気になる初回「視聴率」ってどうなのよ?

大河見た蔵(以下、見た蔵):センパイ!「どうする家康」の初回放送見ました? よかったですよね?
同門センパイ(以下、同門):うん、見たぞ。面白かった。期待を裏切らなかったな。

見た蔵:でも視聴率は15%台で、去年おととしより悪かったみたいですね……。
年末の「紅白歌合戦」や「鎌倉殿の13人」に松本潤が出演してPRしたのに。
同 門:それはテレビの見方や話題性、影響力が視聴率だけで測られる時代が終わってるからだよ。
「鎌倉殿の13人」だって昔の大河に比べたら数字はかなり低い。けれども世間では結構盛り上がっていたし、SNSでは「鎌倉ロス」なんて言われてるよ。いまや録画は当たり前だし、ネット視聴も広がっている。「その日その時間」に見た人数だけが番組の判断基準じゃないんだよ。これから回を重ねるのを見守ってごらん。

見た蔵:そんなもんですかね……。
では、お言葉にしたがって、これからもドラマに付き合っていきたいと思います。
同 門:「どうする家康」と「鎌倉殿の13人」それぞれの初回には、いくつか共通点を感じたんだ。
1つは主人公の家柄というか、社会的なポジションが低いこと。北条も松平もワンオブゼムだった。義時も家康同様に右往左往してたろう。まるで「どうする義時」だ(笑)。第2に、主人公は二人とも将来が見えない状況に投げ込まれて、不安でしょうがない。そして重要なのは、その不安をさらけ出したドラマになっていたことだ。

見た蔵:「困った!どうしよう……」なんて言ってる大河の主人公、今までいたのかな。確かに、「オレはこれから偉くなるぞ!」ではなかったですね。頼りになる人もまだいないようだし。
同 門:「鎌倉殿の13人」の頼朝も頼りなかったな(笑)。第3、これは画期的と思うけど、女性が積極的で、自分自身で人生を切り拓こうとしている。これまでの「戦国の犠牲者」的な女性の描き方じゃない。「おんな城主 直虎」(2017)は別として。

見た蔵:瀬名の結婚の決断にはびっくりしたっすよ。「ウソだろ!」って。
そういえば「鎌倉殿」の政子も頼朝をガンガン攻めてたような(笑)。
同 門:これらが、世相をとらえた「大河」の最新トレンドなんだ。三谷幸喜と古沢良太、ぜんぜん違うタイプの脚本家だけど、現代を見る目には共通点があるようだね。さっきの3点を言い換えれば、日本の国際的地位低下、将来の不透明感、そして女性への期待感。これらは、ホントに「現代」的だよ。三谷・古沢両氏は共通の認識を踏まえて歴史を描いていると思う。
ついでにいうと、三谷「義時」はこの3つの課題を武力と陰謀で乗り切るしかなかった。

見た蔵:だから結局、「悪者」で終わったんですね。
同 門:うん。古沢「家康」は同じ課題を「どうする」か、ここが楽しみなんだ。


今回のタイトルの「含み」ってなんだ?

同 門:「どうする家康」というタイトルにはもう1つ「含み」があるんだよ。
見た蔵:これも今風ってことすか?
確かに今、世界でも日本でも、政治的リーダーに対して、我々が「どうする!?」って詰め寄りたくなる課題でいっぱいです。温暖化とかコロナとかウクライナとか少子化とか、政治家の〇〇疑惑とか。「どうする円安」もあるし。サッカーW杯の「どうする森保」はよかったけど…。

同 門:……それくらいにしときなさい(笑)。僕が言いたいのは、こういうこと。タイトルの「どうする」は、まずはドラマの登場人物の味方も敵も、家康に問いかける言葉だ。
見た蔵:ラストシーンでは家臣全員から言われてた(笑)。側近の石川数正も初めからうるさかったすね。「どうするんですか、殿!?」みたいに。

同 門:それに対して家康が行動や言葉で応えていく。これはドラマの中での話だ。もう1つは、見ている我々がテレビに向かって家康に問いかける言葉でもあるんだ。こちらはドラマの進行が応えてくれる。いわば、このタイトルはテレビの中と外での二重のインタラクティブなやりとりを示唆しているんだよ。
見た蔵:なるほど!
そういうタイトルって今までなかった気がしますね。家臣も家康見てイライラしてたけど、テレビ見てるこっちもハラハラさせられましたからね。とはいっても、家康って結局天下を取るわけでしょ。「どうする」って聞かれても、結果は同じなのでは?

