どうも、朝ドラ見るるです!

祝☆お父さん無罪! いや〜〜〜よかった! まさか朝ドラの主人公のお父さんが、こんな大事件に巻き込まれるなんて思わないもん、めちゃくちゃハラハラしたよ……! トラコ(とも)やみんなの頑張りも報われてよかった〜!(泣)

しかし、大物政治家の陰謀、怖すぎる。急に別のドラマが始まったかと思った。でも、裁判で判事を務めた桂場さんも言ってたけど、「法を司る」ってことは、こういう大きな力にも屈さない、強い意志が必要……ということでもあるんですね。

というか、桂場さん、大活躍でした! ただの嫌味な甘党判事じゃなかったんですね〜。あと、穂高先生と桂場さんがお酒をみ交わすシーン、なんか、いいです。年は離れているけど同志っていう感じ。見るる、そういうの、好きです(←なんの告白だ)。

さて、それにしたって、この“共亜事件”……実際にあった事件なのかな? 寅子のモデルであるぶちよしさんのご家族が巻き込まれた、みたいなことも史実なの? う〜ん、気になる!

というわけで、さっそくお話をお聞きしてきましたよ。NHK解説委員の清永聡さん、今週もよろしくお願いします!

大物政治家による陰謀は本当にあった! 元になっているのは「帝人事件」

見るる 清永さん、今回もよろしくお願いします! 今週は、調査パートあり、法廷パートありで盛りだくさんでしたね。

清永さん ええ、そうですね。私も見ていてワクワクしてしまいました。それで、みなさんも気になっていると思うので先にお伝えしますが、この共亜事件、実はモデルとなる事件が存在するんですよ。

見るる き、清永さんがさっそく需要を理解してくださっている! お話が早くて助かります……! やっぱり、第2週の着物の事件と同じく、似たような事件があったんですね?

清永さん ええ。「ていじん事件」と呼ばれた事件です。1934(昭和9)年に起こった、ていこくじんぞうけん株式会社の株式売買をめぐる“疑獄事件”なんですよ。ただし、最初にはっきりとさせておきたいのは、三淵嘉子さんの父親の武藤貞雄さんは、この事件とは無関係です。この点はドラマの創作です。

見るる そうなんですね! よかった〜。ドラマの中の話だってわかってはいても、もしも三淵さんのお父様があんな目に遭われていたら……と思うと、やっぱりつらいですもん。それで、清永さん、その “ギゴク事件”というのは、どういう意味なんでしょうか?

清永さん 疑獄事件とは、犯罪事実があいまいではっきりせず、有罪か無罪か、見極めの難しい事件のことです。特に日本を揺るがすような大規模な事件で使われることが多いようです。

見るる なるほど。たしかに、ドラマでも「内閣総辞職」って言ってたし、大ごとでしたよね。

清永さん そうです。そして、この事件は、いわゆるでっちあげの「えん罪」として現代ではほぼ評価が定まっています。一方で、“司法ファッショ”という言葉が広く使われた事件としても、知られています。

見るる 司法ファッション……? あ! あの法服の! ことでは……ないですよね、すみません。

清永さん ファッショは、“ファシズム”と同義語で、ここではファシズム的な傾向のことを指します。この場合は、時の権力者が司法と結びついていることを批判的に示す言葉です。

特定の政治権力が検察や裁判所と結びつけば、無実であろうとも気にくわない相手を逮捕・起訴して、有罪にすることもできてしまう。恐ろしいことですね。

実際に帝人事件では、1934(昭和9)年に斉藤内閣が総辞職に至っています。当時は1932(昭和7)年の血盟団事件、五・一五事件、1933(昭和8)年の神兵隊事件など、社会を大きく揺るがす事件が相次いでいました。そうした中で、政財官界の大物が次々と逮捕されていったのです。

ただし、帝人事件もドラマの中の共亜事件と同じように、最終的には起訴された全員が無罪になっています。つまり、最後の最後で、裁判所がなお機能していたことを示すことができたわけです。

