〇ゲスト:LiLiCo、河合郁人(A.B.C-Z)、なかねかな
○ナレーター:水瀬いのり
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メンズファッションを着こなし、画家として創作活動を行っている西出弥加さん。お相手は、7歳年下の光さん。それぞれ違う特性の発達障害があることから、2人が選んだのは別居婚だった。いったい2人は、どうしてカップルに?
こちらは2人の「なれそめ」を語るのに欠かせない、「なれそメモ」!

▶出会い>>私に似てる/穴に下りてきてくれた
弥加さんと光さんが出会うきっかけになったのは、SNSでの交流だった。大学を卒業して社会人になりたての光さんは、仕事でミスを続けてしまい、休職になってしまう。その悩みを相談したくてTwitterを始め、そのとき「フォロー」をしてくれたのが弥加さんだった。

弥加「何か大変そうな人がいるな、と思って見てしまって。私の20代にそっくりで、懐かしいというか悲しいというか、いろんな気持ちで……。私と同じように過ごしたら、この人の20代はむだに終わってしまう、と思ったんです。それがきっかけでDM(ダイレクトメッセージ)も送って。とんとん拍子に(話が進んで)、1週間後に会うことになりました」
田村「そのときの、やり取りの内容が」
河合「気になりますよね」
光「『今のつらい日々が少しでも穏やかになりますように』という、何かをしてあげるとか、アドバイスするとかではなくて、ただ見守って平穏を祈るというものでした。そういう言葉をたくさんくれた1週間だったのかな、と思っています」
河合「今までには出会ったことのない言葉のかけ方をしてくれたんだ」
光「はい、その通りです」
田村「この『穴に下りてきてくれた』というのは、何穴ですか?」

なかね「穴出会い? 気になりますね」
光「心の穴、テンションの穴です」
河合「ああ」
光「孤独感や絶望感がすごく強くて、自分ひとりだけ穴に落ちてしまったような感覚に陥っていました。下りてきてくれた人は今までひとりもいなかったのですが、弥加さんだけは底に下りてきてくれて」
田村「そういう意味なんだ」
光「一緒に上がろうと手をつないでくれて、『行くよ』ってしてくれたのが、すごく支えに、救いになったのかな、と」
LiLiCo「すごい」
田村「弥加さんも同じ思いをしていたから、そういう感覚がわかった?」
弥加「昔から自分が、この“渓谷の底”にいる感じで。地上にいる人たちは下りてきてくれなくて寂しいなぁ、とずっと思いながら20代を過ごしてきて。『じゃあ、今度は自分が行けばいいじゃん』と思ったんです」

なかね「穴出会いとか、軽い感じて言ってしまって、ちょっと申し訳ない」
LiLiCo「とってもいい話でしたね」
▶接近>>友達ってより 妹だな/サヤカさんは お兄さん
田村「光さん、(弥加さんは)お兄さんみたいだった?」
光「かっこよかったので。お兄さんとして見ていました」
田村「そこから結構な頻度で会うようになったんですか?」
光「きっかけになったのが、弥加さん以外にも悩みを相談していた人がいて、その人が男性だったんですけど、一緒にお酒を飲んだときに体を触られてしまって」
LiLiCo「ええっ?」
光「それをされたのがすごくショックで、嫌になって、お酒と薬をたくさん飲んでしまったんです」
田村「うん」
光「ふらふらになりながら弥加さんに連絡をして、会いに行った直後に駅で倒れてしまって。そのことはあまり覚えてないんですけれど、弥加さんが『こんなことしちゃダメだ』と叱ってくれたことだけは覚えていて。ものすごくうれしかったです。本当に僕のことを思ってくれて」
田村「そうね、心配して」
光「すごく“お兄さん”を感じて、安心した瞬間でした」

田村「弥加さんには、どう映っていたんですか?」
弥加「『昔の自分だ』って思いました」
河合「重なったんだ」
弥加「そういうときに、どこか、ひとつでもいいから安全地帯があれば、もう少しちゃんと生きられたかもという気持ちがあって、『とりあえず、家に泊めさせるか』と思いながら迎えに行きました」
その1か月後、弥加さんと光さんは同居生活を始めることになる。それは双方に恋心が芽生えたわけではなく、『兄弟として同居』というニュアンスのものだった。
田村「恋愛感情はなくて、家族ができた、みたいな感じなんですか?」
弥加「これはどっちもあって、その瞬間は恋愛感情があったけれど、いちばんは『この人を同居させないと、やばい』と思ったんです。ほかに何も考えられなかった、っていうことなのかもしれない」
田村「好意そのものはあったということ?」
弥加「一瞬、私だけ。こっち(光さん)には、あんまりなかったけれど(笑)」
光「恋愛というものが怖いと思っていた時期もありまして、好きだから何かをするとか、体とかもそうですし、そういうものがない、ずっと思い合える関係がいいなぁ、と思っていたので、そうした意味で恋愛感情っていうのはあんまりなかったです」
田村「でも、弥加さんには最初はあったわけじゃないですか、恋愛感情が」
弥加「ありました。一瞬だけ。初めて、こんな女の子っぽい子が頼ってくれたと思って、かなり有頂天になっていました」
田村「そんな弥加さんから恋愛感情が消えたのは、自分の中でどういう折り合いをつけたんですか?」
弥加「あまりに部屋を汚すので、恋愛感情が吹っ飛んだんです(笑)」
河合「そんなに?」
弥加「娘のような息子のような妹のような、なんか“ちゃんとしてあげなきゃ”みたいな愛に、オセロみたいに変わったんだと思います。無意識のうちに」

