大河ドラマ「どうする家康」
第1回「桶狭間でどうする」(初回15分拡大)
1/8(日) 総合 午後8:00~9:00
BSプレミアム・BS4K 午後6:00~7:00
【作】古沢良太 【音楽】稲本響

いよいよ1月8日にスタートする大河ドラマ「どうする家康」。
これから1年、波乱に満ちた人生を歩んだ徳川家康を主人公に、どのような物語が展開されていくのか――。本作の脚本を執筆する古沢良太に、家康への思いや注目ポイントを聞いた。


――大河ドラマの脚本を執筆する醍醐味をどのように実感していますか。
正直、今は「長丁場だなあ」という実感がいちばんですね。家康の物語を書くうえで、取り上げなければならない事象がたくさんあって。多くのキャラクターが出てきて、どの部分を厚めに書くとか、どこをコンパクトに書くとか、この事件はもっと後に描いたほうがいいなとか、全体的な物語の構成は書く前から考えていたんですけど、細かい部分を書き進めていくと、その通りに行かないことのほうが多いですね。

だから今は、常に物語の流れを考えているといいますか。でもそれこそ、長い期間をかけて、たくさんの話数を描いていく大河ドラマならではのことですから、ふつうのドラマではできない醍醐味だと思っています。
 

――過去の大河ドラマで印象に残っている作品は何でしょうか?
いちばん一生懸命見ていたのは「独眼竜政宗」(1987年)ですね。そのころ僕は中学生だったと思いますが、華やかな作品という印象が強いです。主演の渡辺謙さんは、とにかくかっこよかったですし、いかりや長介さんや西郷輝彦さんも僕の中では印象に残っています。個性豊かな俳優の方たちとともに、きらびやかな衣装や甲冑など、それまでの時代劇とひと味違う華やかさやパワーがあったように記憶しています。「どうする家康」も、あの頃の僕がワクワクするような物語にしようということを念頭に置いて、日々書いています。


――徳川家康を物語の主人公にした理由を教えてください。
徳川家康という人物の人生が、めちゃくちゃ面白いということに尽きますね。波乱万丈で、次から次に襲い来るピンチを七転八倒しながら切り抜けていった。そのピンチの連続を、彼自身の運もあったでしょうけど、腹のくくり方や頭の良さ、そして周囲の助けで、なんとか生き延びることができたという。

でも、家康のことをそんなふうに思っている人は、意外と少ないんじゃないかなと。(こう)(かつ)で我慢強く、先を行く人についていって、最終的におこぼれをもらうように天下を手に入れたと思っている人のほうが多いのではないでしょうか。

でもそうじゃなくて、必死にもがき苦しみながらサバイバルしていった人物だということを伝えたいですし、彼をドラマの主人公として描けばとても面白い作品になるのではないかと思いました。そして、僕自身も家康の人生がいちばん面白いと思っているので、「みんなに好きになってもらえる家康を書きたい」という思いが強かったですね。
 

――その家康を松本潤さんに演じてほしいと思った理由は?
今回の家康の人物像として、“ナイーブで頼りないプリンス”というところから始めたいと考えたときに、松本潤さんがぴったりなんじゃないかと思えて。キャスティングって、脚本上の人物と、演じる俳優さんの個性がミックスしたときに、どういうスパークが起こるかが大事だと思うんです。

家康と松本さんが融合したとき、いちばんスパークが起こりそうな気がしてならなかったので、制作スタッフの皆さんとの総意で松本さんに家康役をお願いしました。

――物語前半の家康を書くうえで意識した点はどんなところでしょうか。
いかに情けない家康にするかが勝負だと思っていました。ふつうに書くとどうしても立派に見えてしまうので、頑張って情けなくしないといけないなと。そして、それがみんなから愛されるキャラクターになるように。

僕らと同じふつうの人間が、たまたま戦国の世、三河国の城主のもとに生まれついてしまったがゆえに、とんでもない波乱の道を歩むことになってしまった。責任を負わされ、歩みたくない道を歩まざるを得なくなった家康の生きざまを、現代の私たちの物語として楽しんでもらえるように意識して書いています。

そんな情けない家康ですが、頑固な一面もありつつ、よく人の話を聞いていた人物だったと思います。さらには、リーダーとして優れた部分もあったはず。戦国時代の物語となると、誰が天下を取るかというロマンをもって描くことが多いけれど、実際には殺し合いの時代だったと思います。

現代でも、いまだ戦争は起きていて苦しんでいる人がたくさんいる中で、戦国時代を舞台に男のロマンを書いていいのかという違和感もありました。その意味では、戦うことが大嫌いで、なんとかして戦のない世にしたかった家康がそれを成し遂げていく物語こそが、現代にも通ずるリーダー像になりうるんじゃないかと思ったんです。


