:和装の侍とはちょっと合わなかったかもしれないね(笑)。
「ファンタジー大河」の話に戻るけど、賞賛か批判かはともかく、少なくともこれまでの大河とは違うということは確か。どういう見方をするかは、個々人の自由であっていいと思うな。
見た蔵:「それはあなたの感想でしょ」ってやつですか、ひろゆきの(笑)
同 門:前も言ったけど、大河ドラマ60年の歴史は、作り手がその時代時代に向けたメッセージ。常にチャレンジの連続だし、ある程度のバズりは覚悟の上でしょう。ところで、2月の初めに大河ドラマ関連で面白い番組が2本あったよね。
見た蔵:ドラマ「大河ドラマが生まれた日」(2/4)と、AIでカラー化した大河第一作「花の生涯」(2/5)ですね。
同 門:「花の生涯」はどうだった? 意外と……面白かったよね?
見た蔵:はい。カラー化については「AIよく頑張ったね」という感じでした。俳優の演技や演出は、現代の放送に慣れた目にも違和感なかったです。60年前のドラマだから、展開がもっとモッサリしてるかと思ってたんですけど、スピード感もありました。

▼「花の生涯」カラー化の舞台裏を取材した記事はこちら!
https://steranet.jp/articles/-/1439
同 門:スピード感といえば、長野主馬(佐田啓二)と村山たか(淡島千景)の仲の進展は早かったね(笑)。
見た蔵:すっごく!(笑)。今のドラマでは不自然に見えてNGかも(笑)。
ところでセンパイ、ちょっと気になったんですが、大河の第一作の主人公が、井伊直弼って、どうなんでしょう? 安政の大獄で対抗勢力を抹殺した独裁者。なぜこの人なんですか?
大河ドラマ年表を見たら、第二作が「赤穂浪士」、第三作が「太閤記」、第四作が「源義経」ですよ。どれも井伊直弼よりいいと思いますが。
同 門:そこが謎なんだ。大河ドラマの歴史を書いた本は何冊かあるけど、それについて触れているものは見つからなかった。『NHK放送史』には、当時「花の生涯」の演出助手だった大原誠ディレクターが裏話を語っているものがあった。まさに当事者の証言なんだけど、題材選びについては、プロデューサーと演出家と脚本家の三人の話で決まったというだけ。「なぜ直弼なのか」も、ちょっと謎なんだ。
見た蔵:ドラマ「大河ドラマが…」の主人公のモデルになった人ですね。でもそんな少人数で簡単に決められたのかな。
同 門:NHKがテレビ界の威信をかけて作る大型ドラマの企画だからねえ。大きな予算も必要だったろうし、局内で侃々諤々の大議論があったと想像するのが普通だ。でも昔のテレビ局は結構アバウトだったようだから、そんなことが「あり」だったのかも(笑)。
見た蔵:ドラマでは、プロデューサー楠田欽治(阿部サダヲ)が一人で決めたことになっていました。
同 門:その理由がすごい。奥さんが彦根出身で、彦根では直弼は郷土の偉人だから、って。
見た蔵:家庭を顧みないテレビマンが、奥さんの機嫌を取るために企画したっていう(笑)。
▼生田斗真×阿部サダヲ 大河ドラマを生んだ制作陣を熱演してわかった「はじめの一歩って本当に大変」▼ https://steranet.jp/articles/-/1401
同 門:でも、その結果が60年続く大河ドラマの礎になったわけだから、まさに瓢箪から駒(笑)。本当なら、かえって痛快だね。

家康と同様テレビも「どうする」の連続だった?
同 門:決まった経緯はともかく、当時の制作陣には「井伊直弼=悪人」説に一石を投じたい、という熱い思い、強い意志があったと思うんだ。
見た蔵:お得意の「大河ドラマチャレンジ説」ですか!?
同 門:独裁者というけど、見方を変えれば、井伊直弼はアメリカと国交を樹立して、日本を世界に開き、新たな時代を準備した大政治家とも言える。勅許を得ずに開国したのは確かに彼の独断専行で、それで暗殺されたんだけど。でも彼がいなくて、攘夷派に任せていたら、日本は西欧列強の軍事攻撃にあって植民地になっていたかもしれない。
見た蔵:そうなると、いまの日本はなかったかも……。
同 門:そんなふうに考えれば、それまでの直弼像に新たな光を当てたことになる。だからこの第一作が、チャレンジを続ける大河ドラマの伝統を作ったといえるね。つまり、今回の「どうする家康」は、その伝統を受け継いでいるんだ。
見た蔵:「大河ドラマが生まれた日」で驚いたのは、当時のテレビが映画界や演劇界から「電気紙芝居」ってバカにされてたことです。
同 門:それは危機感の裏返しじゃないかな。それらの業界人たちは、テレビをすごく警戒していたんだと思う。自分の庭を荒らされて、下手すれば滅ぼされるんじゃないかって。それくらいテレビはニューメディアとしてパワーがあった。少なくとも芸能界はそのパワーを予感していたんだよ。
でも、今は映画も演劇もテレビとちゃんと共存してる。滅びるどころか、元気いっぱいだよ。それは、テレビを意識しつつ、それぞれのジャンルならではのコンテンツを開発して、いい仕事をしてきたからだろう。
見た蔵:今ではテレビがネットに押され、テレビ界に危機感が漂ってるようです。
同 門:いやいや、テレビならではの特性を生かした番組をキチンと作っていけば、テレビが滅びることは絶対ないと思う。テレビにできることはまだまだある。その時々に応じて、まさに「どうする」と考えることが大事だろう。考えることをやめてしまったときは、滅亡もやむなしだ。
見た蔵:センパイ、いつからメディア評論家になったんですか?(笑)。
ボクは知っていますよ! センパイはネット機器がすごく苦手だってことを。だからテレビの肩を持ってるんでしょ?(笑)。
この間だって、センパイはNHKプラスに登録しようとして、うまくできなかったじゃないですか。ボクが教えて、というがボクがやってあげて……。
同 門:そ、その節は……。どーもん、スイマセーン!(苦笑)
(第8回、大胆レビューにつづく)
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第2回:「どうする家康」が“居心地の悪い”ドラマに感じるのはなんで⁉
第3回:家康を諭した於大の方のメッセージが深い!その真意ってなんだ?
第4回:お市の方より今川氏真がおもしろい⁉ってなんだ?
第5回:脚本家・古沢良太が描く織田信長VS.織田信長ってなんだ!?
第6回:立役者は半蔵(山田孝之)ではなく氏真(溝端淳平)ってなんだ!?