連続テレビ小説「舞いあがれ!」で、ヒロイン・舞(福原遥)の幼なじみ、梅津貴司を演じるのは、“朝ドラ”初出演となる赤楚衛二だ。短歌賞を受賞し、今後の行く末がますます気になる貴司。これまで演じてきての思いや、舞や久留美(山下美月)との絆、そして今後の見どころについて聞いた。
——これまでの貴司の成長をどのように捉えながら演じていますか。
赤楚 貴司、頼もしくなったなぁと思います。特に、第12週での朝陽君(又野暁仁)への寄り添い方はとてもすてきだなと、台本を読んだときから感じていました。舞ちゃん(福原遥)の、人との接し方にも似ていますよね。自分からは歩みに行かず、隣に座って待ち、一緒にいることを大切にする。そして「この人はどういう人なんだろう? 何に興味を持っているんだろう?」と観察し、丁寧に相手への言葉を選んでいる感覚があります。

繊細で、周りに合わせることはもともと上手な貴司ですが、いろんなところに旅をして働き、多くの人とつながりを深めていったことで、より成長したのだと思います。また、短歌を通して、自分としっかり向き合うことで、今自分が歩んでいる道に迷いなく進んでいることを、演じていて強く実感しますね。
そんな中、第16週の放送で、おっちゃん(八木巌/又吉直樹)から、古本屋「デラシネ」のカギを渡されます。個人的には、なんで急にいなくなってしまったんだという思いもありましたが、貴司としては、会えてうれしい気持ちの方が勝っていたように思います。おっちゃんのことを心から尊敬しているんですよね。だから、自然と感謝の気持ちがあふれ出た場面となりました。
——「周りにあわせんでよか」というばんば(祥子/高畑淳子)の言葉が、悩む貴司を救ったシーンもありました。ばんばの言葉で心に響いたものはありますか?
赤楚 ばんばの言葉は、真理をついたセリフが多いですよね。「失敗してもいいんだよ」「自分を認めてあげた方がいいよ」と、不安を取りのぞいてくれる言葉が多いように感じます。そういった当たり前のことも考えられなくなる時期ってありますよね。シンプルな言葉ではありますが、すっと心に入ってくるんですよね。
その後、父(勝/山口智充)と母(雪乃/くわばたりえ)が、貴司のことを理解しようと、歩み寄るシーンが描かれましたが、その両親の姿に感動したと、友達から連絡がきました。僕自身も、家族の絆を強く感じた場面でしたし、懸命に分かり合おうとする2人の姿勢は、本当にすてきだなと感じました。
——赤楚さん自身、心が軽くなる言葉をかけられた経験はありますか?
赤楚 そうですね。僕は、だいたいの悩みは、ある種のあきらめといいますか、自分に過度に期待せず、自分は自分だと思うことで、乗り越えてきましたが、一つ印象に残っている言葉があります。
ある役者さんから「何かを得るときは、何かを捨てないといけないよ」と言われたとき、腑に落ちました。2つの道で悩むとき、どちらかを捨てる覚悟がないのに、一方を選んでも中途半端になり、新しい世界は見られない——。何かを得るときは何かを必ず失うことは、強く実感していますね。
あと、僕のおじさんが、哲学的なことをよく話していたんです。小学校3年生の僕に、「友達ってなんや?」といきなり投げかけてきたことがあって(笑)。「一緒にいて楽しいのが友達」と答えても、「そうか」としか言わなくて。ほかにもいろいろ質問されたんですけど、そのおかげで、自分で考えるくせが身についたように思います。今でも無意識のうちに、「生きるとはどういうことなのか」などを考えることがありますね。
——ヒロイン・舞の成長を、赤楚さんはどのように感じていますか。
赤楚 成長はもちろん感じますが、昔から変わらない、常にまっすぐな舞ちゃんっていう感覚のほうが強いですね。人への寄り添い方や声のかけ方なども全然変わっていませんよね。貴司にとって、舞ちゃんは、小さいころからずっと憧れの存在なんです。その思いは、朝陽くんと真摯に向き合う舞ちゃんの姿などを通して、より一層強くなったように思います。
——福原遥さん、山下美月さんとの撮影時での印象的なエピソードはありますか。

赤楚 最近は仲良くなりすぎて、何を話したか覚えていないくらいです(笑)。それくらい、くだらないことばかり話しています(笑)。たとえば、誰かが「お↑茶↓」と、変なイントネーションを話したら、ずっとそのイントネーションで話すといったような、誰も得しないことをやっていますね(笑)。
あと、スタジオでクリスマス会のシーンがあって、久しぶりに幼なじみがそろったんです。そのときサンタさんの帽子や、謎のメガネをかけながらたくさん写真を撮りました。みんなテンションが高くて、「幼なじみ最高だな」と思いながら、過ごしていました(笑)。
——お芝居するうえで、福原さん、山下さんの変化を感じることはありますか。
赤楚 貴司として撮影現場にいるので、福原さん、山下さんのことは、舞ちゃん、久留美ちゃんとしか思えていないんです。だから、「いいお芝居だな」というより、「舞ちゃん、久留美ちゃんとしてどう考えているんだろう」というふうにしか思えなくて。
お二人とも、ストイックなんです。山下さんは、関西ことばの練習を何度も繰り返したり、福原さんは、役の整理をするため、(演出の方と)話にいったりされていて。“朝ドラ”でご一緒できていること、うれしく思います。
——貴司の短歌について、どのように感じていますか。
赤楚 きれいなことを短歌で表現しているのが、貴司らしさだなと感じています。「トビウオが 飛ぶとき ほかの魚は知る 水の外にも 世界があると」のように、シンプルな言葉で、やさしく色鮮やかに表現をしているのがすてきですよね。
そんな貴司に影響され、僕も短歌を書いたことがいくつかありまして。例えば、お酒の勢いで言ってしまったひと言を思い出して反省するとき、ずっとその言葉を繰り返すことがあるので、それを短歌にしてみたり…。「飲み会の 深夜でタクシー 待ってると 反省の言葉 繰り返す」といった感じです(笑)。
また、110円のペットボトルを200円で買ったら、おつりが全部10円玉で出てきたので、それも短歌にしました。広くお見せできるほどのクオリティーではないので(笑)、ファンクラブのみで発信しています。もう少しクオリティーをあげられたら、SNSでも発信したいですね。
——最後に、視聴者へメッセージをお願いします。
赤楚 短歌で賞を取り、いよいよ歌集を作るというところで、クリエイティブな悩みが生まれていきます。そんな中、大切な人たちとの距離が離れ、自分と向き合う時間が多くなり、さらに新たな人物との出会いもあるなど、いろいろな葛藤も抱えることに。貴司にとって怒とうの展開になると思いますが、見守っていただけたらうれしいです。個人的には、人生で初めてひげを伸ばす役を演じたので、そこにも注目していただけたら(笑)。ぜひ最後まで「舞いあがれ!」を楽しんでいただけたらと思います。
1994年3月1日生まれ、愛知県出身。主な出演作に、「仮面ライダービルド」(テレビ朝日系)、「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(テレビ東京系)、「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」(TBS系)など。連続テレビ小説は今作が初出演。Netflix映画『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』が2023年に配信予定。