第3回は変身なし!全編「ダメダメの家康」だった?
大河見た蔵(以下、見た蔵):センパイ~!「どうする家康」の第3回見ました!
ボクの予想、意外と当たってましたよね?
同門センパイ(以下、同門):ん、君の予想? ああ、「家康は、信長にボコボコにされて家来になり、『タイガーサイド』全開で、負け戦必至の合戦に駆り出されて大勝利!」っていう? 確かに、刈谷城の2回の戦いで織田軍にボコボコやられて、結局、家康は織田方につくことになった。つまり、ここまではキミの予想は当たってたわけだ。
見た蔵:でしょ、でしょっ! でも、第3回はビックリすることだらけで、ドラマとしては結構「攻めて」ましたよね? ただ、家康は「ラビットサイド」全開で、全編ダメダメの家康というか……。
同 門:桶狭間での今川の敗戦は、家康のキャリアにとって、独立する「ジャンプ台」というのが定説だけど、そんなに簡単なものじゃなかったんだね。今回は、「今川につくか、織田につくか」という葛藤が大きなテーマだった。
見た蔵:ここで登場したのが、生母の於大の方! 演じる松嶋菜々子と松本潤って、これまでに4回も共演してるんですよ。松本潤が注目を集めた「花より男子」(2005・TBS系)では姉と弟。5度目となる今回は、なんと母と子という設定で。
同 門:よく知ってるね~! 今回は、ファン待望の共演シーンだったんだ?
見た蔵:ですです。その於大の方と家康とのやりとりが、本当にすごくて! 「え、そう来るの!?」って感じでした。この2人の再会がドラマの分水嶺のように見えました。
同 門:うん。あの場面が今回のクライマックスだったね。その前にまずは、家康の葛藤をていねいに見ていこう。織田方についた方がいいことは、家康も家臣ももう分かっているんだよ。
見た蔵:織田軍がめちゃめちゃ強いことは、骨身に染みて知ったんですものね。
同 門:もう一度負けたら、岡崎城は後がない状況。そこで、酒井忠次の提案で、武田信玄に助けを求めてみたら、、、「バカ」って一蹴されてしまった(笑)。
見た蔵:主君の今川氏真も約束の援軍をぜんぜん送ってくれないし……。
同 門:今川にとって三河は、織田軍をくいとめる「防波堤」に過ぎないんだね。
今川か、織田か――。家康の葛藤の正体ってなんだ!?
見た蔵:家康としては、人質とはいえ、今川の世話になってきたし、妻の瀬名も今川の重臣の娘だし、気持ちとしては今川の一員なんですよね?
同 門:うん。でもこの段階では駿府にいる妻子も、三河から連れていった家臣も今川にとられた人質なんだ。だから家康は軽々と寝返るようなことはできない。
見た蔵:そうですよね! 「ラビットサイド」の家康は、いくさをサクッと終えて、駿府で妻子とのんびり幸せに暮らしたいとノンキに言ってました(笑)。
同 門:そこに現れたのが伯父の水野信元。早々に今川を見限って織田についた。今川や家康にとっては裏切り者。於大の方もそのあおりを受けて夫と離縁させられたんだ。
見た蔵:なんだか、イヤな奴ですよね。家康も「嫌い」と言ってましたが、ボクも大キライです(笑)。
同 門:寺島進がそのイヤなキャラをうまく演じていたよね。でも「さっさと織田につけ」という信元の主張は時宜を得た正論なんだ。
見た蔵:それがなおさらシャクに触るんですよ(笑)。
同 門:そこに、満を持して於大の方が現れる。主張は信元とまったく同じで、「そなたは信長様には勝てません」と、きっぱり。さすがにこんな母子対決の史実はなかったろうけど……。
見た蔵:びっくりしたのは、その後です。 妻子を案じる家康に対し、「(妻子の命など)つまらぬことです」と、道明寺椿もビックリの一喝!
