大河ドラマ「どうする家康」で、主君・家康を支え、個性派ぞろいの徳川家臣団をまとめる酒井忠次。演じる大森南朋に、役柄の印象や撮影エピソードを聞いた。


――「どうする家康」のオファーが来たときのお気持ちをお聞かせください。
前回出演した大河ドラマが「龍馬伝」(2010年放送)で、時代は幕末でした。ですので、次に呼んでいただけるなら、戦国時代の作品がいいなと思っていたんです。13年ぶりの大河ドラマとなりますが、その思いがかなってうれしかったです。

久々に大河の現場に来ると、衣装さんや結髪さんは13年前と変わらないは顔ぶれで、「これが大河だよなぁ……」と懐かしさがありました。同時に、この撮影が1年半続くと思うと、「やっぱり大河は長いなぁ」と純粋に思ったりもしました(笑)。


――今回演じる酒井忠次について、どのような人物だと捉えていますか。
全体的な立ち位置としては、殿(家康)をお慕いする徳川家臣団の忠臣の一人。年齢は殿よりもだいぶ年上なので、殿の甘さや若さをケアしながら、時に厳しく、時にやさしく進言する男です。今回の物語で描かれる家康は、つい心配になってしまう面が多いのですが、忠次自身は少しずつ殿の心の強さを感じ取っていき、その成長を全力でサポートする。そして、ともに天下を取りに行くんだという強い気持ちを持って、殿を支えていきます。

家臣団の中では、松重豊さん演じる石川数正との対比も丁寧に表現されています。殿との関係においても、数正は割と厳しい教育係であるのに対し、忠次はやさしく殿を見守る役目。ですので、戦国乱世という厳しい時代ですが、忠次の柔らかさや、やさしさみたいな部分と、殿を支える強い気持ちをうまく使い分けながら演じていきたいなと思っています。


――忠次は「海老すくい」という宴会芸が得意だったと伝わりますが、そのシーンを撮影されていかがでしたか。
純粋に楽しかったです。戦のシーンでは鎧を着て、ピリッと緊張感を持ちながらやらせてもらっていますが、「海老すくい」のシーンは割と自由演技でして。場を盛り上げるためにふざけてもいいという空気もあるので、体力的にはちょっときつい部分もありますが、楽しく演じさせてもらっています。

ただ、「海老すくい」についての詳しい史料は残っていないらしく。このドラマのために、ある程度は創作で表現しなければなりませんでした。芸能指導の先生たちが歌や踊りを作ってくださったのですが、実際に踊ってみるとなかなか難しいです。

でも、もし下手でも、「海老すくい」についての明確な正解はないので、それが間違いなのかはバレないはず(笑)。ですから、とにかくのびのびできればいいなと。いずれ織田信長の前でも「海老すくい」を披露するシーンが出てくるそうなので、どこまでふざけていいのか自分でも想像がつきませんが、しっかり演じ切りたいです。


――主人公・家康役を演じる松本潤さんの印象はいかがですか?
今回の出演について、松本さんご本人はすごく悩まれたと聞いていたので、最初に「スタッフのこと、そして僕ら共演者のことを信じていただき、一緒に頑張っていきましょう!」という話をさせていただきました。

実際に撮影が始まって、日々現場で松本さんを見ていると、すごくしっかりしていますし、リーダーシップのある方だなと思います。やはり、嵐のコンサートなどをプロデュースしてきた方だから、共演者やスタッフの動きなど、隅々まで目配せしている印象を受けます。

また、撮影中も、なぜこういうシーンを撮るのかというコンセプトを常に理解しようとしていますし、俳優育ちの僕なんかは「ただ芝居をすればいい」と思っていることが多いんですけど、松本さんは作品に対する明確なビジョンをしっかり持っている方なんだなと感じました。
 

――徳川家臣団を演じる共演者の皆さんについてはいかがでしょう?
すごい俳優さんばかりなので、僕がみんなについていっているという感じです。チームワークもすごくいいですし、日を追うごとに結束力が高まってきています。

台本を読むだけだと、なかなかシーンのイメージが頭に浮かび上がってこないときもあるんですけど、家臣団でリハーサルやテストを重ねていく中で、どんどんみんなでアイデアを出し合ったりして。演出の部分も含めて話ができるので、家臣団の撮影はすごく安心感がありますね。

例えば、松重さんに言われて気づくことがあったり、逆に僕が気づいたことを言ったり、持ちつ持たれつで、みんなでいいものを作ろうという意識が強いので頼もしいかぎりです。

そう思うと、家臣団が一致団結して、殿と天下を取りに行くために突き進んでいく強い意志と、「どうする家康」という1本の作品を作るために俳優たちが集まって、すばらしい作品にしようという思いは似ているのかもしれません。


――古沢良太さんが描く「どうする家康」の魅力を教えてください。
戦国時代とはいえ、コミカルなシーンがたくさん散りばめられています。演じる側としては、どこまでそれを面白くすればいいのかと考えてしまうんですけど、古沢さんが描く世界は、余計なことをせずに大真面目にやり続けたほうが面白いですし、楽しめるんじゃないかなと思っています。

先々まで台本を読み進めていくと、伏線の回収も随所にされています。「あのシーンは、このシーンの振りだったのか」というのを、僕自身も台本を読んで楽しませていただいているので、視聴者の皆さんも、古沢さんならではの手の込んだ伏線をぜひ楽しんでいただけたらと思います。

大森南朋(おおもり・なお)
1972年生まれ、東京出身。1993年に俳優デビュー。NHKでは、大河ドラマ「龍馬伝」、連続テレビ小説「ちむどんどん」、「ハゲタカ」、「書店員ミチルの身の上話」などに出演。