国立公文書館蔵「帝人事件判決書」。
「被告人らはいずれも無罪」の文字が見える。

清永さん 帝人事件の一審判決で、主任裁判官だった石田かずは、「水中に月影をきくせんとするの類」という名文句を使って検察を厳しく批判しています。石田は戦後「とくしょく(汚職のこと)の事実も全く証拠のないばかりでなく、むしろ左様な事実の存在しないことの心証さえ得た次第である」と回想しています。

見るる その「水中に月影〜」って、ドラマの中にも出てきた言葉ですよね? つまり、でっちあげだったと言ってるわけで……まさにドラマみたいなことが、実際に起きていたんですね! 一方で、本当に怖いなって思います。

清永さん そうですね。振り返ってみれば、検察の捜査は、戦後もたびたび時の内閣を崩壊させてきました。

1954(昭和29)年の「造船疑獄」では吉田内閣が総辞職しました。また、1988(昭和63年)から1989(平成元)年にかけては「リクルート事件」をきっかけに政治不信が高まり、竹下内閣が総辞職しました。

検察の捜査はこのように極めて強い力を持つだけに、常に求められるのは「不偏不党」なんです。

海外の国には、今もなお、国のトップを批判した人が投獄されたり、有罪になったりする事例はいくつもあります。ニュースなどで聞いたことがある人もいるでしょう。そう考えると、三権分立による司法権の独立が、いかに大切か。そして“司法ファッショ”がどれほど恐ろしいことか。今なお、重い教訓を持つことがわかると思います。

見るる 「三権分立」──国会(立法権)、内閣(行政権)、裁判所(司法権)ですよね。ふだんはあまり意識しないですけど、今回、トラコの立場になって考えてみたら……それが崩れた状態っていうのが、どれくらい怖いことなのか、よ〜くわかりました!

 

ところで三淵嘉子さんのお父さんはどんな人?

見るる それにしても、三淵さんのお父様、実際には帝人事件とは関わりがなかったのに、どうしてああいうストーリーになったんでしょうか? 何か理由があるんですか?

清永さん さきほども述べたとおり、三淵さんの父・武藤貞雄さんは、帝人事件には全く関係がありません。ただ帝人事件は、台湾銀行の債務整理に絡んだ事件です。

予審を経て東京地裁で審理された16人のうちには、台湾銀行の頭取や理事なども含まれていました。三淵嘉子さんのお父さんは、同じ台湾銀行に勤めていたので、そこからドラマとして連想したのだと思います。

また、ドラマの事件では、容疑を認めないと身柄の拘束がなかなか解かれない、いわゆる“人質司法”の問題など、現代の刑事司法につながる内容も盛り込まれています。

見るる そう! あれは怖かったです。「容疑を認めないと家に帰れない」って言われたら、自分ならどうするだろう? って考えちゃいました。そして、三淵さんのお父様も銀行員だったんですか! じゃあ、お父様の職場が関係していた事件だったんですね。なるほど納得です〜。

清永さん 貞雄さんは、東京帝国大学の法学部を出て、台湾銀行に就職。海外支店にも赴任していたエリートです。お写真を拝見すると、ロイドメガネにチョビひげを生やした、ちょっとユーモラスな雰囲気の方でしたね。三淵さんの丸顔は、お父さん譲りかもしれません。

そして、貞雄さんの海外赴任に伴って、一家がシンガポールに滞在している最中に生まれたのが、嘉子さん。前にもお伝えしましたが、「嘉」の字は、シンガポールの漢字名「新嘉坡」が由来なんですよ。

三淵嘉子さんの家族写真。上段に立つのが、父・武藤貞雄、母・ノブ。右端が嘉子。下段は左から武藤家三男・晟造せいぞう、次男・輝彦、長男・一郎、嘉子の最初の夫の和田芳夫、四男・泰夫(写真提供/武藤泰夫氏)。

見るる じゃあ、三淵さんは子どもの頃はずっと海外で暮らしていたんですか?