――松本さんの演技をご覧になった感想はいかがですか。
とても誠実なお芝居をされる方だなと感じました。そこまで長い時間、見たわけではいないので、深いことは言えませんが、俳優としての欲やエゴみたいなものは感じなくて。

誰しも俳優として評価されたいという気持ちはあると思うんですけど、それよりも、この作品において自分がやらなければならないことや、求められていることを俯瞰でしっかりと把握して、それを一生懸命実現しようとしているという印象を強く感じました。


――「どうする家康」全体を通して、見どころを教えてください。
登場人物は実在した人物なので、一般的なイメージというのがすでにあると思うんですけど、一度それを全部外して、先入観にとらわれずに人物を作っていこうと思いました。今回は、家康を中心にすべての物語が進んでいくので、家康から見たらそれぞれの人物がどのように見えていただろうと想像しながら書いています。

そのうえで、作品の見どころとしては、家康が次から次へと現れる強敵やピンチをどう切り抜けていくのかという、戦国のサバイバルの部分がベースにありつつ、ともに乗り越えていく家臣団との絆に注目してほしいですね。

一応、主従関係ではあるけれど、いわば仲間というか。学校を舞台に、同級生や怖い先輩、言うことを聞かない後輩が出てくる楽しい青春ドラマのような感じに描きたいなと思っていました。その中で仲間を裏切る奴がいるなど、ほろ苦い部分も含んだ青春ドラマとして見ていただいて、「こういう仲間、こういうチームっていいよな」と思ってほしいですね。

もちろん家族も見どころです。家康の妻、子、母、親戚といった家族たちの物語として、ホームドラマの要素もたくさん詰まっているので、小さな子ども、老若男女、歴史好きな人たちもみんなが楽しめるエンターテインメントになっていると思います。
 

――今回、三英傑(信長、秀吉、家康)の関係は、どのように描かれますか?
信長は、家康にとってはとにかく恐怖の存在。もちろん憧れもあるけれど、憎しみと恐怖を同時に抱いているので、信長と家康は今まで見たことのないようなやり取りや関係性を表現したいなと思っています。

秀吉は、相手との距離感がゼロの男。誰の懐にもズケズケと土足で踏み込んでいくから、家康自身は「あいつのことは嫌いだ」と思っている。そののち、純粋に嫌いだけだった秀吉が、少しずつ家康にとって恐怖の存在に変わっていくさまを描いていきたいです。

信長(岡田准一)と秀吉(ムロツヨシ)との出会いが、家康の運命を大きく変えることに……。


――家康の愛すべき正室・瀬名。この夫婦の関係を描くうえで意識した点は?
物語前半においては、瀬名はもう一人の主人公だと思って書いています。どうしても戦国時代が舞台ですと、男臭いドラマになってしまうので、できるだけ女性の物語も入れていきたいなと思っていました。

家康が残した功績は、すべて彼が決断してやってきたというように伝えられているけれど、その裏には、正室の瀬名さんがこういうことを言ったんじゃないかとか、母・於大の方にこんなことを言われたんじゃないかとか、女性の支えがあったはずです。

そういう女性たちの活躍を物語に書き込んでいくと、非常に芳醇なドラマになるというか。説明がうまくつかないところで、女性が出てくるとスムーズに物語が展開できることもあるので、いかに女性を上手に魅力的に描くかも大事だなと感じています。

その中で、瀬名に関して言えば、歴史的に伝わっている彼女の結末をどうすればいちばんドラマチックに伝えることができるかを考えています。結末から逆算すると、悪女で仲の悪い奥さんに訪れる結末よりも、とにかくすてきで大好きな奥さんがあのような結末になってしまうほうが、ドラマとしては絶対に面白いので、そうなるように頑張って書いているところです。

家康を支える正室・瀬名(有村架純)と母・於大の方(松嶋菜々子)。


――「どうする家康」を楽しみにされている方にメッセージをお願いします!
家康くらいメジャーだと、脚本を書く中で「今までこう言われてきたけど、実はこうかもしれないね」という冒険が結構できます。歴史好きの方の中には「また家康かよ」と思っている人もいるかもしれないけど、「『どうする家康』では、こういう解釈でやりますよ」というのも随所に散りばめています。

ですから、歴史好きの方であれば真剣に見られるし、歴史に詳しくない方も抵抗なく楽しめると思います。大河ドラマというものを一歩先に進められるような作品にしたいという思いで書いていますので、まっさらな気持ちで楽しんでいただけたらうれしいです。

古沢 良太(こさわ・りょうた)
1973年生まれ、神奈川県出身。2002年に脚本家デビュー。ドラマ「リーガル・ハイ」シリーズ、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ、『コンフィデンスマンJP』シリーズなど、数々の話題作の脚本を手がける。NHKでは、「外事警察」の脚本を執筆。