“居心地の悪い”ドラマってなんだ?

大河見た蔵(以下、見た蔵):センパイ! 「どうする家康」第2回を見たんですけど、出てくるキャラをはじめ、「何か違う⁉」と思っちゃって……。ちょっと居心地が悪かったんですよ。 
同門センパイ(以下、同門):「大河あるある」だな。特に長年大河ドラマを見ていると、歴史人物像が見る人ごとに固まっちゃうんだ。「家康はこう」「信長はこう」ってね。それはある種の「刷り込み」なんだが、これを上手に克服しないと、大河は楽しめないよ。

見た蔵:ネットでは、「こんなの家康じゃない!」って怒ってる人もいるみたい。今後の視聴率も心配ですね……。
同 門:視聴率には読み方があるんだ。うわべの数字だけを見るなって、前も言ったよね。「ステラnet」では、メディアアナリストの鈴木祐司さんが正しい視聴率の読み方解き方を教えてくれているぞ。↓
【どうする家康】松本潤×有村架純で初回から新境地 | ステラnet (steranet.jp)

見た蔵:すみません、、、精進いたします!
同 門:ところで、テレビでは「居心地のいいドラマ」ってあるよね。長寿番組の時代劇とか刑事ドラマとか。これらは見る側の「刷り込み」に寄り添って、キャラクターなどの設定を変えずに作るから、安心して見ていられる。まあ、家庭料理の「おふくろの味」みたいなもんだ。

見た蔵:「おふくろ」は家族みんなの好みがわかっているから、食べるこっちも安心。そんなドラマならリラックスして見られますね。
同 門:そんな「おふくろの味」もテレビの大事なコンテンツだから、ダメと言ってるんじゃないよ。私も大好物だし。
しかし、大河ドラマは違う。老舗の手の込んだ「懐石料理」だ……ちょっと褒めすぎかな? 作り手は時代や世相に合わせて、常に新たな歴史人物像を模索して、その結果を視聴者に向けて発信している。これは我々に向けてのメッセージであり、挑戦状でもあるんだ。
ところが、人物像が見る人の「刷り込み」と異なると、裏切られたと思って、感情的な拒否反応を起こす人は少なくない。そんなときは、「なぜこういうキャラにしたのか」を考えてみるといい。その先にこそ、ドラマを見る大きな楽しみがあるんだ。ここでは詳しく挙げないけど、今でこそ「名作」と呼ばれるドラマも、オンエア当時はかなり「居心地の悪い」ドラマだったんだ。


2つの「明智光秀」像ってなんだ!? 

見た蔵:センパイは、いつもこんなふうに大河ドラマを見てるんですか?
同 門:努力はしてる(笑)。ひとつ例を挙げると、私にとっての「明智光秀」像は、「国盗り物語」(1973年)で近藤正臣が演じたキャラなんだ。

見た蔵:ボクの生まれる前です……。
同 門:その光秀は優秀な家臣だったが、主君信長のパワハラにあって心を病み、ついにキレて「本能寺の変」を起こす。今思えば、高度経済成長下の日本のモーレツ社員のなれの果て、もしくは旧日本軍の上下関係のメタファーだったかもしれない。当時、学校もそんな雰囲気だったから、光秀の心情がすっかり腹に落ちたんだ。私は小学生だったけど。

見た蔵:学校、キライだったんですか!?
同 門:体罰が珍しくなかったし、イジメも普通にあった時代。きっと、そんな「刷り込み」があった。でも、「麒麟がくる」(2020)の光秀は、全然違う。

見た蔵:冷静で志操堅固な知識人、ほとんど哲人というか。
同 門:違和感ありまくりで、実は1年間居心地が悪かったんだ(笑)。でも最終回まで見たとき、なるほどと思った。光秀は心を病んで激情におぼれたのではない。「麒麟を呼ぶ=平和な世を作る」ためにあえて信長を倒したんだ。その後秀吉に討たれることを知りながら。
思想に殉じたというか、信条を命がけで実現した人。それを見せるのが作り手の狙いだったんだろう。

見た蔵:だからラストではひとり、馬で1本道を駆けていったわけですね。そういう政治家が今あまりいない気がするし、「光秀のような政治家、出てこい!」のメッセージなのかな。
で、「麒麟がくる」を見てセンパイの光秀像は変わったんですか?
同 門:いや。全然(笑)。でも、感情的にならない大河の見方は会得したと思う。


家康の「ラビットサイド」と「タイガーサイド」ってなんだ!?

見た蔵:で、第2回では家康が優柔不断から強い意志を持った武将に突然変身しましたよね。これが唐突な感じで、ちょっと引っかかるんだよな……。
同 門:確かに、二重人格っぽかった。「ジキルとハイド」というか……。「変身!」だよな。

見た蔵:このドラマには、初代「仮面ライダー」の藤岡弘、や戦隊ものの「海賊戦隊ゴーカイジャー」で俳優デビューした山田裕貴も出演。ふたりとも「変身!」してた(笑)。このドラマって、「変身」に縁があるみたい。
同 門:ここでは信長と家康のセリフにあやかって、家康の二つのキャラを、「ラビット(兎)サイド」と「タイガー(虎)サイド」と呼ぼう。この二つのサイドが団扇の表と裏みたいにさっと入れ替わるみたいだった。