清永さん いえ、貞雄さんはシンガポールのあとニューヨークに転勤になるのですが、嘉子さんは母・ノブさんとともに、実家がある香川県丸亀市で暮らしています。それから貞雄さんが帰国して東京勤務になったころ、一家で麻布に引っ越しています。一番長く暮らした場所は、現在の港区西麻布ですね。

私、古い地籍図から自宅のあった場所を特定して現場を訪ねたことがありますが、今は駐車場になっています。ただ、自宅前の道路などの区画は戦前から変わっていません。ちょうどドラマに出てくる自宅前のような光景だったとみられます。

「虎に翼」セットの猪爪家外観。木造2階建ての立派な家屋。

見るる 麻布! 高級住宅地じゃないですか。そういえば、トラコのおうちもかなり立派ですよね。ちなみに貞雄さんも、トラコのお父さんみたいに、優しい、娘思いなお父様だったんでしょうか? あと、ちょっと頼りないところがあったとか?

清永さん いえ、実際の貞雄さんは、かなりしっかりした男性でした。当時としては進歩的な方だったようですね。海外赴任が長かったこともあり、「男性と同じように女性も政治や経済を理解し、仕事を持つべきだ」という考えがあったようです。それで、嘉子さんに、医者か弁護士になることを勧めたのだとか。しかし、嘉子さんは「血を見るとこわくなっちゃう」ため、弁護士を選んだそうです。

見るる 理由がちょっとかわいい(笑)。でも、そのおかげで嘉子さんが法律の道に進むことを選んだなら、やっぱりすごい。当時、女性がその道を進むには、周囲の協力や理解が絶対に必要ですもんね。

清永さん そうですね。ただ、お母さんのノブさんは、嘉子さんが明治大学専門部女子部に進むことが決まったとき、「これでお嫁に行けなくなった」と泣いてしまったらしいですよ。そのノブさんが法事で丸亀に帰っている間に、進学を決めたといいますから、ここは寅子と同じですね。

参考:石田和外『子々孫々』、『今村力三郎訴訟記録第二十九巻 帝人事件の裁判の経緯と争点』

※清永解説委員が出演する「みみより!解説」では、定期的に「虎に翼」にまつわる解説を放送します。番組公式サイトでも記事が読めます。
2024年4月22日放送の『みみより!解説「虎に翼」解説(2)にぎやかな法廷と「権利の濫用」』はこちらから(NHK公式サイトに移ります)。


次週!

第6週「女の一念、岩をも通す?」5月6日(月)〜5月11日(土)

意味:《女の執念が深いことのたとえ。》(小学館『デジタル大辞泉』より)

寅子、ついに大学卒業⁉︎ 時の流れ早くない⁉︎ 大学編終わっちゃうの、寂しい〜。

法改正が行われ、ついに女子も司法試験を受けられるように。トラコ、目標の一発合格はできるのか? というか、優三さん、何度目かの正直なるか? ほかのみんなは……? うう、ドキドキドキ! みんな、がんばれ〜! テレビのこっちから応援してる!

というわけで、今週の「トラつば」復習はここまで。
来週の先生方の講義も、お楽しみに〜!!

清永聡(きよなが・さとし)
NHK解説委員。1970年生まれ。社会部記者として司法クラブで最高裁判所などを担当。司法クラブキャップ、社会部副部長などを経て現職。著書に、『家庭裁判所物語』『三淵嘉子と家庭裁判所』(ともに日本評論社)など。「虎に翼」では取材担当として制作に参加。

取材・文/朝ドラ見るる イラスト/青井亜衣

"朝ドラ"を見るのが日課の覆面ライター、朝ドラ見る子の妹にして、ただいまライター修行中! 20代、いわゆるZ世代。若干(かなり!)オタク気質なところあり。
両親(60&70代・シニア夫婦)と姉(30代・本職ライター)と一緒に、朝ドラを見た感想を話し合うのが好き。