今川氏真が、デキル男って本当!?

大河見た蔵(以下、見た蔵)センパイ~! 第4回見ましたよ……(涙)。
同門センパイ(以下、同門):おいおい、泣くなよ(笑)
確かに、前回、君が危惧した通りになっちゃったね……。でも、瀬名(有村架純)は家康(松本潤)と結婚する前に、すでに今川氏真(溝端淳平)の「お手付き」だったという説もあるようだよ。
見た蔵:それにしても、側室以下の扱いだなんて……。氏真めっ、許さん!
同 門:戦国時代、そんなことは当たり前だったろうし、まあ気を落とさないようにね(って、550年前の女のことを心配してどうするんだ?)。

見た蔵:はぁ、ありがとうございます……。今回もまた、意思の強い女性キャラが登場しましたね? 
同 門:お市の方(北川景子)だね! その話はあとでじっくり語ろう。
まずは今川家の話から整理していこうか。実は、君が敵視している今川氏真は結構おもしろい人物なんだよ。

見た蔵:ええっ!? 父・義元(野村萬斎)と同じく好色で、朝廷文化マニアのダメ武将じゃないんですか?
同 門:まあ、ちょっと落ち着こうか(笑)
確かに、評判はあまりよくない。だが、氏真は今川家が滅びた後も戦国時代をしっかり生き延びたんだ。紆余曲折を経て家康の家臣となり、なんと徳川幕府の典礼を司る「高家」の役職を得ることになる。これは幕府の高官だよ。その後、彼の子孫は代々この役職を勤めたんだ。氏真が死んだのは、家康が亡くなる前年の1615年。77歳の長命だよ。

見た蔵:現代並みに、長生きじゃないですか!? なおさら、許せん!
同 門:高家の役職は、生半可な教養では務まらないはず。有職故実の知識も要るし。君は朝廷文化マニアとくさすけど、相当ハイレベルな文化人だったと思うよ。

見た蔵:和歌や蹴鞠を少々たしなむ程度じゃなかったんですか?
同 門:父の義元は、京の文化に精通しており、朝廷を取り込んでの来るべき天下統一に備えていた。ただ、京の貴族から見れば、戦国大名なんて無教養な田舎者で、バカにされていたんだよ。そんなハンデをはね返そうとしていた父の思想を氏真は受け継いでいたんだろう。

見た蔵:意外にも、デキル男だったんですね。
同 門:氏真の人生の有為転変はすごいよね。どうも戦は苦手みたいだけど、人生の選択をうまく行って、最後は徳川幕府の重臣。平和になった世で出世するなんて、大本のところで、家康と同じ平和志向だったのかもしれない。
「どうする氏真」というドラマを作ってもいいんじゃないかな(笑)。


今川氏真と源実朝の共通点ってなんだ!?

同 門:ここで思い出すのが、「鎌倉殿の13人」にも登場した源実朝だ。
見た蔵:ダメな感じの第3代将軍? 活躍できないまま暗殺されちゃった?

同 門:ドラマの中ではあまり触れてなかったけど、実は、実朝は貴族から高く評価された歌人なんだよ。勅撰和歌集にもたくさん選ばれている。これは今でいえば芥川賞ものだよ。当時の和歌の第一人者・藤原定家が選んだ『小倉百人一首』にも入っている。93番。
 世の中は 常にもがもな 渚こぐ 海人の小舟の 綱手かなしも
知ってるかな?
見た蔵:スイマセン。知りません……。

同 門:おおよその意味は、平和な世の中がずっと続いてほしいなあ、という感じ。武人らしからぬ歌だよね。
「鎌倉殿の13人」でも描かれていたけど、実朝は定家から和歌の指導を受けていたし、後鳥羽上皇からも好かれていたよね。彼のみやびな心根が好感を持たれていたんだろう。「こいつは田舎者じゃない。和歌の心得も教養もある」と。
一方、義時はじめ「田舎者」の北条サイドにとっては、そこが理解できない。実朝は単なる「朝廷文化マニア」の無能な将軍だと。
見た蔵:なるほど……。京の貴族にとっては、実朝以外の鎌倉幕府一派なんて、腕っぷしが強いだけの、無教養な田舎者の集まりにしか見えないんですね。

同 門:貴族は、そんな連中に大きな顔をされるのは耐え難い。で、最後に後鳥羽上皇はキレちゃったわけ(笑)。それが「承久の変」の発火点だ。
話を今川親子に戻すと、彼らが天下統一のために、経済力、軍事力に加えて、「文化力」が必要と考えていたとすれば、それはひとつの卓見じゃないかな。信長(岡田准一)とか武田信玄(阿部寛)には、もちろん家康にも、この時点ではそういう発想はなかっただろう。
見た蔵:でも信長は、「人間五十年 下天の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり……」とよく謡ってたそうじゃないですか? なんか教養ありげですよ。
同 門:幸若舞の「敦盛」ね。でも、それしか知らなかったんじゃないの(笑)。


「文化力」がモノをいうはずだった!?