同 門:明確に意志を示す女性キャラが、また出てきたね! もうこれは、このドラマの特徴と言っていいだろう。今後、こういうキャラがもっと出てくるかもね。
見た蔵:前回のお茶目なキャラから一転。これも「タイガーサイド」ですかね?「いきなりの変身⁉」で、見ててちょっと居心地悪かったな~。
同 門:そう。これがドラマの「肝」なんだ。単にびっくりしてちゃダメだよ。「ラビットサイド」の家康は、瀬名との“青春ラブストーリー”に拘泥していて、ここに松嶋菜々子が出てくると、我々は「利家とまつ~加賀百万石物語」(2002)のときのように「殿、私におまかせくださりませ」と言ってほしくなるんだよ。
見た蔵:「優しい母上」のイメージを期待してたんですがね……。
ところがあの一喝で、そのイメージがガラガラと崩れてしまいました。
同 門:それが、前回も話した「居心地の悪さ」。今までの「刷り込み」が破られてしまったわけ。今作の於大の方は、戦国に生きる厳しくたくましい女性なんだ。そして、この於大の方の考え方は、「ラビットサイド」「タイガーサイド」を超えた「あるもの」が示唆されていると思うんだ。
“於大の方のメッセージ”に秘められたものってなんだ!?
見た蔵:あるもの……? どういうことですか。
同 門:於大の方が示したこの考え方が、「ラビットサイド」「タイガーサイド」の間でウロウロする家康の行動の次の指針となる、新たなファクターだと思う。
見た蔵:そうなんですか。「女子どもは二の次」という、戦国時代の男の理屈じゃないですか?
同 門:あのシーンをよく思い出してごらん。於大の方は、「主君たるものは」と条件を付けていただろう?
見た蔵:はあ、「リーダー論」でしょうか?
同 門:家康のまえには、織田方につく2つのメリットが示された。1つは信元が勧める軍略上のメリット。もう1つは酒井忠次(と石川数正)の、「今川の搾取を脱すれば、領民に腹いっぱい食わせられる」という政策上のメリットだ。
見た蔵:於大の方のメッセージは、その上を行ってるということですか?
同 門:そう。この構図は、実は『論語』にもあるんだよ。『論語』にこういうエピソードがある。弟子が孔子に、「国を治めるのに大事なものは何ですか」と尋ねた。孔子は「『食(食糧)』と『兵(軍備)』と『民信(民の信頼)』だ」と答えた。さらに……
弟子:「その3つすべてが揃えられないときは、先生ならどれを切りますか」
孔子:「『兵』だな」。
弟子:「ならば残りの二つのうち、やむを得ない時は、どうされますか」
孔子:「『食』を切る」。
弟子:「なぜですか、食糧がなければ、民は飢えてしまいます」。
孔子:「食糧があってもなくても、人はいずれ死ぬ。しかし、『民信』を失えば国はまとまりを失ってしまうのだ」
見た蔵:なるほど。主君への信頼があれば、民は飢えてもついてくるということですね。
同 門:これをドラマの登場人物の主張に当てはめてごらん。信元は「兵」だ。酒井・石川は「食」だね。だが、於大の方は、「民信」のことを言っていると思わないか。
見た蔵:自分の妻子を犠牲にしても、民を優先する……。確かに、いくさに巻き込まれたら、民は夫や妻や子どもを失うことになりかねません。主君自ら民と同じく辛酸を舐めるべきということでしょうか。民の信頼を得るために、家康は妻子と今川を切り捨てる決断をした、と。
同 門:最後は、「我が身を切り捨てください」とする忠臣・酒井忠次と石川数正の言葉が決め手となったね。これは前回も出てきた歌舞伎によくある諫死のイメージ。見てる我々に、やや強引なストーリー展開をうまく納得させるための仕掛けでもある。
見た蔵:いろんな観点からドラマを見ると、もっと楽しくなりそうですね!
ところでセンパイ、なんでまた『論語』なんて読んでるんですか?
同 門:昨日、街でばったり高校時代の恩師に会ってね、漢文の先生で、85歳なんだけど、かくしゃくとしていて。せっかくだからと居酒屋で飲んだんだ。そのときに「どうする家康」の話になって。教えてもらったんだ(苦笑)。
見た蔵:そんなことだろうと思いましたよ(笑)。
同 門:どーもん、スイマセン!
さて、ここで恒例(?)のクイズといこう。家康に裏切られた今川氏真は、この後、人質の瀬名をどうするでしょうか?
見た蔵:氏真はキレてますよね! さすがに瀬名は殺さないだろうけど……。ちょっと待って! 氏真は第1回で瀬名を側室にしようとしてましたよね! ということは、「そういうこと」? センパイは知ってるんですか?
同 門:いや知らない。ホント。
見た蔵:ええっーーっ!
(第4回、大胆レビューにつづく)
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