大河ドラマ「どうする家康」で、瀬名の母・巴を演じる真矢ミキ。
第5回の放送で、奪還作戦が失敗に終わり窮地に立たされた関口家。
真矢に、巴の役柄や瀬名役・有村架純との初共演の感想などを聞いた。


――初めての大河ドラマの出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
とても光栄で、純粋にうれしかったです。私が子どものころは、父が大河ドラマをいつも見ていて。父は日曜日しか休みがない昭和の企業戦士みたいな人だったので、日曜の夜はビールと枝豆を置きながら大河ドラマを見ていたという記憶が鮮明に残っています。

2004年に父は亡くなってしまったんですけど、その思い出深い作品に私が出演することになるなんて、もちろん当時は思っていなかったですし、きっと父が生きていたら喜んでくれたでしょうね。


――巴役についてはどのような印象をお持ちですか。
巴は全盛を誇っていた今川家の出自で、家中の皆が幅を利かせる華やかな世界で生きてきた女性です。現代に置き換えると、いわゆるお嬢様育ちといいますか。でも、育ちの良さは、往々にして良い部分もあれば、悪しき部分もあると思います。

巴の場合は、物事を裏読みしない実直さがあって、それがときには(あだ)となってしまうことも。第5回の放送で、駿府から逃げる作戦を今川家重臣・鵜殿長照(野間口徹)の妹・お田鶴(関水渚)にもらしてしまう場面がありました。まさに巴の人間性を象徴していたと思います。私自身も台本を読んで、思慮深さのない巴を表現するうえで、とてもヒントになった描写でした。


――夫・関口氏純と巴の夫婦については、どのように捉えて演じていますか。
氏純(渡部篤郎)さんは、巴よりも身分の低い出ですけど、すごく愛情深さがあるし、巴が持っていない部分を全部カバーしてくれる存在です。すべての物事に対して深く捉えたり、裏を読んだりすることに長けていて、言葉数は少ないけれどしっかり威厳も感じますよね。

そう思うと、この夫婦はすごくバランスが良いなと思います。いつも寡黙で言葉を発していないときも心の中で考えている氏純さんに対して、思いついたがままに何でもしゃべってしまう巴。その対比も面白いと思うので、氏純を演じる(渡部)篤郎さんとの役作りもいろいろ相談しながら楽しく演じさせていただいています。


――娘の瀬名のことをいつも気にかけている巴ですが、瀬名への思いはどのように捉えて演じていますか。
雑木林で自由に遊んでいる家康にひかれた瀬名を見ていると、親の愛情が豊かだったからなのかなと思いますね。どんなことが起ころうとも、娘への愛情、かわいさというのはずっと巴の中に流れているはずです。

家康が今川家を裏切り、織田家につくと決めたときは、「今川のご恩を忘れたのか」という怒りはもちろんあったでしょうけど、巴としては瀬名に「どうか思いを変えて、(今川)氏真の側室になってほしい」と願っていたでしょうね。それは、この時代を後悔しないで生き抜いてほしい、1つの血をつなぐ懸け橋になってほしいという願いがあったからではないかと思います。

実際、(有村)架純ちゃんが演じる瀬名を見ていると、どちらかと言えば氏純さん寄りの人柄なのかなと感じることが多いです。ただ、戦国を生き抜いてきた巴の姿をそばで見てきたからこそ、いざという時には命をかけなければならない度胸も瀬名は持ち得ているのではないでしょうか。


――瀬名役の有村架純さんと共演された印象を教えてください。
初めて共演させていただきましたが、私が抱いていたイメージそのままの方でした。撮影では一つ一つ丁寧に役と向き合っていらっしゃって、撮影以外のところではささいなことで喜んでいる姿を見るとすごくほほ笑ましくてね。健気でかわいらしいなといつも思っているので、そんな自然体の架純ちゃんと現場で一緒にいられる時間が私もうれしいです。


――家康役の松本潤さんと共演された印象はいかがでしょうか。
撮影でご一緒したシーンは少ないですけど、とても細やかでいろいろなところを見ている方だなと感じます。誰かが「これ、どこにあるかな?」とぼそっと言えば、「ありますよ、こっちに!」とすぐに反応しますし、普通の細やかさ以上の細やかさを持っていると思います。

以前、元康と瀬名の祝言の撮影のとき、飲みやすーい野菜ジュースを現場に差し入れしてくださって、みんな喜んでいました。松本さん自身も、徳川家臣団を演じる先輩方の俳優陣に囲まれてとても楽しそうですし、その空気感がすごくいいんですよね。

また、アイドルとしてたくさんの人に喜びや楽しみを与えてきた方ですから、どんな衣装も似合う。烏帽子姿も本当にかっこよくて、撮影しながら終始、元康と瀬名をほほ笑ましく見ておりました(笑)。


――第6回は、巴や瀬名たちの運命が大きく動きます。注目ポイントを教えてください。
戦国に生きる女性として、母親として、大切にしなければならないことを巴が瀬名に伝えます。きっとこれは、現代に生きる女性や母親にも通ずるところがあると思います。

戦が当たり前の戦国時代において、戦いたいと思う男性と、家族を守りたいと思う女性の関係は、その時は正しかったのかもしれないけれど、中には、それを変えようとした男性や、変えたいと思う女性もいたと思うんです。

我が子を守るうえでも、女性だけが頑張ったのではなく、男性の力も少なからずあったのではないかと。それは、巴を演じてみて感じた部分でもあります。

今川家で育った巴は、幼いころから、戦で倒れた兵士たちやその家族が悲しむ姿を見てきたでしょうから、起こりうるさまざまな悲喜こもごもに対して敏感であると同時に、蓄積された強さも持っていたはずです。

そのため、“命をかける”ことに対して怖さはあるけれど、何かを守るためには本望だと思っていたのではないでしょうか。それが、武士である夫や家族を支える妻の芯の強さなのだと思います。ぜひ、関口家にとって大きな転換となる第6回の放送をご覧いただけたら幸いです。

真矢 ミキ (まや・みき)
1964年生まれ、大阪府出身。1981年に宝塚歌劇団入団。1998年に退団後は俳優として活躍。NHKでは、連続テレビ小説「てるてる家族」「風のハルカ」、「全力離婚相談」、「生きて、ふたたび 保護司・深谷善輔」などに出演。