その後、2人はお互いに、それぞれ違うタイプの発達障害があることがわかる。部屋の片付けが大の苦手な光さんは、ADHD(注意欠如・多動症)。一方、細かい汚れがとても気になり、朝晩の掃除を欠かさない弥加さんは、ASD(自閉スペクトラム症)だった。
光「僕はADHDで、全ての人がそうとは限らないのですが、僕の場合は、家事ができない。掃除もできないし、いろいろ忘れ物とかもしてしまう。日々の日常生活を、極めて苦手としています」

弥加「私はASDなんですけれど、自分の場合は、しゃべれない、表情が作れない、暗い(と思われる)。ただ、こだわりは強い、みたいな。(光さんは)たぶん(発達障害だけでなく)HSPも入っていて」

田村「俺、HSPですよ。Highly Sensitive Person(とても敏感な人)って、自分が気になることだけ、すごく気になる。これは病気じゃなくて“気質”なんだけど、例えば、物の置き方が気になり始めたら、ずっとそこだけ見ちゃう」

弥加「おそらく、私もそうで。この(スタジオのテーブルの)色がすごく気になってしまったり」
田村「トイレとかの鍵がネジ2つで止められていたら、それが顔に見えてきたりとかするんですよ。わかる?」
弥加「めちゃめちゃわかります」
田村「そんなの気にしなきゃいいって言われるんだけど、気になっちゃうんだよなぁ。ここで理解してもらえる人に(出会えるとは思ってなかった)」
▶結婚>>扶養義務を持ちたくて/すごい!ライオンだ
田村「そして『結婚』ですよ」
LiLiCo「きた!」
田村「恋愛感情はないというのに、結婚という形を取ったのは、この『扶養義務』がほしいと思うようになったんですか?」
弥加「とにかく扶養しないと(光さんが)死んでしまうと思ったんです」
河合「もし、一緒にいたほうがいいと思われていなかったら……」
光「とてもよくない状態に。会う直前、とても命が危ない、どんどん重くなってた状態なので、もしかしたら生きてなかったかもしれないと、今思っています」
田村「それぐらい緊迫した状況に、弥加さんだから気づいて、自分の家を避難場所にするという感覚になったわけだ」
弥加「いったん恋人ができるまで、家族になることを安全地帯にして、そこから旅立てばいいという考えに至って、それで婚姻届を書きました」
LiLiCo「ということは、例えば『もういいや』って言われたら、『どうぞ巣立ってください』みたいなこともありえるんですか?」
弥加「それでいいと、今でも思っていて。うれしいかな、(光さんが)幸せなら」
なかね「ちょっと親心みたいなものがあるんですかね」

田村「『妹だな』って思っていたから、お兄ちゃんとして守んなきゃって」
河合「だんだん『ライオンだ』に近づいてきた気がしますね。守っている感じというか」
なかね「あ、そういうことかぁ」
田村「そういう意味ですか? 『すごい!ライオンだ』って」
光「はい、おっしゃる通りです。弥加さんが僕に渡してくれた絵がありまして、ライオンが結婚指輪を男の子に渡している絵だったんですよ」

LiLiCo「なんてすてきな絵! これがプロポーズ?」
光「はい」
LiLiCo「(私も)こういうのがよかった!」
全員 (笑)
田村「これ、どこでもらったんですか?」
光「あるテーマパークのパレード中に。これは絵本というか冊子になっていて、最後のページにライオンが描かれていたんです。サプライズでプロポーズをしてくれました」
LiLiCo「みんなパレードを見てるのに、そこだけ2人の世界があって。最高じゃない」
田村「光さん、これをもらったときに、どういう気持ちになりました?」
光「泣きました。そういうことで泣いたりはあまりしなかったんですけど、うれし涙があふれて、『人間になれた』みたいな、心が持てた瞬間でした」
田村「俺、こんなに優しいライオンの目を知らないよ。弥加さん、これは自分自身をライオンとして表現したんですか? それとも『ライオンのようになるからね』っていう意味なんですか?」
弥加「『ライオンのようになる』かも。なので、男女ではないし、いい意味で対等ではなかったのかもしれません」
光「いちばんうれしかったのは、男女の恋愛じゃなくて、弥加さんが『ライオンとして君を守るよ』っていう安心感を与えてくれたこと。好きだ、愛している、というのもすてきだけれど、ライオンが変わらない愛をくれている、みたいな。男女、夫婦というよりも、一個人として見てもらえていることが、今も心の糧になっています」