同 門:戦国時代に先立つ室町時代は、幕府が京にあったせいか、後に日本文化の代表格になるような文化が花開いた。金閣の北山文化、銀閣の東山文化、茶の湯の誕生もそう。「幽玄」や「侘び」もこの時代に生まれた美的コンセプトだ。武家と公家の文化の融合とされている。だからなおさら為政者には文化的素養を求める風潮があったんだ。
見た蔵:そういう時代の後だけに、今川は「文化力」を携えて京都を目指した、というのがセンパイの見立てでしょうか。

同 門:今川は政治的に朝廷の後ろ盾が欲しいんだよ。それを手にすれば天下統一の大義名分ができる。そのためには京に入らなければならない。当時の戦国大名は皆それを狙っていた。でも実行に移せる能力があったのは今川だけだったんだね。
見た蔵:その通り道に織田の尾張があった。そこを突破しようとして桶狭間の合戦となる。

同 門:今川軍は2万5000人、織田軍は3000人ともいうから、織田軍の大勝利。
見た蔵:今川義元も大きなミスを犯しましたね。大軍にあぐらをかいて、これといった護衛もつけずに昼食をとってたんでしょ。お酒も飲んでたみたい。

同 門:そう伝えられているね。そこでよく言われるのは、義元が「朝廷文化マニアのダメな武将」という評価。しかし「朝廷文化マニア」だったから「ダメな武将」だった訳ではないよ。たまたまこの二つの人格が義元の中に共存していただけ。「文化力」と「武将の能力」は別のこととして考えないと、義元の正しい評価はできない。
とはいえ、織田の奇襲作戦が予想以上にうまくいったのは事実。しかし、信長はバカじゃない。経済力も軍事力もケタ違いの相手だ。とてもじゃないけどその勢いで今川殲滅というわけにはいかない。
見た蔵:大平洋戦争での、日本の真珠湾攻撃みたいなものですからね。

同 門:今川が本気になって義元の弔い合戦に臨んできたら、とても勝ち目はないことをわかっている。
見た蔵:でも今川も重臣の多くを失って、とてもそんな余裕はなかったのでは? だから家康を助けてくれない。だから三河衆は離反しちゃうという。
コラ氏真! 瀬名に手を出している場合じゃないぞ! ほかにやることないのか!

同 門:まあ、落ち着こうか(笑)。
確かに氏真の武将としての求心力のなさや優柔不断ぶりは織田にとってラッキーだったね。信長は信長で義父・美濃の斉藤道三が長男の義龍に殺されて、美濃と尾張は緊張関係になってたから、うかつに動けない。だからなおさら対今川の「防波堤」として家康の三河勢力を使いたいんだ。


新たな女性キャラ、お市の方ってどうなの!?

見た蔵:今回もまたまた自分の意志で生きる女性が出てきましたね。センパイの予想が的中、お市の方です。
同 門:この人も戦国に翻弄される悲劇の女性として描かれてきたよね。信長の意向により浅井長政と政略結婚。夫婦仲はよかったみたいだけど、次第に夫と信長は対立し、敗れた長政とは死別。その後、柴田勝家とふたたび政略結婚。最後は秀吉に攻められて夫とともに自害という……。

見た蔵:今回は一転、武芸の達人(!)、家康が初恋の人(!)、家康は信長に市をめとれと迫られる(!)。そう来たか! 柴田勝家も彼女を好きだということで残念そうですね。でも将来結婚できるからいいか。
同 門:まあ、ここはフィクション要素だから、見る人それぞれの好みで楽しめばいいんじゃないかな?

見た蔵:センパイ、何か冷たくないですか。
同 門:イヤイヤ……(苦笑)。家康への恋情を断ち切るシーンはよかったよ。北川景子ファンにも楽しんでほしい。それよりも、今回居心地悪いシーンはあった?

見た蔵:今回の設定がフィクションなのは、すぐ分かったから気になりませんでした。ただ、前回のセンパイの話を聞いていたので、ラスト近くの家康の決意表明は、「ちょっと違うんじゃないの~?」って感じました。
同 門:「妻と子を奪い返すために今川を滅ぼします!」というとこだよね。前回『論語』まで持ち出して、治国平天下論を展開したけど、結局、妻と子のためだったか、、、と正直私も思った。

見た蔵:センパイの「読み」大丈夫ですか? 於大の方(松嶋菜々子)も怒ってると思いますよ。
「家康! 私の言ったこと全然聞いてないじゃないの! 自分の妻子を犠牲にしてこその主君でしょ! 武将として小さい!」なんて。
それから、信長も妹の思いに応えようと、家康をひいきにしてたように見えます。だって、結婚を拒んだ家康を「殺してやろうか」とつぶやいて、お市にたしなめられてた(笑)。お市のほうが戦国を生き抜くすべをわかってるみたいです。

同 門:う~ん。確かに信長の姿勢には「揺らぎ」を感じた。あるいは、私が古沢氏の脚本についていけなくなってきたのか……。
ここは、次回を楽しみに待とう。どーもん、スイマセン!
(第5回、大胆レビューにつづく)

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第1回:「どうする家康」が「鎌倉殿の13人」から引き継いだものってなんだ!?
第2回:「どうする家康」が“居心地の悪い”ドラマに感じるのはなんで⁉
第3回:家康を諭した於大の方のメッセージが深い!その真意ってなんだ?