同 門:それは、史実をもとにしたドラマはみんな同じでしょ(笑)。
ただし、家康が征夷大将軍になるのは60歳過ぎ。今の感覚でいえば80歳くらいだよ。他の大河の主人公よりえらく時間がかかってる。いろいろ大変だったと思うよ、間違った決断もそれなりにあっただろう。だから、大事なのは、決断そのものではなくて、そこへ至る家康の心の揺れ、プロセスなんだ。今回のドラマにはそこが丁寧に描かれるんじゃないかな。


見た蔵:確かに第1回では、ダメな家康と果敢な家康の両方が出てきましたね。「どうする」「どうする」って責められて、すごい葛藤。合戦前の城から逃げ出したもんね! 瀬名からも「殿は弱虫ですから」なんて言われるし(笑)。
それもあるけど、信長・秀吉に比べると、家康ってキャラはやっぱりなんか「弱い」ですよね。その将来はみんな知ってるし、偉いのはわかるけど、人気がないというか。なぜなんでしょうかね?

同 門:家康には信長の疾走感や秀吉のギラギラ感がないからだよ。例えば信長に「どうする」って聞いてごらん。聞いた時には、すでに彼は1人で飛び出した後だろう(笑)。秀吉は出自が出自だけに、社会的ポジションを上げるのが重要事項だから、「どうする」って聞いても答えは見えてる。家康は弱小とはいえ、そもそも松平家の当主で、背負っているものが小さくない。幼少期から今川家の人質だったけど、今川義元から「元」の字をもらって「元信」や「元康」だったから、今川家サイドからもそうとう将来を見込まれていた。

見た蔵:ある意味、今川家も背負っていたんだ……。複雑ですねえ。
同 門:そう。だからあちこちに義理がある。信長や秀吉に比べて悩みどころは多いし、独断専行は難しいというか。そんな人物だったから、ドラマとしてはヤマ場が作りづらい。大河で主役になることが少なかったのは、そこがネックだったんだろう。

見た蔵:「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」(家康の遺訓)ですか……。ゲームの「信長の野望」は面白いけど、家康の出世ゲームがあったら時間かかりすぎて途中で飽きそう(笑)。
同 門:だから「どうする…」なんだよ。彼の生涯の1つ1つの決断のポイントにスポットを当てて、ミクロのレベルからドラマ性をあぶり出していく。これが今回の制作側の狙いであり、チャレンジじゃないのかな。あくまで私の個人的感想だけど。


「森の中のひな遊び」が意図するものって?

見た蔵:瀬名との「森の中のひな遊び」のファンタジーが前半に描かれて、あれには驚きましたね。
同 門:あれは結構大事な伏線というか、このドラマ全体を通して、家康の中での「目指すべき原風景」になるのでは。これも私の見立てだが。

見た蔵:有村架純と2人なら、他に何もいらないかも(笑)。
同 門:これから描かれる家康の決断のベースには、「利己」ではなくて、自分にとって大切な人々との「和」を作り、守ることが最重要テーマとして出てくるんじゃないかな。家族や家臣、同盟を結んだ他の大名とかとの信義とかね。だいたい、生涯勉学にいそしんで、優秀なブレーンをそばに置いていて、政治手法は独裁的ではなかったみたいだし。常に仲間との「和」を尊重していたと思うんだ。「鎌倉殿」の義時とはここが違うね。

見た蔵:なるほど。それを示す史実とかあるんですか?
同 門:うん。家康が豊臣の家臣だったときに、秀吉から江戸を含む関東への転封を命じられたんだ。所領の大きさでは家臣のトップクラスになったんだけど、当時の江戸周辺は一面の湿地帯で、ひどい土地だったわけ。いやがらせか、左遷みたいな人事だったんだ。

見た蔵:秀吉、ひどいですね!
同 門:しかし家康は文句ひとつ言わず、大干拓工事を始めた。
最終的には湿地帯という土地柄をうまく活用して、物流にメリットがある水路を巡らせた江戸の町を作り上げたわけ。それが世界有数の大都市に育ったんだ。
でもね、その大工事を行うには、当然家康の家来や手勢だけでは不可能で、地元の領民や武士団の積極的な協力がなければ無理。しかし地元民からみれば、家康一党はいわば人事異動でやってきたよそ者だよ。そいつらが大工事に協力しろなんて言うのは、無茶振りだろ。でもその困難を説得してはねのけ、協力してもらったんだ。これは家康の人柄、さっきの「和」の心が地元民の心を打って、心服させたんだね。

見た蔵:すごいですね、センパイの分析!
同 門:タネ明かしをすると、これは某歴史作家の先生の説だが……(苦笑)。

見た蔵:引用だったんですね(笑)。
同 門:どーもんスイマセン!(笑)。
で、その「和」が少しずつ大きな「輪」に育っていって、最後には天下を覆った。それが260年間戦のない日本を作ったんだと思う。そのべースが、あの瀬名とのワンシーン。瀬名も「(武士なんかやめて)夫婦二人で小さな畑を耕して暮らしたい」と言っていた。まずは二人の「和」の世界。ああいう世界に生きたかった、そういう「和」の世界を作りたかった……。

見た蔵:それで「どうする家康」のタイトル文字は「輪」の形にデザインされているんすか?
同 門:いやいや、あれは葵の御紋(三つ葉葵)へのオマージュだろう?(笑)
見た蔵:ええっ!?

(第2回、大胆レビューにつづく)