LiLiCo「宝物ですね、これは」
▶現在>>本当に欲しいモノをくれる/恩返しがしたくて
発達障害の特性の違いから、結婚半年で別居婚を始めた2人。今は、週に1回、およそ3時間のデートを楽しんでいる。物を整理するのが苦手な光さんが、取材時に見せてくれたのは、出会ってから3年の間に弥加さんが光さんに当てた手紙やメモ書き。それを光さんが大切に保管していたことを、弥加さんは初めて知った。
光「僕は新卒で入社した会社の内定証をなくしたり、たいていの物はなくしている中で、唯一まとまっているのは、それだけなので。弥加さんへの気持ちが、何か、奇跡だなと」
田村「弥加さんは、それを取材のときに知ったんですね」
弥加「びっくりしました。かなり、うれしかったです。(光さんが)何でも置きっぱなしにするので」
河合「そうですよね。恋愛感情がなくなるくらいだったんですものね(笑)」
弥加「日々、なくなりましたね(笑)」
田村「この『本当に欲しいモノをくれる』は、どういうことでしょう?」
光「僕は過去に起きたことを、たいてい忘れてしまうんですけれど、弥加さんが、ふと『おもちゃの指輪、ほしいな』と言っていたことが何となく記憶に残っていて」
田村「うん」
光「かわいいおもちゃの指輪を見かけたので、サイズも確認しないで買って、プレゼントしました」
田村「弥加さん、これ覚えてました?」
弥加「覚えてました。『高価な指輪じゃなくていいから、おもちゃの指輪でいいから、心がほしいな』みたいなことを、ぼそっと言って……」
光「それまでずっと迷惑ばかりかけていたので、何か恩返しをしたいな、と」
弥加「高価なものを贈られて見返りを求められる、みたいなのがすごく苦手で、私が『ほしい』と言ったものをくれる、そういうことをしてくれた人は、本当に数少なかったと思います」
田村「そうか、『本当に欲しいモノをくれる』存在が光さんなんだ」
弥加「そうです。今は結果的に私を守ってくれているような」
光 (ガッツポーズ)

なかね「よっしゃー(笑)」
田村「今、2人は別居をしているし、このペースで会うことがベストというのは、何か話し合うんですか?」
光「僕としては、一緒にいて迷惑をかけないように努力するよりも、一緒にいないようにしたほうが楽なので」
田村「じゃあ本当は、光さんの思いとしては、一緒にいたいという思いもある?」
光「そうですね。本当は、“普通”というところで言うなら、毎日帰ってきて、一緒に料理をして、掃除もして、そういうお互いの時間も過ごせればきっといいのかな、と思うのですが、それができないことに結婚してすぐに気づいてしまった。その“普通”を諦めて、お互いが幸せになる形だけを追いかけようとしているので、毎日、基本、別行動です」
田村「大好きな人に迷惑をかけたくない、ということか。ちょっと、深いね」
河合「深いですね」
弥加「一緒にいたいなとは思うんですけど、いられるとしたら相当広い家じゃないとダメかも。2バスルームのある、ニュージャージーのボロボロの空き家、みたいなの(笑)」
田村「ニュージャージー(笑)」
河合「でも、別居が苦痛というわけでもないんですよね?」
光「はい。僕のいちばんの幸せは、弥加さんが幸せなことで」

河合「うわぁ」
光「なので、苦痛では全くないです」
田村「あの“穴”にやってきてくれた人だから、そういう思いになるんだね」
なかね「間違いない」
LiLiCo「自分の中の“穴”を全部埋めてくれる、本当に運命の人に出会ったんでしょうね」
田村「いやぁ、すごいわ」
LiLiCo「それによって、お互いに本当の自分に出会ったのかも。自分自身の中に、いろいろ向き合えなかった部分があったのかもしれないけれど、相手と出会うことで自分を見つけることができたのかなぁ、と感じました。それで、あの絵がすごくよくて」

河合「ほしくなりますよね」
LiLiCo「買いたい。私、ライオンが結婚指輪を渡している絵がほしい……」
田村「あれは光さんのものだから!」
全員 (笑)
▶▶2人にとって“超多様性”とは?
光「安心して生きられることだと思っています」

光「人はひとりひとり、苦手なことと得意なことは違っているから、それを話し合える環境があれば、みんなが安心できれば、フラットに生きられればいいなと思っています」
弥加「ほっとくことですね」

弥加「(相手を)理解しようという思いが強すぎて距離が近くなるほど、見えないところが増えるので。ちょっと遠くから見たほうが客観視できるし、助け合えるのかなと思っています。近寄りすぎず、遠すぎず、お互いに『ほっておく』みたいな」
田村「なるほど、愛のある『ほっとく』ですね」
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