年が明けるといよいよ2023年の大河ドラマ「どうする家康」がスタートします。徳川家康といえば、江戸幕府の初代将軍。大河ドラマでもしばしば登場する常連の人物です。しかし家康自身が主役となるのは、意外にも「徳川家康」(1983年)、「葵 徳川三代」(2000年)以来、23年ぶり3度目の登板だそうです。家康一人が主役を務めるのは、なんと40年ぶりとのこと。

私にとって最初に出会った家康は、子どもの頃に読んだ山岡(やまおか)(そう)(はち)氏『徳川家康』(講談社文庫)に登場する家康です。大河ドラマ「徳川家康」の原作でもあります。幼少時代から幾多の試練に耐え、倹約家で実直、どっしりとした、まさに「重き荷を負うて遠い道を」行く家康でした。

最近の大河ドラマでは、「りんがくる」(2020年)の風間俊介さんが、鋭く賢明な子ども時代から、鬱屈(うっくつ)を抱えて成長したくせのある家康を演じておられました。2016年の「真田丸」で内野聖陽さんが演じたのは、慎重でちょっと小心、ユーモラスな面もある家康。いずれも趣は異なりますが、強く印象に残る人物像でした。

松本潤さんの家康はどんな家康でしょうか。今年のドラマでも、さまざまな人、さまざまな文化と出会い、「どうする」と悩み、成長していく様子が描かれることでしょう。

ところで2022年の大河ドラマは「鎌倉殿の13人」でした。小栗旬さんの北条義時をはじめとする鎌倉の将軍たち・御家人たちが、時代の中で奮闘する様子はご記憶に新しいところでしょう。こうした義時たちの営み、鎌倉幕府の歴史を知ることができる歴史書に『吾妻(あずま)(かがみ)』があります。

これは鎌倉時代14世紀初頭に、鎌倉幕府の関係者たちによってへんさんされました。86年の歴史が全52巻に記された大部の書です。畠山重忠(しげただ)の悲劇、和田合戦、承久の乱、ドラマで描かれたエピソードにも、『吾妻鏡』から取材したものがたくさんありました。

この『吾妻鏡』が現在まで広く知られている背景には、実は家康が大きな役割を果たしたことをご存じでしょうか。

『吾妻鏡』は編纂された後、手で書き写される形で広がっていきます。戦国時代には注目されるようになりますが、大部の歴史書を手で写すわけですから、あまり多くの人が知っていたり、読むことはできるものではありませんでした。そうした写本の一つ、国立公文書館に“北条本”と呼ばれる『吾妻鏡』があります。

この“北条本”は、実は家康の蔵書でした。家康は慶長10(1605)年に、“北条本”をもととして『東鑑』(吾妻鏡)を版行させます。活字で刊行されたことによって、江戸時代には『吾妻鏡』のさまざまな逸話が広く知られることになりました。多くの絵師たちが浮世絵の題材ともしています。

さらに現在、『吾妻鏡』を原文で読みたいと思いますと、新訂増補国史大系(吉川弘文館)というシリーズに入っている『吾妻鏡』を手に取ることが多いでしょう。この国史大系『吾妻鏡』も北条本を主なベースとしています。

私たちが「鎌倉殿の13人」の事績を知ることができるのも、家康のおかげと言えるかもしれません。

家康は『吾妻鏡』だけでなく多くの書物を収集し、学んでいました。家康は義時たちの決断をはじめ、過去の歴史を踏まえて、どうするべきか考えていたようです。こうした学問・文化に対する深い関心は、子ども時代を過ごした駿府今川家の許で育まれた面も大きいでしょう。

家康がどのように人生の選択をしていくのか。ドラマの開始が楽しみです。

愛知県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。現在、東京大学史料編纂所准教授。朝廷制度を中心とした中世日本史の研究を専門としている。著書・論文に『中世朝廷の官司制度』、『史料纂集 兼見卿記』(共編)、「徳川家康前半生の叙位任官」、「 天正十六年『聚楽行幸記』の成立について 」、「 豊臣秀次事件と金銭問題 」などがある。