#5 頼朝の夢と野望との画像
頼朝の従者・安達盛長(野添義弘)は、頼朝が心を許す数少ない男でもある。

曽我兄弟が父のあだちを遂げるてんまつを描く『曽我物語』には、源よりともらん万丈の青年時代も描かれています。同時に頼朝の成功を予言するエピソードもちりばめられています。

もちろん、頼朝が東国の、そして日本の覇者になったことから逆算して生まれた話です。その中から一つ、安達藤九郎盛長が見た大吉夢を紹介しましょう。

盛長は鎌倉殿の“13人”の一人になります。頼朝の流人時代から仕え、常に寄り添い、支え続ける忠臣です。頼朝を静かに見守り、頼朝が最も信頼を置く役柄を、ぞえ義弘さんが渋く演じています。ご注目!

さて、挙兵前のことです。政子と通じたことが露見し、伊豆山神社に隠れていた頼朝と政子に、盛長が夢の内容を報告します。頼朝が足柄で酒を3杯飲み、左足を奥州の外ヶ浜に、右足を西国の鬼界ヶ島にかけて南を向き、左右の袂には日月を入れているというのです。

左右の足は、日本全土(この時代、沖縄も北海道もまだ日本ではありません)を支配下に治めること。日と月は上皇と天皇を示すので、頼朝が朝廷を護る大将軍となるということ。3杯の酒は、早ければ3か月、遅くとも3年の間に実現することだと。

ダイナミックな夢です。頼朝が大喜びしたのはもちろんです。ただ、似たような話が、既にあります。『おおかがみ』に、藤原もろすけが若いときに、京のざくもんの前で、左右の足を東西の大宮通りに置き、北向きに立って内裏を抱きとるという夢を見た、と記されています。

しゅうものがたり』では、応天門の変を起こした伴大納言よしが、奈良の西大寺と東大寺を股にかけて立ったという夢を見ます。

しかし、せっかくのめでたい夢なのに、それを聞いたこざかしい女房や妻が下手な夢解きをして、師輔と善男は、夢を実現することができなかった、という結末です。

それに引き換え、盛長が見た頼朝の夢はとてもスケールが大きく、また、夢解きも成功して、現実となります。頼朝の運命は、苦難の青年時代にあって、既に定められていたのです!

『曽我物語』から、もう一つ紹介しましょう。時がもう少しさかのぼります。伊東すけちかの命令で、八重姫との間に生まれた千鶴御前が殺され、頼朝にも危険が迫り、北条館に逃げます。

その途中、頼朝は心の中で、八幡だいさつやさまざまな神々に、源氏再興と日本国の平定を祈ります。それがかなわないときには、祐親の首をはねて憤りを晴らし、我が子の供養をするために、せめて伊豆国を授けてもらいたいとも。頼朝が3つの願いを深く心に刻んでいたと書かれています。頼朝自身が、いつかは決起しようと野望を抱いていたようです。

『吾妻鏡』などでは、もちひとおうりょうが到来したことをきっかけに、頼朝が挙兵を決意すると展開します。これは、高貴な人物が、自らの意志ではなく、天命や周囲からの勧めで事を起こすという物語の【型】に沿ったものです。

その一方で、頼朝の人生の軌跡から振り返って、自身がその将来を望み願い、また約束されていたと語られる話も生まれていきました。

(NHKウイークリーステラ 2022年2月11日号より)

静岡県生まれ。お茶の水女子大学大学院博士課程人間文化研究科比較文化学専攻満期退学。博士(人文科学)。現在、駒澤大学文学部教授。『平家物語』などの軍記物語を中心とした中世日本文学の研究を専門としている。著書に『『平家物語』本文考』、『平家物語の形成と受容』、『90分でわかる平家物語』、『平家物語大事典』(共編)、他にCD集「聞いて味わう『平家
物語』の世界」などがある。NHKでは、ラジオ〈古典講読〉「平家物語、その魅力的な人物に迫る」に出演。