見た蔵:「〇〇サイド」なんて、なんだか映画の『スターウオーズ』シリーズみたいですね。「ダークサイド」と「ライトサイド」……。
ところで、センパイは「家康の悩む姿」がじっくり描かれるのではと予想してましたよね。
同 門:……今回は合戦中だから、じっくり悩む時間もなかったんだろう(苦笑)。でも気をつけてほしいのは、変身のきっかけが、信長にいじめられたトラウマがよみがえる時にしてあったことだ。この先そうなるかはわからないけれど。

見た蔵:信長ひどいですよね。歳も9歳上で、高校生が小学生をいたぶってるみたいでした。
同 門:これまで、少年時代の信長を描くときに欠かせなかったのは、「うつけ者」のキャラ設定だったんだ。

見た蔵:そうですね! ぼろい着物と荒縄の帯、腰にひょうたんぶら下げて……。
同 門:ちょっとユーモラスでもあってね。それが成人後に明らかになる合理的な知性や冷酷さとあいまって、信長の人間像を立体的・魅力的に見せる効果をかもし出していた。しかし、今回はそういうアイテムが排除されている。赤い着物もスタイリッシュだし。このドラマの信長はひたすら粗暴で残酷な「狼」になっている。
ここが今回の「肝」だと思う! 要するに家康の「タイガーサイド」を引き出す、触媒としての信長のキャラ設定なんだ。

見た蔵:そうか! だから信長の粗暴な面が強調されているんですね。信長の「ウルフ(狼)サイド」が家康の「タイガーサイド」を引き出して、最終的に戦国の覇者にした、と。
しかし天下統一のためには、信長系の「タイガーサイド」だけじゃ不足で、一見ダメダメ系の「ラビットサイド」も必要だった、というのがセンパイの見立てですか?
同 門:まあ、先走るのもそれくらいにしておこうね。個人の感想だし(笑)。
見た蔵:しかし狼とか兎とか虎とか、動物が大活躍だ。これから秀吉が出てきたら「猿」だし、明智光秀は「鼠」と呼ばれていたんですよね(笑)。


古典的なシーンと斬新な人物設定の共存がおもしろい⁉

見た蔵:よかったのは、切腹しようとした家康と本多忠勝のシーン。涙が出そうでした。演じた山田裕貴は、このドラマではボクのイチ押し俳優です。
同 門:あれは実は結構古典的な「忠義シーン」なんだよ。歌舞伎なんかにも似たようなエピソードがあったと思う。ちょっとひねってあるけど、家来が命がけで主君を諫めるという構図のバリエーション。
こういうの日本人は結構好きなんだよなぁ。ドラマ作りとしては、斬新なキャラを泳がせておいて、こういった古典的な定番シーンを挟むのが効果的なんだよ。

見た蔵:家康の生母の於大の方が出てきました。寅年生まれの家康をみんなに見せて、「虎の化身!ガオー」だって(笑)。かなりお茶目でタフそうで、「鎌倉殿の13人」でいえば政子や実衣のようなキャラ。あれは見ててちょっと居心地が悪かった……。
同 門:戦国ドラマだと、やっぱり女性は悲劇のヒロインが定番だからね。実際、於大の方も、その生母の華陽院も、戦国に翻弄される女性として描かれてきたんだ。どちらも政略結婚で、さらに政略で離縁。そして、別の大名と結婚させられ、子どもとも引き離される。

見た蔵:で、最後は尼さんになって、平和な世を祈念し続けるという……。
同 門:そういう「刷り込み」があるからね。でも彼女たちの真情は、本当のところどうだったんだろう。意外と、運命を自分自身で切り拓く意気込みで生きていたのかも。
於大の方にはこんな逸話がある。家康を生む前、「自分が産気づいたら近所の寺から普賢菩薩像を盗んで、どこかに隠せ」と侍女に命じたらしい。家康が生まれたとたんに仏像が消える。そうして生まれた子は普賢菩薩の生まれ変わりだと、みんなに信じさせるという狙いだったみたい。

見た蔵:へえ、したたかですね。今回は最後の最後に、於大の方が家康の「卯年生まれ」を「寅年」に改ざんしたという話が出てきて、ずっこけました!
同 門:本当にね! 家康は1542年12月の生まれとされているんだけど、これは「寅年」。でもそれは和暦の話で、西欧で使われていたユリウス暦だと1543年1月。こうなると「卯年」になるんだ。

見た蔵:そういえば、今年は「卯年」ですね。家康生誕480年!
同 門:さてここで、見た蔵君と読者のみなさんに質問です!
「家康と信長は、これからどうなる?」
史実をネットとかで調べちゃダメだよ。次回以降を見る楽しみが半減するからね。

見た蔵:うーん。きっと家康は信長にボコボコにされて、家来になり、「タイガーサイド」全開で、負け戦必至の次の合戦に駆り出されて大勝利!……かな。
センパイは知ってるんですか?
同 門:予想はついている。私は大河初心者じゃないのでね(笑)

見た蔵:なんか、ズルいなぁ。教えてくださいよ~。
同 門:上級者は大河が史実をどう描くか、どう裏切るか、が楽しみなんだよ。
でも、歴史を知らずに見る初心者だったころも楽しかったよ! じゃ、お先に!どーもんスイマセーン!
見た蔵:また、それですか!?

(第3回、大胆レビューにつづく)

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第1回:「どうする家康」が「鎌倉殿の13人」から引き継いだものってなんだ!?